039 カラスの剣
騎士団を助けた謝礼として、1,500万エンもの価値がある剣を差し出されてしまいました。見間違いではないですよね? もう一度鑑定プレートを確認してみましょう。
【ツバメの剣 希少 1,500万エン 攻撃速度x1.2】
やっぱり見間違いではありません。何度見ても1,500万エンです!
「あ、あの、これでは足りませんでしょうか? 一応ダンジョン産の希少な剣ですので、魔石よりかは価値があるはずです……」
「あー、いやー、なんと言いましょうか……」
なんと返答したら良いのか困ってしまいます。素直に魔石を渡していれば、いくら10匹以上の大鬼といえども、その魔石の価値は100万エンくらいでしょう。それが貴族様が変なことを言ったために、その10倍以上の希少な剣を差し出す羽目になっちゃうとは……
「私の剣も謝礼として出しますので、なにとぞこれで納めてください!」
後ろで見ていた騎士の方も剣を差し出してきちゃいました。
「お前まで出さなくても……」
「なにをおっしゃいますか隊長! ここは最大限の誠意を示さないと……」
この方が隊長ってことは、先ほどの貴族様は隊長ではありませんでしたね。さすがに貴族様が隊長程度の役職ではないのでしょう。先ほどは貴族様を隊長と言ってた気がしましたが、この隊長さんはあの貴族様の正体を隠蔽したかったのでしょう。
それにしても、この騎士団の方々のおびえは相当です。僕らはどちらかというと幼い少年少女に見えるでしょうから、そんなにおびえなくても良いと思います。
いや、人畜無害に見える少年一人と、とびきりの美少女二人の組み合わせなのに、魔物が活性化しているこの道を平気で通り、さらに一人の美少女が10匹以上いた大鬼をあっという間に討伐したというのが、余計に不気味に感じられる原因なのかもしれません。
これがムキムキマッチョな冒険者であれば、圧倒的な強さも納得でき、理解の範疇でそれほどおびえられることもなかったはずです。理解不能な強さって、恐いのかもです。
「この死んじゃった人の剣で充分ニャ」
クロは魔物と戦って死亡した騎士団員が使っていたと思わしき剣を拾いました。見た感じは地味な剣なので、それほど希少な感じはしません。
「た、隊長……」
「ああ、やつの遺族には、剣は折れていたと伝えよう……」
周りにいた騎士団の方々もうんうんと頷いています。通常は遺族に遺品を返却するのかもしれませんが、ここは死人に口なし、アリバイ工作が一瞬で完了したようです。
別の騎士団の方がこの剣の鞘を持ってきてくれました。黒くてなかなか渋い鞘です。
クロは早速もらった剣をものすごい速さで振り回しては、満足そうに微笑んでいます。その超高レベルな剣さばきにも、騎士団の方は少し引いている感じです。
「そ、それでは、本日は、わ、我々を助けていただき、誠にありがとう、ご、ございました」
「いや、僕らも立派な謝礼をもらったので、お互い様です」
「で、その、今回のことで剣を入手したことについては……」
「はい、秘密にしておきます。それほど目立つ感じの剣ではないですし、普通に使っている分にはなんとも思われないでしょう」
「は、はい、ありがとうございます!」
騎士団の方々とは気持ちよく別れることができました。もらった剣については、クロがうれしそうに眺めています。今回の魔物は全てシロが討伐したけど、その前にもらった立派な槍はシロのものになったので、問題は無いでしょう。
「この剣は、なかなか良い剣ニャ!」
「そうなの? なんか地味な感じがするけど……」
「この地味な感じが忍者向きニャ」
まだクロの忍者設定が生きているようです……
でも確かによく見ると渋みがあって高級感があります。鑑定してみましょう。 鑑定!
【カラスの剣 希少 5,000万エン 攻撃範囲x1.2 攻撃速度x1.1】
あれれ…… 隊長さんが差し出した剣が1,500万エンだったので、その3倍以上の価値がある剣でした……
「カラスの剣…… 渋い名前ニャ。クロの目は確かだったニャ! 早くこの剣の威力を試してみたいニャ! 次の魔物はクロの番ニャ!」
「さすがに5,000万エンはもらいすぎかな? 引き返して返しに行こうか?」
「たぶん引き返したら向こうはパニックになるニャ。さっきの騎士団員達はものすごくおびえていたニャ。このまま死亡した騎士の剣をもらっておくのがお互いにとって良いことニャ」
「そんなにおびえなくても良いのにね……」
「清楚なお嬢様にしか見えない美少女冒険者のシロが、希少な槍を豪快に振り回して魔物をあっという間に討伐し、護衛対象の商人がとびきりの美少年のマサトで、正当防衛されてもしょうが無い状況でにっこり微笑まれて魅了されそうになり、もう一人の妹系美少女猫獣人クロもものすごい剣技を繰り出していたので、わけわからなくて恐く感じるのも当然ニャ!」
相変わらずクロの言動は突っ込みどころ満載な気がしますが、一つ言えることは、『ものすごい剣技を繰り出す』ってのはわざとやっていたということが判明しました。クロって気ままに行動しているように見えて、色々考えているようです。
「この剣を見たときにはビビっときたニャ。文句を言わせないように、クロにふさわしい剣だとアピールしたニャ」
色々考えていると言うよりは、欲望に忠実なだけだったり……
ハクエイ町に戻って大通りを進んでいると、昨晩泊まった宿屋の女将にばったり出会いました。
女将は僕が宿を出る際に清掃魔法を部屋に掛けたことに感謝してくれて、昼食をごちそうになっちゃいました。その際にお酒が売り切れて戻ってきたことを伝えると、宿で使っている酒屋を紹介してもらいました。僕が今朝お酒を購入したのは、早朝から開いている冒険者向けのお店だったので、酒屋の方がいろんなお酒を安く購入できそうです。
昼食後に紹介いただいた酒屋に行くと、さすがに専門店だけあって、沢山のお酒が並んでいました。沢山と言ってもほとんどがワインです。ビールとかウイスキーとかは、この世界にはまだ無いのかな? エールというのがビールっぽい感じですが、お酒は飲んだことがないのでよくわかりません。エールは単価が低いし、あちこちで作られているようなので、商いの対象外としました。
鑑定魔法を使ってコスパが良さそうなお酒を3種類選んで、大量購入しました。安いワインと、普通のワインと、少しお高いワインです。たくさん購入したので、結構安くしてくれました。これだけ買っておけば、当面はお酒を仕入れいる必要は無いでしょう。
今朝は瓶入のお酒しか仕入れませんでしたが、今回は樽入のお酒を中心に仕入れました。先ほどの村では瓶入のお酒を売ったのですが、この世界では瓶もけっこう高価なので、容器は客が各自持ってきて樽から量り売りするのが基本のようです。
量り売りする際の計量は、科学技術が一般的な中世ファンタジー小説やゲーム世界と同レベルのこの世界では、古典的な形状の天秤が使われそうな感じがしますが、なんと電子天秤っぽい物が使われています。
実際には『魔導天秤』と言われるもので、主にダンジョンから産出される魔導具です。ごまかしが効かず、ほとんど故障せず、魔石さえ入れれば半永久的に使える優れものです。
僕は鑑定魔法で計量もできるのですが、行商人の必需品として10キログラムまで測れるものと、100キログラムまで測れるものの2台を、それぞれ10万エンと20万エンで別途購入しておきました。
ちなみにこの付近のお酒の名産地は、ここから東に200キロメートルくらい先にあるそうです。僕らは東の遠い国から来たという設定にしたので、これから進む先は基本的に西となります。東の名産品であれば、西に進むほど高く売れるようになるはずなので、大量購入は正しい選択でしょう。まだ資金も収納魔法も余裕があるので、よさそげな物はどんどん買っていきましょう!
お酒の味もわからず行商するのは問題があるかもしれないので、今夜あたりにすこし呑んでみようかな……




