270 おかわり
ジグラード騎士団が冒険者ギルドの中に去って行ったので、解放された僕等は明日の飛行船の予約をするため飛行場に行きました。ダンジョン街道での飛行船運行が1台のみだと、ウェポンダンジョンがあるこのティルム王国飛行場からサニミ市方面に向かう便は4日に1便しか設定できませんが、なんと飛行船は4台に増便されていたため、毎朝サニミ市行きの便がありました。アケミ航空の輸送力増強スピードはかなりのものです!
「明朝の便があって良かったですわ」
「なかったら明日もダンジョンに入れたニャ……」
「マサト様の瞬間移動魔法を使えば、いつでも好きなときにゴールドゴーレム狩りをすることができます。今は面倒な連中がいるので、まずはこの国を速やかに出るのが良いでしょう」
シロにとって、ここのダンジョンに来るのはゴールドゴーレムを討伐するのが最大の目的のようです。たぶん魔王よりも手強い最強の魔物なのに、まるで裏の林にタケノコを取りに行くような感覚で話をしている感じです(笑)
宿泊は前回も泊まった『覇道ホテル』にしました。結構値が張りますが、設備も料理もこの国で断トツのレベルにあるので、きつねのしっぽ亭に慣れてしまった僕等には他の選択肢がありません……
超絶美味な料理と豪華なお部屋の1泊2食で満足した僕等がホテルを出ると、その気分を一気に下げる連中が待ち構えていました。
「ガネラン隊が見つからないのは、お前らが悪さをしたのが原因のはずだ! 何をやらかしたのか、正直に言え!」
昨日のジグラード騎士団の女性が僕等の前に立ちはだかっています。とりえず、ますはこの女性騎士を鑑定しておきましょう。 鑑定(1)!
【豹獣人 ネイラ 女 28歳 レベル69 騎士団 正当防衛】
昨日のガネランさんほどではありませんが、やはりレベルはすごく高いです! そして僕等の通行を2回も妨害していることで、すでに正当防衛の黄色い文字がステータスに表示されていました。
「道を塞がんといてや」
ネイラさんに対してペガは相変わらずの塩対応です……
「ガネラン隊も昨日からお前らを探していたはずだ! それが行方不明になっているのは、お前らが関係しているんだろう?」
ネイラさんの指摘は正しいのですが、それに真っ正直に答える義務は僕等にはありません。
「ウチらが怪しいと思うんなら、鑑定でもしてみればええやん。ほんで黄色うなっとったら文句を付けに来てや」
昨日は先にガネラン隊が喧嘩を売ってきたので、僕等がやったことは正当防衛であり、よって僕等のステータスに『正当防衛』の黄色い文字は発生していません。ペガはそれを知っているので、堂々と鑑定をするようにとネイラさんに要求をしました。
「よし、鑑定を!」
ネイラさんの命令を受けて、後ろにいた騎士団の男が鑑定機をペガに向けました。
【鑑定不能】
匿名のマントをフードまですっぽり被っていると、有効な鑑定結果は一切表示されません。しかし、黄色や赤い文字まで隠蔽はできないはずです。それだけ犯罪には厳しいルールがこの世界にはあるのです。
「お前が匿名のマントを着ているせいで、正当防衛の文字が見えなくなっているじゃないか! まずはそのマントを脱げ!」
まあ、その可能性を考えるのは当然ですよね……
「匿名のマントで黄色や赤いステータスを消すのは不可能やで」
「それを証明するためにも、まずはマントを脱いでみせろ!」
「……それで本当に黄色くなってなかったら、どう落とし前を付けるんや?」
わざわざ着ている匿名のマントを脱がすのだから、もし僕等が無実だった場合の補償は必要ですね……
「いや、絶対お前らはなんかやらかしているんだ! そんなことはあり得ない!」
「ほな、匿名のマントが黄色文字を隠蔽できないってことがわかったら、100億エン払ってもらおか?」
100億エンって昨日のガネランさんが現金で持っていた額ですね。ネイラさんもきっと同額を持っているとペガは予想したようです。
「100億!? ど、どこからそんな金額が出てきたんだ!」
それは昨日のガネランさんが…… なんてことは言えませんね(笑)
「絶対にあり得ないと確信しておるんなら、いくらでもええんちゃう?」
そう言いながらも、ペガの身長が徐々に伸びていることに気付きました。これはもしかして、ペガは大人モードになってその正体をさらすつもりなのでしょう。普段のペガは幼女モードなので、大人モードのペガの姿をさらしても、誰も同一人物だとは思われないでしょう。しかし、大人モードのペガの姿が公に見れなくなってしまうのはダメです! なにしろあの大きいおっぱい…… じゃなかった、大人の女性の姿は貴重なのです!
「……よし! その賭けに乗ったぞ! もしお前のステータスが黄色かったら、我々のいうことには素直に従って貰うぞ!」
賭けが成立してしまいました。100億エンがもらえるとしても、大人モードのペガの姿が封印されてしまうのは防ぎたいです…… そうだ!
「それじゃ、あんさんのステータスで検証や。鑑定!」
僕はペガの前に出て、ネイラさんの鑑定をしました。
【豹獣人 ネイラ 女 28歳 レベル69 騎士団 正当防衛】
「なっ!」
いきなり詠唱省略で鑑定をされると、ほとんどの人にものすごく驚かれますね。驚いているネイラさんにたたみかけるように、予備の匿名のマントを差し出します。色はもちろん赤色ではなく、白色のマントにしておきました。
「あんさんがこの匿名のマントを着たら、正当防衛の文字が見えんようになるっちゅーのが、あんさんの言い分やね?」
これでペガがマントを脱ぐ必要がなくなりました。匿名のマントを着た状態のネイラさんの鑑定結果で、正当防衛が表示されたら賭けは僕等の勝ち、表示されなかったらネイラさんの勝ちです。まあ、表示されることは判っているのですが……
「このマントと、この女が着ているマントの鑑定を!」
ネイラさんは部下にマントの鑑定を命じました。匿名のマントはそれを着ている人のステータスは隠蔽できますが、マント自体の正体を隠蔽することはできません。よって鑑定機によってすぐに結果は出て、当然のごとく両方とも本物の匿名のマントであることが証明されました。鑑定機や鑑定魔法を妨害する手段はこの匿名のマントの効果としてありますが、嘘の結果を表示させる手段はないというのがこの世界の常識なのです。まあ、僕の高いレベルの鑑定魔法なら偽装ができちゃうのですが、過去にそのレベルに達した鑑定魔法使いはいなかったようなので……
「よし…… それじゃあ、マントをよこせ!」
ネイラさんは僕からひったくるようにマントを受取り、すぐに着てくれました。
【豹獣人 ネイラ 詳細不明 正当防衛】
先ほど僕が鑑定した結果は消していませんが、匿名のマントによってその内容が変化しています。年齢やレベルなどは鑑定できなくなっていますが、正当防衛の文字はやはり表示されたままです。
「黄色は消えはりませんな(笑)」
ペガが嘲笑しながら指摘しました。
「う、うるさい! まだフードを被ってないだろう!」
【鑑定不能 正当防衛】
ネイラさんが頭までフードを被ると名前までも鑑定できなくなりましたが、それでも正当防衛の文字は消えませんでした。つまり、賭けは僕等の勝ちです。
「決まりやね。おとなしゅう100億エン払うか、それともウチらに正当防衛されるんか?」
ペガの発言に後方にいた騎士団の人達は色めき立ちましたが、それをネイラさんは手で制しました。今回も周りにはたくさんの野次馬が集まっていますので、さすがの自称『最強戦闘国家ジグラード騎士団』といえども、あまりに理不尽な逆ギレはできないと判断してくれたようです。まあ、自制ができずに襲いかかってきたとしても、シロとクロとで瞬殺の正当防衛をされちゃうだけですが……
ネイラさんは素直に100億エンを僕に手渡し、匿名のマントも返却してくれてから冒険者ギルド方面へ去って行きました。その背中には哀愁が漂っていましたが、まあ自業自得というやつでしょう……