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213 グララ町の異変

 冒険者ギルド2階の応接室を出たあとは、すぐに1階のベイシックダンジョン入口に向かいました。今回もギルド長さんからダンジョン入場料は免除して貰えました。ダンジョン1階層はたくさんの冒険者達がいるのですが、宝箱のない方向に進めば人気が無くなりますので、そこから瞬間移動して東への旅の続きを再開します。

 ワインの産地プゴル村から東に進んだ先の宿場町が前回までの到達点でしたが、しばらくは特に特徴の無い村が続きますので、街道の上空を飛行して3つの村をパスし、ポンタロウさんにパンがおいしいと教えてもらった店のあるグララ町の近くから地上走行を開始します。もちろん飛行中にルージュカルテットから行商人一行に変身は済ませています。

 グララ町周辺はパンがおいしい店があるだけあり、小麦畑が広がっています。しかし、小麦が刈り取り時期を過ぎても残されているような気がします。何か問題があったのでしょうか?


「前方に子鬼がいるニャ! 氷弾!」

「火の玉!」

「氷弾!」


 なんと街道に魔物が出てきました。子鬼が3匹だけだったので、すぐにクロ、シロ、ペガの魔法で討伐されましたが、町の近くのそこそこ通行量のある道に魔物が出てくるとはちょっと驚きです。もしかして魔物が道にまで出てくるようになったために、小麦の収穫が進まなかったのでしょうか? すれ違う荷馬車をよく見ると、通常よりも多くの冒険者が護衛に付いているようにも感じられます。



 グララ町は塀に囲まれており、門には衛兵さんが鑑定機を持って待ち構えていました。鑑定されるとやはり僕等のレベルの高さに驚かれ、少し話をしたいと詰め所に招待されますが……


「我々はマサト様の護衛中です。他の仕事をする予定はありません」


 シロが衛兵さんの誘いをきっぱりと断ってくれました。無理に引き留めるとステータスに『正当防衛』の表示がされるおそれがあるので、衛兵さん達は僕等4人の入町税と荷馬車の関税を受け取ると、素直に門を通してくれます。


「先ほどの小麦畑の様子や子鬼の出現に関連して、衛兵はわたくしたちに依頼したいことがあったようですわね……」


 やはりペガにも思うところがあったようです。


「街道の治安は税金をとっている領主の務めニャ。ここのガミサ領はその点でだらしない印象だニャ」


 以前にハクエイ町付近でガミサ領騎士団が大鬼の群れに襲われているところを、僕等で助けたことがありましたね…… 同じミルミ王国でも、ルーモイ領やサミニ領とは治安維持の達成度が違うのでしょうか? 騎士団が定期的に街道付近の森に入って、ある程度の魔物を間引かないと、街道にまで魔物が出現するようになってしまうそうです。

 門から入ってそのまま大通りを進んでいると、ポンタロウさんから教えてもらったパン屋さん『小麦の恵み』を見つけることができました。店の前で馬車を降り、中に入ろうとすると準備中のプレートが扉に下げられていました。


「もう営業終了の時間なのかな?」


「まだ15時くらいなので、夕食用の買い物にお客がたくさん来る時間ですわ」


 僕の疑問にペガが答えてくれました。たしかにこれからがパン屋さんのかき入れ時ですよね……


「パンがおいしいと評判の店でしたので、もう売り切れてしまったのかもしれません。せっかくマサト様が買い物に来たというのに……」


 シロの言うとおり、残念ながら買いに来るのが遅かったのかもしれませんね。


「おや、見ない顔だがお客さんですか?」


 僕等が扉の前で立ち尽くしていると、恰幅の良い中年男性がやってきて話しかけてきました。馬獣人でエプロンを身につけています。僕等のことをお客さんと言ってるので、この店の関係者でしょうか?

 話をしてみたところ、この男性はやはりこのパン屋『小麦の恵み』の店主さんでした。そして閉店になっている理由を聞いてみたところ、なんと材料の小麦を手に入れることができず、パンを作ることができなくなっているとのことでした。どうやら最近は魔物がグララ町周辺にも頻繁に現れるようになってしまい、小麦の刈り取りが(とどこお)っているようです。僕等にとって小麦は主力商品なので、明朝に焼きたてのパンを大量購入させてもらうことを条件に、多くの小麦粉をお店に卸しました。ついでに塩や砂糖なども買ってくれました。それにしても、小麦の産地に小麦粉を販売するなんて、珍しい経験ができちゃいました。

 ついでにこの町の状況などもヒアリングしてみましたが、どうやらこのガミサ領は2年ほど前に領主が代替わりしてから、騎士団の働きが悪くなってしまい、魔物の間引きがうまくできなくなったようです。さらに2週間前くらいから特に魔物が畑にも多く出現するようになり、収穫時期を迎えた多くの小麦が刈り取られずに残されてしまっているとのことでした。そのため小麦粉も高騰しており、このお店も仕入れがほとんどできずに開店休業状態になっていたようです。


「難しい顔をしているニャ。何か気になることでもあるのかニャ?」


 再び馬車に乗って町の中心部に向かっている僕に対して、クロが質問をしてきました。


「2週間前と言えば、勇者選定が行われた少し後だね。もしかしてこの地にも魔人が暗躍しているのかも……」


「魔人が穀倉地帯を荒らして魔王軍の行動を後方から支援するのは、充分に考えられることですわ」


 ペガも僕の懸念する可能性には賛成のようです。


「とりあえず冒険者ギルドに行って、詳しい話を聞いてみましょうか?」


「そんなことしたら、面倒くさい仕事を頼まれるだけニャ」


 シロの提案は即座にクロが反対しますが、でも困っている人達がたくさん居るのであれば、助けてあげたいという気持ちはあります。まあ、ガミサ領騎士団にはあまり良い印象はありませんし、それに目立つ行動もしたくはないのですが……


「ものすごく大量の魔物を討伐する仕事が振られる可能性が高いですわね。まあ、面倒くさい魔物討伐はマサト殿やシロ殿に任せて、クロはパン屋が紹介してくれた宿でゆっくり待っていればよろしいですわ」


「ニャニャ!? 大量の魔物討伐は面倒くさくはないニャ! クロも頑張って無双するニャ!」


 クロはかなり面倒臭がりですが、魔物討伐は大好物です。ペガにうまく乗せられてしまいました。どうやら冒険者ギルドに行って話を聞くことが決定されたようです……



 大通りを進んでいると、すぐに冒険者ギルドが見つかりました。大きな町にふさわしく、立派な建屋です。馬車にペガを残してギルドにはいると、中は閑散としていました。受付に向かうと、最初はまだまだ若い僕等3人組に対して『なんだこいつらは?』とでも言いたげな視線を向けていた受付のおじさんでしたが、すぐに僕等の胸に光る金色の冒険者証に気付いたようで、すぐに態度を変えて笑顔を向けてきました。まあ、若干引きつった笑顔にも見えましたが……


「やあ、これは旅の冒険者殿ですかな? ぜひこの町の状況などを詳しくお聞かせしたいので、ぜひ応接室まで来ていただけませんでしょうか?」


「やっぱり面倒くさいことを頼まれる予感がするニャ……」


 クロがぼそっと独り言を言いましたが、受付のおじさんの引きつった笑顔からして、僕も同感ですね……




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