114 デイルさんの瞬間移動
セイバスさんとの魔石の取り引きは昼前に終わったので、お城で昼食を取っていかないかとのお誘いを受けましたが、さっくりと断って急いでトリマ村のきつねのしっぽ亭に戻ってきました。クミさんがきつねのしっぽ亭で働き始めたことで、お城の昼食よりもきつねのしっぽ亭の昼食の方がおいしくなってしまいました。それにこの昼食を最後に当面きつねのしっぽ亭での食事が出来なくなります。
そんなわけで、いつもならわりとお手軽メニューな昼食ではありましたが、今回は豪勢な料理が出てきました。どれもとてもおいしかったです。しばらくはきつねのしっぽ亭には戻ってこない予定なので、久しぶりにユキちゃんにも存分に特別魔法を掛けておきました。前回から11日ぶりでしたので、そのくらいの期間はバフが継続するようです。次にここに戻ってくるのは2週間後くらいになるでしょう。ちなみにこの世界の1週間は6日なので、12日ですね。
昼食後はユキちゃんやクミさんも連れて、昨日に引き続き森の中で魔物討伐&材木切り出し祭りです。ユキちゃんのレベルは3つ上がって35に、クミさんは7つも上がって30になっていました。だんだんとレベルが上がりづらくなってきていますが、シロやクロのサポートとバフの効果で、通常の冒険者では考えられない速さでレベルアップしています。
夕方になったので魔物討伐を切り上げ、きつねのしっぽ亭の正門前に移動します。フルーツ王のグースさんの商会へ、瞬間移動魔法使いのデイルさんに連れて行ってもらう約束を昨日したのでした。
「はあ…… たしかにここの夕食はすごかったな……」
デイルさんもクミさんが作る超絶美味な夕食を思い出して、ここを離れるのを後悔しているようです。
「残念ながらデイルさんの分の夕食は用意できないぞ。なにしろ延泊の申し込みが殺到して、宿泊も食事も枠がいっぱいで今さら追加は不可能だそうじゃ」
グースさんは落胆するデイルさんを見て、楽しそうに笑っています。
「まあ、2週間後に来たときには、もう一回夕食が楽しめるんだから良しとするか……」
グースさんは2週間の延泊をしたので、デイルさんは2週間後に再びこのトリマ村に瞬間移動してきて、翌日にグース夫妻を連れて瞬間移動で戻っていく予定なのでしょう。
「じつは2週間後のデイルさんの予約も取れなくて、残念ながらトリマ村の他の宿に泊まってもらうことになっているんじゃ……」
「えー! そりゃないですよグースさん! ちゃんと私の食事もグースさんと同等のレベルで用意するって話じゃないですか!」
「…… はぁはっはっはっ! その約束はちゃんと覚えておったか! まあその約束はわしも覚えておったから、ちゃんとデイルさんのぶんも予約しておるぞ!」
「冗談でしたが…… グースさんも人が悪い」
大の大人が食事についてあれこれ言い合っていますが、クミさんの料理にはそれだけの魅力がありますから、しょうがありません。
「デイル、さんはもうひとり瞬間移動で運べないのかニャ?」
グースさんの商会に瞬間移動で運んでもらうのは、僕とシロのふたりと決めましたが、クロはまだ諦めてはいなかったようです。
「残念ながら俺の魔力ではこの距離はふたりが精一杯だな…… しかし、明後日のこの宿の予約を取ってくれるのなら、明明後日に運んでやっても良いぞ。もちろん正規料金も頂くが……」
「じゃあいらないニャ!」
デイルさんはわりと本気で提案している感じでしたが、クロがあっさりと断ったので少し落胆しているようです。まあ、明日にはこっそり僕の瞬間移動魔法でトリマ村に戻ってくる予定なので、明明後日に運んでもらう意味がありませんからね(笑)
「そうか…… まあしょうがない。ぼちぼち行きますかね」
「おにーさん! 早く戻ってきてくださいです!」
デイルさんが出発を告げると、ユキちゃんが僕に抱き付いてきました。
「2週間以内には戻ってくるよ。クミさんと一緒にきつねのしっぽ亭で頑張ってね。またコルン商会や塩田もお願いするよ」
ユキちゃんの頭をなでながら返事をしました。いやー、相変わらずユキちゃんの耳は触り心地が良いですね……
「はいです!」
次はクミさんも前に出てきました。
「わたしもぉ、大将にもぉっと料理を習ってぇ、修練を積みますのでぇ、マサト様には早く戻ってきて欲しぃですぅ……」
「うん、とっても楽しみにしている。新しい食材とかもお土産に持ってくるつもりだから、お互い頑張っていこうね!」
「はぁいですぅ!」
「じゃあそろそろ行くぞ! 2人とも俺の体に触れてくれ」
瞬間移動魔法は直接体が触れていないと発動しないってことはありませんが、触れていた方がより楽に移動対象の把握ができます。かなり遠い距離の移動になりそうなので、なるべく負担は減らすべきでしょう。
どのくらいの距離でどのくらいの魔力を消費するのか把握したいので、デイルさんの鑑定をしておきましょう。鑑定(2)!
【人 デイル 男 40歳 レベル52 運輸】
体力 72/83
魔力 268/268
魔力は満タンまで戻っていますね。
デイルさんの詠唱が始まりました。呪文部分は小声なので、何を言っているのかはっきりとは聞き取れませんが、それなりに長い呪文のようです。
「瞬間移動!」
デイルさんの詠唱が完了した瞬間に、目の前の景色が変わりました。少し肌寒かった気温も上昇し、すこし蒸し暑い感じです。
まずはデイルさんのステータスを確認しましょう。
【人 デイル 男 40歳 レベル52 運輸】
体力 72/83
魔力 13/268
デイルさんの魔力は13しか残っていません。つまり魔力消費が255もあったということですね。本当にギリギリって感じです。もうひとり運ぶなんてことは到底無理でしょう。
次に現在地を確認しましょう。地図!
頭の中に地図が浮かんできました。行ったことがあるところの地名が表示されています。現在地がグースさんの商会があるオーキ町で、海をはさんで北にトリマ村がありました。その距離はなんとなく250キロメートルくらいあるように感じられます。250kmなら東京から浜松くらいでしょうか? この距離を一瞬で移動できるのだから、魔法って便利ですね!
「ふぅ…… よし! じゃあグース邸に入って夕食でもご馳走になろうか?」
僕等が立っているのは豪邸の前でした。もう17時くらいなので、今日は商談とかはなしで、グースさんの家で夕食をご馳走になり、泊めてもらう約束になっています。
デイルさんが大きな門の横にあるベルを鳴らすと、すぐに横にある小さな門が開き、いかにも執事って感じの壮年の男性が現れました。
「おや? ご主人様がおられないようですが、どういうことでしょうか、デイル様?」
「グースさんからは手紙を預かっているので、まずは読んでくれ」
執事さんは怪訝そうな顔で手紙を読み始めましたが、そのうち難しい顔になり、そして最後には僕に笑顔を向けて挨拶をしてきました。
「わたくしはグース家で執事をしておりますバスチャと申します。明日までのマサト様、シロ様の歓待を主人から仰せつかりましたので、どうぞごゆるりとお過ごしくださいませ」
バスチャさんは深々と頭を下げています。こんなに丁重に扱われるなんて、グースさんは僕のことをどんな風に手紙に書いたのでしょうか?




