113 現金化
ライガさんが僕等を先導してお城の中をどんどん進んでいきます。途中にあった門とか扉もライガさんの前では自動扉のように衛兵さん達が開けてくれましたので、ノンストップで進んでいけます。
ライガさんが豪華な扉の前で立ち止まり、近くを歩いていたメイドさんに声をかけます。
「セイバスの客人、マサト殿をお連れした。この部屋で待っているので、すぐにセイバスを呼んでくれ!」
そう言うとライガさんは部屋の扉を開けて中に入っていきました。僕等も続いて入っていった方が良いのかな? と逡巡していたら、クロがさっくりと続いて入っていきました。
「ライガ、さんも一緒に待つのかニャ?」
「案内してやったんだ。一緒に話を聞くくらい良いだろう?」
ライガさんと一緒に話を聞くのはどうかとは思いますが、セイバスさんがまずいと判断したら、セイバスさんから断ってくれるでしょう……
すぐに別のメイドさんがやってきて、紅茶とクッキーを僕等が座る机に置いていってくれました。紅茶のカップはライガさんのぶんもありますね……
「俺はクッキーはいらんので、お子様で分け合ってかまわんぞ!」
クロとペガとユキちゃんの目が机に置かれたクッキーに釘付けになっていたのを見つけ、ライガさんが紅茶を飲みながら意地悪そうに言います。
「それじゃあ遠慮せずにもらうニャ! ひとり4枚だニャ!」
クロはライガさんの皮肉を無視して、有りがたくライガさんのぶんも食べ尽くすつもりのようです。クッキーは全部で20枚で僕等は5人いますので、ライガさんが食べないのならちょうど1人4枚ですね。
僕等が紅茶とクッキーを堪能してしばらくすると、扉がノックされます。
「おう、入れ!」
すぐにライガさんがノックに返答します。ライガさんが主賓でしたっけ?
「お久しぶりですマサト様。突然およびだてして申し訳ありません」
「いやまあ、大丈夫ですよ。ソウヤさんのお役に立てることがあれば、僕も光栄です」
「おお、有り難いお言葉です……」
セイバスさんは少し大袈裟に驚いてくれました。いや、本当に感動しているようにも見えます。しかし、この後僕に依頼することを承諾してもらいやすくするために、あらかじめ感謝の意を表しているのかもしれませんね(笑)
「ライガ殿もここまでの案内ありがとうございました」
セイバスさんはライガさんに向き直ってお礼をし、退室を促すような動作をしました。
「俺も一緒にマサト殿へのお願いを聞いた方が良いだろう?」
「なぜでしょうか、ライガ殿?」
「セイバスのお願いはなんとなく想像が出来る。俺もマサト殿に一緒にお願いをしてやろう!」
「む…… どんなお願いだとお思いですか?」
「ふむ…… ソウヤ様が飛行船で王都に向かったが、その飛行船に使った魔石について王都の貴族達から問われたソウヤ様が、ルーモイ領自慢の騎士団で魔物狩りをして手に入れたと自慢してしまい、貴族達から魔石を売ってくれと言われて困っているのだろう?」
「ほう、まあ、だいたいあっていますね……」
「そうだろう、そうだろう……」
「しかし、騎士団で魔物狩りをして魔石を手に入れたと自慢してしまったのは、ソウヤ様ではなくサロム様です!」
「な、なんと!」
えーと、サロム様って確かソウヤさんのお兄さんで、前の代官様でしたね。ソウヤさんから魔石を1つ奪って飛行船を飛ばし、墜落させちゃった人です。さらにはガラキさんの前任の御用商人と組んで不正を働いていた疑惑もあるようです。
「はあ……」
ライガさんは頭を抱えて深いため息をついています。ライガさんはサロム様派のようですし、心底困っている感じです。
「このままではサロム様からライガ殿に、森に入って魔物狩りをして『レベル60以下の魔石』をたくさんとってくるようにとの命令が下されるでしょう」
コダダンジョンでライガさんと会った際には、ライガさんでも多数の狂い熊に囲まれたら危ないと言ってましたね。ライガさんクラスの高レベルな猛者があと2人くらいは欲しいと言ってた気がします。
「マサト殿! ソウヤ様も困っているはずだ! マサト殿達ならレベル60以下の魔石もまだたくさん持っているだろう? ぜひ譲ってくれ!」
ライガさんが僕の手を取り、真剣に懇願してきました。しかし、良い噂を聞かないソウヤさんのお兄さんを助ける必要があるのでしょうか?
「僕等もそんなにホイホイと高レベルな魔石をゲットできるほど、無茶苦茶な戦力があるわけではありませんよ」
とりあえず嘘をついてみました……
「ふふふ、そんな謙遜してもすぐにばれる嘘はやめた方が良い」
「なぜ嘘だと思うのですか?」
「じつはマサト殿とダンジョンで出会った翌日、なんとなく気になって再びコダダンジョンに行ってみたのだ。そして5階層で見たものはなんだと思う?」
コダダンジョンの5階層といえば広大な大空洞ですね。そこで僕等はすべての魔物を討伐しちゃったのでした。翌日ならまだ魔物がリポップしていない可能性が高いです。
「さあ、想像できませんね……」
とりあえずとぼけてみました。
「セイバスは何があったと思う?」
「さあ、わたくしには判りかねます」
ライガさんはなぜかセイバスさんにも尋ねますが、セイバスさんは少しも考えずに返答するだけでした。
「なんと! 大空洞には一匹の魔物もおらず、自由に通り抜けできる状態だったのだ!」
ライガさんが大袈裟に驚いた感じで言いました。そして、いつも冷静なイメージのあるセイバスさんも驚いて絶句しているようです。
「5階層の中ボスを倒し6階層に上がっても、すべての魔物がおらず、そしてすべての宝箱もなかった!」
「へー、凄腕の冒険者が来ていたんですね……」
とりあえずとぼけてみました……
「7階層も少し探索してみたが、同様にすべて空っぽだった!」
「そ、それが僕等となんの関連があるのですか?」
まだ状況証拠にもなっていませんよね? 僕等以外の凄腕冒険者が来ていて、ダンジョン産の生地をゲットしまくっていた可能性はまだまだあります。
「その後、コノー店長を訪ねたら、マサト殿からたくさんの上等なダンジョン産の生地を入手して、一世一代の大仕事をするんだと意気込んでいたぞ!」
あれ? コノー店長さんには口止めしていなかったかな? コノーさんは豪華な生地たちを前に興奮していたので、ライガさんにうまく誘導されてしまったのかもしれません……
「さらにダンジョンで会ったときに、そこの小さい少女が森の奥で狂い熊を狩りまくるのは楽勝だったとも言ってたな」
「え? そんなこと言ってましたでしょうか?」
さらにとぼけてみますが、たしかにベガはそんなことを言ってた気がします……
「93話だニャ……」
なんかクロが訳のわからないつぶやきをしていますが……
ここまで言われちゃったらしょうがありませんね……
「ふう…… まあコダダンジョンで僕等が何をしていたのかや、どうやって魔石を入手したのかとかは秘密ですが……」
これ以上突っ込まれないように予防線は張っておきましょう。そして、あくまでソウヤさんからの要望に応える形にするため、セイバスさんの方に向き直ります。
「ソウヤさんはいくつの魔石を必要としていますか?」
セイバスさんは今回の依頼の背景から語ってくれました。
ソウヤさんのお兄さんが余計な自慢をしたために、多くの貴族達が水面下でソウヤさんにも接触してきたようです。なぜ水面下なのかというと、他の貴族達の騎士団もルーモイ領騎士団に劣らない力を持っており、同様に森の中に入って魔物狩りが出来るんだという虚勢を張ってしまい、裏でこっそり魔石を譲って欲しいとの依頼が多発したようです。
実際にはルーモイ騎士団は王国内でも有数の戦力を抱えており、他の騎士団で同じことをするのは到底厳しいようです。というか、ルーモイ騎士団でも森の中に入って狂い熊を狩りまくるのは難しいとライガさんも言ってますし……
「それで、ソウヤ様も頑張って断ってはいたのですが、有力な公爵家や、さらには王家にまでお願いされてしまい、断り切れない依頼が何件かあるのです……」
なんと王家からも依頼されるとは! それに公爵家というのも貴族のトップですよね。ルーモイ領はたしか男爵家だったので、同じ貴族といっても格が違うのでしょう。
「無理矢理に前払いでお金を押しつけられてしまいましたので、残念ながらもう断ることが出来ません。全部で8つのレベル60以下の魔石にたいして、6.8億エンの対価を受け取ってしまいました。この6.8億をすべてお渡ししますので、どうか8つの魔石を準備いただけないでしょうか?」
セイバスさんは深々と頭を下げています。ライガさんをチラリと見ると、あわてたように頭を下げました。
6.8億エン! 僕にとっては目のくらむような金額です! クロもびっくりした顔をしていますし、シロも少し目を見開いています。これだけあれば、当分は商品の仕入れ資金には困らないでしょう。僕から魔石を入手したということは秘密にしてもらえば、問題は無いかな?
「僕から魔石を入手したとこうことは絶対に秘密にしてください」
「あ、ありがとうございます! もちろんマサト様にご迷惑はおかけしません! ライガ殿も口外は厳禁でお願いします」
「も、もちろん! 我がルーモイ領のために働いてくれるマサト殿には迷惑はかけん!」
「この件はサロム様にも秘密ですよ!」
ソウヤさんのお兄さんはどうやら信頼できそうにないので、僕等のことはライガさん経由で漏れるのも塞いでおきましょう。
「わ、わかった……」
「約束を違えてマサト様に迷惑をかけるのなら、この私が許しません! 絶対に秘密ですよ!」
「ああ……」
シロがライガさんに念押ししました。シロの迫力にライガさんもタジタジのようです……
「それでは約束通り、8つの魔石を出しましょう」
そういってレベル60以下の魔石を8つ出すと、セイバスさんやライガさんは固まってしまいました。すでに8つの魔石を持っているとは思われてなかったのかもしれません。もしくは、1つでも目を奪われる美しい魔石が8つも並んでいる壮観さに驚いているのでしょうか?
「あ、あ、ありがとうございます」
セイバスさんは恐る恐る魔石を魔法袋にしまっていきます。
「こちらがお約束の6.8億エンです」
代わりに取り出したのが、白金貨6枚と大金貨8枚です。白金貨は1枚で1億エンの価値があります。それはそれはまばゆいばかりの本物のオーラを放っています。トリマ村の塩田買収で億の取り引きはしましたが、魔石との交換だったので白金貨は初めて見ました。その存在感に動揺しちゃいそうですが、なんとか冷静に受け取って魔法袋に入れるふりをして収納魔法に入れました。
「それで…… もしさらに魔石が入手できましたら、また売っていただけるとありがたいのですが……」
ソウヤさんが僕のことを秘密にしてくれるのなら、魔石の現金化の窓口として僕もソウヤさんを利用しても良いのかな? きっとWin-Winの関係ってやつになるのでしょう。この世界では英語のWinは通用しませんね(笑)
「ではさらに10個の魔石を渡しておきますので、売却できたら代金をください。値段は、えーと、今回と同じ1つ8,500万エンとしましょうか? それより高く売れたらソウヤさんの利益にしてもらってかまいません」
さらに10個の魔石を取り出すと、セイバスさんやガラキさんは完全に固まってしまいました。僕がレベル60以下の魔石を18個も持っているなんて思ってもみなかったみたいです。ちょっとやり過ぎでしたでしょうか……
レベル60以下の魔石はまだ100個以上あるんですが、取り出して見せたら2人とも気絶しちゃうかもしれませんね……




