本当のヒーローは君だ
「愛してるよ」
そう、君に直接伝えたのは、いつだったろう。
「僕は悪者なんだ。僕なんかと一緒にいちゃ、いけないよ……」
君はいつも、そう言っていた。
でも、僕には君が悪者だなんて思えなかった。君は、優しかった。とても。
――あの日、僕は裏切られた。信じていた人に。
僕の、たった一人の仲間に……
それは、君と闘っていた時だった。
正義と悪。それは戦わなければいけない運命に立たされた者達。
君はいつも、哀しそうな顔をしていた。……でも、それは僕も同じだったのかもしれない。
――仲間がやられた。僕は
「下がって!」
そう言い、君の方に向かって腕を伸ばす。
と、僕の体は吹っ飛んだ。ダムッと地面に叩きつけられる。ゲホッと咳をすると……少し血が出た。
「ッ大丈夫⁉︎」
そう言った仲間が僕の方にすっ飛んできて、庇うように前に立つ。
「休んでて」
そう言った彼は剣を構え――
僕の方を向いた。
……何故?
僕は、気がつかなかった。彼が、僕を殺そうと企んでいたことを。
ああ、死ぬ。死んでしまう。
彼が、剣を振り下ろす。
スローモーションのような世界で、何もできずにそれを見つめる僕の視界に、何かが猛スピードで飛び込んだ。
――ガキィン……!
剣と剣がぶつかり合う凄まじい音がした。
夢の中から、一気に現実に引き戻されたような感覚がした。
「ッ……!」
君がいた。彼から僕をまもろうと、歯を食いしばって地面を踏みしめる君がいた。さっきまで、君との距離は遠かったはずなのに。
ギリリッと嫌な音がした。
――君は、彼を押し返した。
でも彼は、隠し持っていた短剣で君の腹部に致命傷を与えた。
――僕は……僕は、何もできなかった。
勝った君は、自分の方が大怪我をしているのにも関わらず
「大丈夫?」
と、ひとのことを心配した。その顔は、天使のように優しかった。
「ッ大丈夫……大丈夫だよ。君が、まもってくれたから……」
僕は、君を抱きしめた。僕の、ヒーローを。
「そっか……よかった……」
今にも消えてしまいそうな声でそう言った君は、僕のことを弱い力できゅっと抱き返した。
そして――君は、いなくなった。
――もう、声を聞くことも顔を見ることも出来ないのに。
ここに来れば、また会えるんじゃないかと思ってしまう。
僕に気がついた君が、ふっと笑って嬉しそうに手を振る……
そんな幻覚が見えてしまうほど、僕は……君のことを――
生まれ変わったら、また、君にあえるかな?
今度は、正義と悪なんて存在しない、そんな世界に生まれたい。
ただ君と笑っていられるだけで、それでいいから……
かなしい終わりになりましたが楽しく書けたのでよしとします。
主人公くんには来世で愛する人と幸せになってほしいですね。
読んでいただきありがとうございました。
表紙絵はこちらから。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=13556991