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閑話 カワウソ対カラス

 今、シュートはテスト期間中です。この時ばかりは、絶対に学校に行ってはダメだと厳命されました。

 仕方がありませんね。素直に頷いておくことにします。

 実は家でのんびりと読みたい本があるからとか、そんな理由ではありませんよ。シュートが解けないテストの問題を、バッグの中にいる賢いカワウソに教えてもらっているんじゃないかと先生に疑われたら困りますので。

 きゅい。


 ところでここ数日、気になっていることがあります。この家の玄関先に毎朝ゴミが置かれているのです。それは日によって小石だったり、木の枝だったりします。紙くずやペットボトルなんかではありませんが、不要なものですので、すなわちゴミですね。

 朝起きて一番にそのゴミを片付けるのが、ここ最近の私の仕事になっています。何しろ私がこの家で一番の早起きですから。

 落ちているのが紙くずならば家の中のごみ箱に捨てるんですが、石や木の枝ですから自然に返せばいいですよね。だから家には持って入らずに庭の隅に運ぶことにしました。今日は緑色の葉っぱが二枚付いた木の枝でした。

 やれやれ。


 お爺様は朝ごはんを食べてすぐにお友達の家に遊びに行きました。それからちょっとあと、シュートも学校に行くので玄関でお見送りします。

 !!

 何ということでしょう。

 玄関の前にまたゴミが!

 今度は石が置かれているではないですか。


「くああー」


 解は求められました。

 犯人はカラス、お前ですね!


 ◆◆◆


 石をゴミ置き場に持っていって、玄関に戻れば、今度は葉っぱが置いてあります。

 ぐぬぬ。

 これは私と根比べをしようという思惑ですね。

 いいでしょう。受けて立ちますとも!


 カラスがどこからかゴミを持ってきては、私が庭の隅のゴミ捨て場に運ぶ。その作業が何度繰り返されたことでしょう。これではエターナルです……。

 その時ふと、私の頭にひらめいたことがあります。口に木の枝を咥えたまま庭の真ん中で立ち上がって、遠くからゴミ捨て場を眺めてみました。

 ゴミ捨て場に積み上げられた石や木の山のあるあたりって、なんだか居心地がよさそうじゃないですか?

 ふむふむ。


 少し地面を掘ってみるのは、どうでしょうか。

 掘り掘り……。

 掘り掘り……。

 悪くありませんね。


 もう少し広げてみましょう。穴掘りは実は得意なのです。

 しばらくの間夢中で穴掘りをしていたら、中で少しだけゴロゴロできる素敵な空間ができました。贅沢を言わせてもらえるならば、本当はもっと湿気のある土が好みなのですがしかたがありません。ここはいうなれば別荘のようなもの。本邸(シュートの部屋)とは違うおもむきがあって、これはこれで良いのでしょう。


 きゅい。

 少し部屋を広げてみましょう。

 掘り掘り……。

 転がり心地を確かめてみますね。

 ごろーん。

 ええ。悪くありません。なかなかのものです。

 そしてここからが私の冴えているところです。この隅の方に、カラスが運んできた小石を敷き詰めてみましょう。

 ふむふむ。

 よいですね。


「くああー」


 ん?

 呼びました?

 今、ちょっと忙しいのですよ。

 なにしろ別荘を建築中ですから。


 反対側の隅には小枝をディスプレイして……。

 カラスが持ってきた小枝をせっせと穴の中に運んでいますが、少し少ないかもしれません。

 カラスにはもう少し頑張って運んできてほしいものです。


 最後に床に葉っぱを敷き詰めてっと。

 あ!

 こら!


「くああー」


 その葉っぱは今から床に敷くんですから。持って行ってはダメですって。


「くあー、くあー」


 何を思ったのか、カラスが今度は積んである葉っぱや小石を片っ端からどこかに運んで捨ててしまいます。せっかくいい感じに仕上がってるのに!

 ぐぬぬ。負けませんよ。

 こうなったら一気に別荘の中に持ち込んでやります。

 私は葉っぱをかき集めて口いっぱいにくわえました。それを持って穴に入っている間に、カラスが残りの葉っぱをくちばしで咥えてどこかに持って行ってしまいます。

 私の方が器用でたくさんの葉っぱを運べるとはいえ、敵もさるものです。私が運んでいる葉っぱをつついて横から攫って持って行くとは……。


 ◆◆◆


 ふぅっ。

 庭の隅がすっかりきれいに片付きました。

 そして、新しくできた別荘は、とても素晴らしい居心地になりそうです。今はまあ……暑いですから本邸で暮らします。けれど過ごしやすい秋になったらここで紅葉を楽しみたいと思います。

 そうだ! もっと穴を掘り進めて、美野川と繋げてみたらどうでしょう。ふふふ。それって秘密の通路みたいで凄くないですか?しかもいつでも好きなときに美野川に行って魚が獲れます。

 でも美野川まで掘るのはちょっと大変そうですね。途中に堤防がありますし……。

 うむ。

 一応後でシュートに相談してみましょう。


「くあー、くあー」


 あっ!

 なななんてことを……。せっかく作った別荘の入口に、フンを落としていくとは!

 やはりカラスとは相いれぬ関係です。

 次こそはぎゃふんと言わせてみせます。

 きゅい!


「くああー」


【カワウソ対カラス おわり】


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