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(5)

 カラスの飛び去った方を見て、ソウは満足そうにうなずいた。フォークのようなしっぽが楽しそうにゆらゆらと揺れている。

 そしてしっぽに纏わりついている猫が一匹。

 ほほえましい光景だ。


「やったぜ、ソウちゃん!」


 山口が唐突に大きな声を上げて、俺をさしおいてソウを呼ぶ。

 ソウはその場で二本足で立つと、きゅいっと一声、誇らしげに鳴いた。


「にゃーん」

「ユメちゃんもかっこよかったよ」


 向こうのベンチから小池が近寄ってきて、猫を抱き上げた。黒いベストみたいなハーネスと赤い首輪がかわいい真っ白い猫。

 ユメちゃんだ。


「にゃあ」

「ユメちゃん、協力ありがとう」

「どういたしまして」


 返事をしたのはもちろん、猫のユメちゃんじゃなくてその飼い主の女の子。

 俺と小池は夏休みに一度、迷子になったユメちゃんを探すのを手伝ったことがあるんだ。それからあと、何回かこの公園で女の子と出会って挨拶するようになった。あの時は不審者と思われても困るので女の子の名前は聞かなかったけど、いつの間にか名乗りあってて今は知ってる。というか、今では女の子のお母さんも知り合いだ。そしてさらに言うならば、お母さんも目の前にいる。

 俺たちはユメちゃんを女の子に渡して、女の子とそのお母さんに深々と頭を下げた


「奈々ななかちゃんとお母さん、協力してくれてありがとうございます」

「いいのよ。可愛いソウちゃんのためだもの」

「ねー」


 フリースペースで作戦会議をしていた時に、奈々花ちゃんがお母さんと一緒に歩いてるところがたまたま見えたんだ。二人はユメちゃんを散歩させながら公園に向かってた。フリースペースが一面ガラス張りの開放的な場所でよかった。


 偶然通りかかった奈々花ちゃん母子にソウとカラスの戦いのことを伝えて、協力をお願いした。やることは簡単だ。カラスがソウに気を取られている隙に、こっそりユメちゃんを近くの草むらに連れていき待機してもらう。

 その後、ソウがカラスを挑発してユメちゃんの隠れる草むらにおびき寄せる。カラスがユメちゃんの射程距離に入ったところでお母さんがリードを外す。

 それを確認してから、今度はソウがしっぽを揺らしてユメちゃんを誘う。実はソウのしっぽはカラスをバカにしたわけじゃなかったということ。ユメちゃんはソウのしっぽに飛び掛かるのが大好きだから、ソウが位置と距離を計算して絶妙なタイミングでしっぽを振ったんだよ。


 もちろん、奈々花ちゃんとお母さんにはそこまで詳しくは説明していない。ただ、俺と小池はユメちゃんがソウのしっぽが大好きなことを知っていたので、この作戦の成功率は高いと踏んでいた。


 今もほら、ユメちゃんは隙あらば奈々花ちゃんの腕から逃げてソウのしっぽに飛びつきたそうにしている。

 奈々花ちゃんはそんなユメちゃんをギューッと抱きしめて、優しく撫でる。


「ユメちゃんも、ソウちゃんやカラスちゃんと遊べて、楽しかったよね」

「にゃおん」


 俺はソウに向いて、念のため確認する。


「カラスには逃げられたけど、ソウはこれで良かったか?」

「きゅいっ!」


 返事するときに、こっちを見て背筋がきゅっと伸びるのが面白い。

 満足そうな顔で、何よりだよ。こっちは結構ハラハラしたんだぞ。


「続木も奈々花ちゃんも、普通に人に話しかけるように動物と喋るんだね」

「それにソウちゃんもユメちゃんも、本当に人間の言葉がわかってるみたいに作戦通りだし、すごくねえ?」


 越川と山口が感心したようにそういうと、奈々花ちゃんが自慢そうに鼻をつんと上に向けた。


「だって私、ユメちゃんとすごーく仲良しなんだもん。うふふ」


 奈々花ちゃんは猫をギューッと抱きしめた。猫のほうはといえば、ちょっと迷惑そうな顔に見えるかもしれない。

 そこはまあ、見なかったことにして。

 俺も一応、おざなりにソウの頭を撫でておいた。


「だっておれソウちゃんとスゴークなかよしなんだもーん」


 山口の奴め、奈々花ちゃんの物真似でつまらんことを。

 この口か!

 余計なことをいうのはこの口かー!


「いやーん、やめてー、つづきくーん」

「まだ言うか!」

「お兄ちゃんたち、喧嘩しちゃあだめだよ」

「……はーい」


 ちょっとふざけてたら、奈々花ちゃんに怒られた。

 隣で小池と越川が爆笑だ。

 くそう。


 無事リベンジも終わり、みんなそれぞれの家へ帰る。

 俺もソウと一緒に自転車に乗った。


「厳しい戦いでしたが、こうしてカラスに勝てたのもシュートたちのおかげです。ありがとうございました。もちろん私の木登りやタイミングの見計らい方が見事だったのは言うまでもありませんが、あそこで猫に会えたのは僥倖ぎょうこうでした」

「まあな。けど、ソウの木登りにはびっくりしたなあ」

「木登りは得意なのですよ」

「くああー」

「え?」

「きゅい?」


 会話の中にカラスの声が、ごく自然に割り込んできたぞ。

 びっくりして俺とソウが上を見ると、電柱の上に止まったカラスがこっちを見ていた。


「あいつ、まさかさっきのカラスじゃないよな?」

「私もカラスの人相までは見分けられませんので……」

「くああー」

「まさかな」

「まさかですね」


 家に帰りつくまでに、何度かカラスの鳴き声が上から聞こえてきたけれど、偶然だ。きっと偶然だ。

 カワウソとカラスの死闘は、無事カワウソの勝利で終了した。

 ……多分。


「くああー」


【ep3 投石者との死闘 おわり】

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