過去への誘い
時の流れは、水の流れ。
流れを止むることは誰にもせられず。
流れを戻すことも誰にもせられず。
こしかたに戻るかたはあらず。
ありとせば。
そは、こしかたの世におのれの行くこと。
その事易く考ふべからず。
1日目
2030年
俺の名前はゆうた。
俺は、何の不自由なく普通に中学、高校を卒業して、普通の企業に就職した28歳になる平社員だ。
ごくごく普通のサラリーマン。
世の中にいる人間の中で、あえて順位をつけるのなら丁度真ん中‥よりも下か‥。
ただ俺にとって唯一、人と違うところがある。
それは人一倍物欲が強い。
何の長所もないがこれだけは誰にも負けないだろう。
総支給25万の給料。
決して多くはない給料と言えるだろう。
にもかかわらずだ。
車は1000万円の高級外車が欲しい。
家は六本木の高層マンション。
ロレックスの時計も欲しい。
叶うわけのない妄想ばかりが膨らむ。
彼女にも良い暮らしをさせてやりたい。
本当に馬鹿げていると思われるかもしれない。
そんな妄想ばかりで何も行動もせず普通に朝起きて出社し、くたくたになって帰る毎日。
彼女にも結婚の話をずっとされているが実現に至っていない。
気づけば俺は、ネットを開いてはいつも似たようなワードでネットサーフィンしていた。
『一発でお金を稼ぐ方法』『副業 ビジネス』
わかっている。
このご時世、そんなむしのいい話なんてありはしないのだ。
今日も疲れて帰ってきたがやはり開くはブラウザだ。
いつものように出来もしないビジネスのことばかりを調べている。
すると検索ワードには引っ掛かりそうもない奇妙なサイトを見つけた。
『過去に戻る方法』
なんだこれ。
気になって開いてみた。
『過去に戻りたい気持ちは誰しも持っているものでしょう』
『もし、戻れるとしたらどこに戻りますか?』
『小学校?中学校?高校?もしかすると2日前だったりするのでしょうか。』
『ここで紹介するタイムリープは残念ながら過去に戻る方法ではありません。』
『一度決まった世界を自分の思い通りにねじ曲げることはできません。』
『私が紹介するのは平行世界、つまりあなたと同じ時間が流れる別の世界へ移行する方法です。』
『タイムリープは簡単ではありません。それ相応のリスクを伴います』
ここからさらに怪しげなタイムリープのやり方が綴られていた。
そして一番最後まで読むと、
『このサイトを見たあなたは簡単な気持ちでタイムリープをしないで下さい。あなたのためです。』と綴られていた。
だったら書くなよ笑、と思ったがまぁ気になる記事であった。
今の自分に全く満足していないゆうたは過去に戻ってやりたいことがあったからだ。
オカルトは元々信じていない訳ではないが正直半信半疑だった。
でも、もし戻ることができたら。
インサイダー取引。ナンバーくじ。なんでもできる。
戻れなきゃ戻れないでいいや。
そう思い試してみることにした。
『タイムリープまでは2か月程度かかります。』
『タイムリープ後はタイムリープ前の記憶が少しずつ消えていきます』
そう記されていた。
2か月かぁ‥
まぁいい。
2か月たつまで過去に戻って有効になる知識を身に付けておこう。
そう思いまずは試してみることにした。
ブックマークにサイトを保存して詳しく読んでいった。
『まずは夢を夢であると認識してください。過去の夢を見るように意識して起きたらそれを日記につけて下さい。』
明晰夢ってやつだ。
戻りたい過去は高校生かなぁ。
あの頃からなら株価も全然違うしYouTuberなんて言葉も出てきていなかった。
まず狙いを高校生3年生の自分に絞った。
今の自分の顔でイケる一番若い年齢だ。
何しろ俺は高3から白髪が生えてかなりおっさん顔だった。
たばこを買おうが年齢確認なんてされたことない。
うまれて一度も。
そのぐらいに。
夜のうちに過去の自分をずっと考えながら寝たが気がつけば朝だった。
うわ。
フツーに寝ちゃった。最悪や。
いつもとなにも変わらない朝を迎えこの日は終わった。