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第五話 鎖貴の固有

「波瑠、このブレスレット着けてないのか?」


「う、うん」


 固有を発動させるために必要なブレスレット。それが全ての人間に配られていない、という事実。

 それは鎖貴に衝撃を与えた。

 鎖貴は聞いていないが、種族管理局は各個体一つと言っていたではないか。

 種族管理局が嘘をついた可能性もある。しかし、ここで一つ思い出す。


「なあ波瑠。これ、着けてみてくれないか?」


 そう言って渡したのは、グレイトラット戦で手に入れたブレスレットだった。

 それを手首に嵌めた波瑠は、鎖貴の指示に従って装飾に触れる。


「ひゃぁ!?」



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世界名:m5dj03r-Earth


・名前:神喰 波瑠

・年齢:15

・種族:ホモサピエンス

・特性:千差万別

・魔力:105/105

・魔石:0

・固有:物体転移



 波瑠は、眼前に投映されたメニュー画面に驚くが、すぐに目を輝かせる。


「へえ……。これが各個体一つの玩具ってやつなんだ!」


「何か知ってるのか?」


 波瑠は訳知り顔だが、鎖貴にはなんのことやら、だ。

 少しでも手掛かりが欲しい、と質問する。


「え? 鎖貴くんは、聞いてないの、かな?」


「だから何をだよ」


 少し苛立ったように鎖貴が再度問うと、寝ている間に種族管理局管理局なる存在から、鐘の音と共に曖昧な情報が伝えられていたのだという。

 ここに来て、ようやく鎖貴は種族管理局の存在と目的を知ることになるのだった。


「そんなことがあったのか。……各個体一つの玩具ってのは、固有のことかもな。なんでブレスレットを全員に配らないのかは疑問だが」


「そうだね」


 そんな感じで世間話に興じていると、波瑠のおなかからくぅ、と可愛らしい音が鳴る。

 波瑠は顔を赤くしながらあわあわ、とするが鎖貴は表情を変えずに「飯、まだ食ってなかったんだな」と口にする。しかし、内心では小動物のような仕草にどきどきしていた。



……

……



「それで、波瑠はどこに避難する予定だったんだ?」


 鎖貴は、引くほどのタバスコを入れたミートパスタを頬張っている波瑠に問いかける。


「ん……。一先ず小学校か中学校に行ってみようかな、って」


 小学校はコンビニがある十字路を南へ。中学校は鎖貴の家の近くにある。

 どちらも避難所に指定されているので、人は多いだろう。


「そうか。じゃあその前に、固有を試してみないか」


「…………んっく。いいけど、鎖貴くんはまだ試してなかったんだね」


「ああ。俺の固有はあまり戦闘向きではないっぽいから、後回しにしてたんだ」


 鎖貴には、静止の魔眼という規格外の異能がある。そのためその程度の情報なら、問題にならないと考えているようだ。


「ふうん。鎖貴くんの固有はどんなのかな」


「名前からある程度推測は出来るけど、取り敢えず波瑠が食い終わったらお互い試してみるか」


 それから、あっという間に大盛の激辛ミートパスタを食べ終えた波瑠と鎖貴は、コンビニ前の駐車場に出てきた。

 車も2台停めてあるだけで、地方都市の住宅街にあるコンビニ特有の広い駐車場はモンスターなどによる破損も少なく、かなり綺麗なものだった。


「じゃあ、俺から試してみるか……。と、言いたいところだが改めて説明を見てみるか」


【浄眼『千里眼』】

 本来なら見ることのできない物を1キロ先まで自由に見ることができる。

 ある程度の、動体視力も強化される。


「浄眼の見えないものを見るって能力を、1キロ先まで有効にしたってことか?」


 これだけでは分からない、と実際に試すことにした鎖貴。


「『千里眼』!」


 固有発動に必要な音声認識。それを必要以上に気合を入れて口にする。

 発動した千里眼が消費した魔力値は5。

 しかし、特に何を見るとも決めていなかったため1キロ圏内でランダムに選ばれた場所を映し出した。


 蒼穹を逆三角形に切り取ったようなものが、鎖貴の視界いっぱいに広がった。暗い、が色彩までよく認識できる。なるほど、暗くても千里眼は暗視効果もあって視界には困らないらしい。

 三角形は、レース状のスケスケなもののようだ。奥にある肌色っぽい何かが、見えるような見えないような……。


「……鎖貴くん?」


 現実世界に戻ってこない鎖貴を不安に思ったのか、波瑠が声をかける。が、依然として彼はぶつぶつと何かを呟くのみ。

 しかし波瑠は「蒼穹」「逆三角形」「スケスケ」の三語を見事聞き分け、鎖貴が何を目にしているのかを理解した。


「ち、違うからっ!!」


「っなんだ!?」


「あ……」


 虚空を見つめる鎖貴の耳元で、その小さな体からは想像も出来ないほどの大声――最早絶叫と呼べそう――を上げた波瑠。

 それに鎖貴は、今までで一番とも言えるほど驚いた。波瑠が暴漢なりモンスターなりに襲われたと勘違いした為だ。千里眼を感覚的に解除して、周囲を確認する。すぐに波瑠は謝ろうとするが……。


「はぁぁぁぁぁ。なんともなくてよかった」


 と、両肩に手を乗せて安堵する鎖貴に何も言えなくなってしまった。その姿に、波瑠は心臓の高鳴りを自覚したが、すぐに切り替えて謝れるのが波瑠の長所だろうか。


「ご、ごめんね……。わたし」


「いや、ほんと何もなくてよかったよ」


「え、っと……。あのね……」


「ああ」


 途中で鎖貴に遮られた言葉の続きを、顔を真っ赤にしながら続けようとする波瑠。

 鎖貴はその声音と表情から真剣なものを感じ取り、彼女の小さな声を聞き漏らすまい、と耳を近づける。


「わたし、下着を見られたのが恥ずかしかっただけ、だから……」


「ん?」


「ふ、普段はこんなに派手な下着着けてないから!」


 そう、鎖貴が千里眼を使ってみていた光景は蒼穹を切り取ったものでも、湖面に映る山でもなく、目の前の小さな少女のショーツだったのだ。

 その一言で、粗方の事情と波瑠が言いたいことを理解した鎖貴は、


「ああ、悪かったな。彼氏に見せるためだったんだろ」


 見当違いのことを言った。が、これは可愛い女の子の身辺調査のようなものだ。しかし鎖貴は、こんなモンスターが跋扈する世界になったのに、真っ先に連絡も寄越さない彼氏は……と、彼氏持ちだったとしても言いくるめてものにしてしまうだろう。


 はたして目論見は達成されて、波瑠は「彼氏なんていたことないもん」と返した。

 これに鎖貴は、気を良くして固有の確認に戻るのだった。なぜ何もない日に勝負下着を穿いていたのか、という今世紀最大の疑問を忘れて。

明日からは一話ずつの更新に戻ります。

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