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第四話 少女との出会い

 鎖貴の住むアパートから最近のコンビニまでは、徒歩で5分強といったところだ。

 コンビニは西へ直進すれば着くが、住宅街なので人間の死体が散見される。

 夜中から朝方にかけて襲撃され、外まで逃げて力尽きたり、状況を知らずに出かけたりしたのだろう。

 死体の数が少ないのは、寝てる間に殺されたり、突然変異したモンスターが森などから出てこないためだろう。


 モンスターの多くは本来の住処にいて、村八分にされたものやゴブリンのように己の危機を悟れないモンスターが人間の生活圏に来たものだと考えられる。


 ハエが集り始めた死体にも、特に眉を顰めるといったことはせずに歩を進める鎖貴。

 カツカツと足音を響かせていると、犬の突然変異だと思える狼型のモンスターが鎖貴の歩みを止めさせた。


「牙が特徴的だな……。ファングウルフ、といったところか」


 背中が黒い、狼と言われて想像するような容姿だが、その犬歯は本来の犬や狼に比べて数倍の大きさであった。

 狼は血縁で群れを作ると言われるが、突然変異のためだろう。一匹だけであった。


「グルルゥ……」


 ファングウルフは腐肉を漁っていたようだが、鎖貴の靴音を聞くと食事をやめて視線を向ける。

 だが腐肉があるため、たった一匹で襲撃するメリットは少ないと感じたようだ。食事を再開する。


「ふんっ。まあ俺も腹減ってるし、無駄な戦闘がないのは良いことかもな」


 狼型のモンスターとの戦闘経験を積みたかった鎖貴は、少し残念そうにするが、空腹には勝てないようで歩みを再開する。


 それからほんの少し、また歩みが止まる。モンスターだ。

 カピバラ大のネズミのモンスターで、グレイトラットと鎖貴は名付けたようである。

 スーツ姿の男を食んでいたグレイトラットは、頭はあまりよくないようですぐに襲い掛かってきた。


「ヂュゥ~~~!」


「速っ!」


 思わず驚いた鎖貴だが、本来の大きさの時並みの速度で迫ってきたのだから当然だ。

 しかしいくら速くとも、そこそこの大きさである。回避練習に丁度いい、と足元を這いまわるグレイトラットをギリギリで躱していく。


 暫く遊んでいた鎖貴だが、速度に慣れたところで静止させずに仕留めよう、と逆手に握ったアイスピックを振り下ろす。

 だが、上手く急所に当たらない。


「静止の魔眼をあまり使わないで戦闘出来るようになりたいんだが……。それに、モンスター素材が有効に使えるようになった時のために、傷を減らしたいし」


 鎖貴は己のアドバンテージを、将来の己のために使うことに決めたようだ。

 この場合のアドバンテージとは、異常なまでの性能を持つ左目のことである。

 将来の己というのは、モンスターの皮や骨の研究が進み利用法が開発されたときに、希少な素材で大金――魔石値――を稼ぐ最強冒険者になった妄想のことだ。


 しかしいくら将来を夢想しても、現在、直近の未来において意味もなく手札を晒して良いことはない。

 それどころか搾取されることは必然だ。

 そのため静止の魔眼を使わずに、他の人間と同じ条件で戦闘できるようにしたい、と鎖貴は考えている。


「ヂュ!」


 何度も傷を負わせてくる鎖貴に、グレイトラットは怒り心頭といった具合だ。

 それでも鎖貴は、魔眼を一向に使おうとしない。


 ……およそ10分ほどか。グレイトラットとの格闘を続けた鎖貴は、ようやく延髄にアイスピックを刺すことが出来た。

 びくびく、と痙攣しているにも拘らず、すぐに仰向けにしてナイフで胸を切り裂いた。

 その際に出血が少なかったのは、鎖貴がグレイトラットをボロボロにしたせいだろう。

 取り出せた魔石は、ゴブリンよりほんの僅かに大きい程度。

 光は、ゴブリンの「光っている気がする程度」から進化して、手で袋を作って覗けば青白い光が確認できるまでになった。ゴブリンのように、背徳的な臭いがないのが救いだ。彼らは血液まで臭いのだから。

 また、魔力値の変化はなかったが、魔石値は2増えて9になったようだ。


「最初の息切れが嘘だったかのように、戦闘を熟せたな」


 事実、最初のゴブリン戦では息も絶え絶えだったのに、今回のグレイトラット戦では多少弾ませる程度で済んでいる。

 命がけの戦闘に慣れたというのもあるだろうが、魔力値が上がれば身体能力も向上するということが、証明された形だ。


「ん? ……これは」


 グレイトラットが食んでいた男も鎖貴が着けているブレスレットを着けていたようで、鎖貴はそれを取ってポケットにしまった。



……

……



 グレイトラットとの戦闘からは、特に戦闘もなくコンビニに到着した鎖貴。

 いつもより3~4倍もの移動時間が掛ったのは、鎖貴が通常の戦闘に拘ったためか。


「流石に空腹の限界だな。……弁当、届いてるといいけど」


 8・12と言う名のコンビニは、日付が変わった直後くらいに工場から弁当や総菜が届く。

 今日は夜中から朝方に掛けて色々なことが起こったために、弁当が届いてないのではないか、と鎖貴は心配していたのだ。

 数社ある大手コンビニエンスストアの中でも、鎖貴のお気に入りが8・12である。

 彼がまだ稼働している自動ドアをくぐると、真っすぐに血が付いた手を洗い、弁当コーナーを物色するが……。


「やはり納品されていなかったか……。いや、バックヤードにあるか?」


 弁当は陳列されていなかった。店員も避難しているのだろう、誰もいないので当然と言えた。

 誰に許可を取るでもなく、ドリンクの冷蔵庫裏にあるバックヤードに入った鎖貴は、段ボールを開けコンテナを下ろし、と好き勝手に行動した。

 流石は社畜国家と言ったところか。無事に商品は納品されていたようで、鎖貴はカツ丼をレンジで温め食べ始める。


「昨日の昼ぶりの食事がうめぇ!」


 人心地ついた鎖貴は、それでも食べ足りないようで、クッキーと冷たい紅茶でデザートを楽しみだした。


「戦闘で荒んだ心が癒されるねぇ……。お前もそう思うよな?」


 鎖貴はレジの後ろ、事務所のほうに声を投げかけた。

 隠れていた者は気付かれたことに驚いたようだが、隠れても意味がないと分かると、恐る恐る顔を覗かせた。


「いつから……」


「ん?」


「いつから気が付いていたのですか?」


 姿を見せたのは目を見張るほどの美貌の少女だった。

 綺麗な栗色の髪が、緩くウェーブしながら肩甲骨付近まで伸びている。肌は陶器のような白さだ。

 身長は鎖貴の胸のあたりまでしかなく、彼女が小動物的魅力を持った少女であることがよく理解できる。


 ゴールデンウィークにも拘らず、高校の制服に手の甲を隠すほど大きなカーディガンを羽織っているので、部活でもあったのであろうか。

 少女の質問に「バックヤードで商品漁ってた時に視線を感じた」と言うと、彼女はよほど隠密に自信があったのか目を丸くさせた。

 実際は、カツ丼を温めるためにレジに向かおうとしたら、トテトテと走る少女の後ろ姿が見えたからなのだが。

 鎖貴はそこまで視線に敏感ではないし、少女も隠密の才能は皆無だった。


「あんた、名前は」


 見惚れたのを誤魔化すように、ぶっきらぼうに鎖貴は問いかける。

 それに対し少女は、


神喰(かみじき)波瑠(はる)……です。あなたは?」


 波瑠、と名乗った少女は、鎖貴にも名前を問うたので青年も名乗る。


「よろしくな、波瑠。……その制服、桃学だよな」


 桃学とは、鎖貴の住む桃花(とうか)市内ではちょっと有名な私立女子校である。

 正式名称は桃園学院。制服が可愛い、と各地から入学者が殺到するため、倍率も上がり偏差値も相当なものだ。

 制服のおかげか、元々か。顔面偏差値も高く見える生徒が多いため、桃学の生徒を彼女にしたいと思っている男は年齢問わず多い。


「はい、1年で。えっと……」


「鎖貴でいいよ」


「鎖貴くんは、大学生なのかな?」


 小首を傾げながら唐突に敬語をやめて尋ねる波瑠に、キャラじゃないと思いながらも、軽く悶絶する青年。


「……?」


「い、いや。高三だよ、西高」


 西高とは、鎖貴の住む市の西方面にある県立高校で、鎖貴の家とは駅を挟んで反対側にある。

 桃花市を縦断する形で線路が走り、中央部に桃花駅。東に線路と平行に川があり、西部は比較的勾配が少ない地形だ。

 盆地であるため、季節ごとの気温差が激しい地域でもある。


「ところで、波瑠はなぜここに?」


 疑問はもっともだ。

 殺伐とした世界になってしまい、女性の一人歩きは危険だろう。

 コンビニまで来る際に、裸に剥かれた女性の死体があったほどだ。おそらく、人間もモンスターも関係なく、女性をレイプするような獣だらけの世界なのだから。


「あ、うん。避難指示が出てるでしょ? ……だから、避難場所に行こうと思ったんだけど、おなか減っちゃって」


「避難指示なんて出てたか?」


 えへへ、と笑う少女は避難指示が出されているという。桃花市だけでなく、テレビニュースやネットニュースなど世界規模で避難勧告がなされているようだ。

 鎖貴は朝からドタバタしていて、スマホもテレビを確認していない。いまだにそう言った電子機器が使えるのに驚いたほどだ。


「大体どこに避難すればいいんだか……」


「近くの学校や公共施設に避難するように、って」


「ふうん」


 波瑠の情報を軽く流し、そういえば、と口を開く。


「なあ、お前こんなのしてるか?」


 そう言って見せたのは右手首のブレスレット。

 黒い細身の革で作られ、銀色の装飾があるのみのシンプルなデザインだ。


「ううん、してないよ。おしゃれだね、それ」


「なに?」


 衝撃の事実に、鎖貴は戸惑うのだった。

ヒロインちゃん初登場です。

エッチなゲームのヒロインをモデルにしたんだけど、あんまり似なかったなぁ。

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