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第一話 自殺する主人公と壊れた日常

二作目投稿します。

前のやつは消しませんが、再更新の予定はないです。

 東北の、どこにでもある地方都市の賃貸アパートの201号室。そこには一人の青年が暮らしていた。

 竜胆(りんどう)鎖貴(さき)。18歳、高校三年生。それが彼のプロフィールだ。

 一人暮らしの彼の部屋は、満月の明かりだけで視界が確保されていた。いつもより、月が大きい。世界は明るかった。

 脱色された長めの金髪が、月明かりで煌めく。


 さて、家主の金髪青年は寝ているわけではない。現在4月30日23時59分。こんな夜中に電気も点けずに、何をしているのだろうか。

 鎖貴はアイスピックを狂的に見つめていた。

 20センチもの鋼のニードルが、きらり、と冷たく光る。

 ベッドに腰掛けながら、ゆっくりと先端を己に向けた。


「来世は面白おかしい世界に生まれたい」


 そして何を思ったのか。鎖貴は、命を絶つにはあまりにも容易すぎるそれを、左目に、躊躇することもなく、突き立てた。


 鎖貴は、何をしても上手くいかない世界に飽いていた。

 彼がなにかに秀でた有能な人間だったなら、この事態は避けられたであろう。

 しかし彼は、無能ではなかったが有能でもなかった。どちらかと言えば無能よりの平凡な人間であったのだ。

 もし、世界に特殊な能力があふれていれば。己に秀でた才能があれば。

 彼は、その程度の掃いて捨てるほどいる境遇の人間に生まれた程度で、己が命を絶つことができる狂人であったという話だ。


 びくびく、と数度の痙攣。ずぽっと、脳漿などが付着したアイスピックが抜ける。

 そして、ずるずる、とベッドから頽れた。日が変わった。



……

……



 これは夢だ。青年は目玉模様の木の実が沢山生っている大樹の前にいた。くうぅ、と青年のおなかが鳴った。そういえば、空腹だ。


 これは夢だ。なら、気味の悪い木の実でも食べても大丈夫。一つ取って食べた。味はあまりしない。でも、もう満腹。腹十二分。たった一つで満たされるなんて不思議だ。


 これは夢だ。不思議だからもう一つ食べよう。……もう一つ。もう一つ。


 ……これは夢だ。ちょうど10個食べたから、もう帰ろう。


 これは夢だ。だから、醒めよう。



……

……



 ゴーンゴーン。鐘が鳴り響く。この世界ではないどこかから、あらゆる世界に鐘の音が響く。

 

《――――全生命体ニ通告ス。我々種族管理局ハ、強制淘汰システムヲ起動シタ》


 性別や年齢は不明な声だ。


《――――ソレゾレノ世界デ、己ガ種族ヲ頂点ヘ導ケ》


 鐘を鳴らした存在が、あらゆる世界のあらゆる生命体に、一方的に告げる。……どこまでも無慈悲に。


《――――ゲームヲ面白クスル玩具ハ各個体一ツ。各世界一ツ。……サァ、存分ニ殺シ合エ!》


 あまりの異常事態に、あらゆる世界で事故や暴動が多発した。


 地球世界では、交通網が麻痺したり、一時的にインターネットサーバーが処理落ちするなど、天文学的金額の被害が出ていた。

 しかし、その数字もすぐに意味をなくした。

 動植物の突然変異が多発。モンスターとなった彼らは、人間を殺し、犯し、文明を破壊して回る。

 日本では、午前0時からのことだった。



……

……



「ん……」


 5月1日、午前8時過ぎに鎖貴は起床した。

 傍には、乾きかけの血肉が付着したアイスピックが落ちている。もちろん、部屋は血塗れだ。

 鎖貴も例外ではない。顔の左半分は乾いた血液で引き攣り、髪も絡まっている。


「うへぇ……。これ鼻血か?」


 風呂で血を洗い流す。そこでようやく自分のしたことを思い出してきていた。

 思い出したところで、そこに後悔の色はない。なぜ死ななかったのかと、それだけだった。

 

「次の自殺では面白い世界で好きに生きたいよな。でも、痛いのはしばらくごめんだな」


 右手首が、きらりと光った。


「……なんだ? こんなのしてなかったよな」


 そこには革製の細い黒のブレスレットがあった。その唯一の装飾が光を反射していたのだ。


「まあいいか」


 後で考えよう、と視線を変え、鎖貴は鏡を見た。そこに映るのは、左目の瞳が深紅に染まった長めの金髪をした青年だった。


「なっ…!?」


 なぜ目の色が、その言葉は出なかった。鏡の己と目があった途端に、全身が硬直したように動けなくなったために。左目が僅かに光っているが、明るい場所ではあまり分からないだろう。

 力は入る。だが、空間が固まったかのように動けなくなってしまったのだ。


 目をそらせば硬直が解けると、それはすぐに理解できたが、表情筋一つ動かなかった。

 しかし、唐突に左目の正体と使い方、現状が理解できた。

 鎖貴はその現状を解決するために、理解した方法を試みる。

 果たして「解けろ」の念一つで、あっさりと行動が許された。


「どうなって……いや、これは」


 呟いた鎖貴は、風呂の扉に目を向け、


「止まれ!」


 口にした。

 そのあとの行動は早かった。

 がちゃがちゃ、と扉を揺する。扉が開かないのを確認すると「解けろ」と、すると扉は容易く開く。扉が開くと「止まれ」と、閉まらない。

 それを数回繰り返し、次は声に出さずに念だけ、とまた繰り返した。裸で。

 そこで肌寒さを覚えた鎖貴は、風呂を後にした。



……

……



「変なもん手に入れちまったな……。本当は夢でも見てるんだろう?」


 風呂上がりで水が滴る髪をそのままに、パンツのみ身に着けた鎖貴は項垂れた。

 何度確認しても、左目の瞳は深紅に変色し、頭の中には知識があったためだ。


「こんな中途半端な能力で何をしろってんだ。……大道芸とか言わないよな」


 鎖貴の悩みの種である能力は『静止の魔眼』といい、あらゆる物体・現象・概念などの視界内の動作を「静止」させるものだ。

 これだけ聞くとかなり有用な能力に思えるが、2019年の日本ではあまりに使い道が限定されていた。

 空気を固めて空中歩行。水を固めて水上歩行。宙に物を浮かせる。カップ麺の蓋を抑える。

 最後はともかく、あまり使い道がなさすぎる。

 ただ、視界を外しても効果が持続されるのはカップ麺の蓋的には有用だろう。3~5分もの間、カップ麺の蓋を見つめるなんて馬鹿らしいのだし。


「そして、この異常事態に突如現れたブレスレット……。明らかに怪しすぎるだろ」


 チカチカ、と緑に発光する銀の装飾。光の反射などではなく、明らかに己から光を放っている。


「触ればいいのか……?」


 恐る恐るといったように、点滅を続けるそれに鎖貴は触れた。



1/2


世界名:m5dj03r-Earth


・名前:竜胆 鎖貴

・年齢:18

・種族:ホモサピエンス

・特性:千差万別

・魔力:241/241

・魔石:0

・固有:浄眼『千里眼』



 「……は?」


 説明とともに”空中に”投映される画面。

 説明には、


・ブレスレットは、固有発動のキーになる。

・他人のキーを盗んでも、その固有が使えるようにはならない。

・魔力は固有を使う際のエネルギー。自然回復する。

・魔力値が多いほど、身体能力は向上する。

・魔石は、m5dj03r-Earthではホモサピエンス種以外の生命体内部から入手可能。

・魔力値1につき100円の商品と交換可能。

・魔石値1につき魔力1として使用可能。


 など、この状況に対する説明はなく、どこまでもブレスレットの使い方ばかりであった。

 2ページ目には、魔石値で交換可能な商品が検索エンジンと共に表示されるのみ。

 やはり、状況説明は一切なかった。


「……俺だけがこうなったのか? それとも他にも同じ状況のやつがいて、俺が聞いていないだけ、なのか?」


 鎖貴の推測は正しかった。

 風呂に入る直前まで死んでいたのだから、聞いていなくて当然であろう。

 鎖貴の死にしても、世界が改竄される瞬間に死んだために、バグでなかったことになったようなものだ。


 ようやく回りだした頭で今まで思い返してみると、外は悲鳴であふれていた。

 今も女子供の悲鳴や雄たけび、異形の絶叫が響いている。

 鎖貴が窓の外を見ると、世界はボロボロだった。


 突然変異のモンスターが暴れまわり、数名の人間がブレスレットを光らせながら対抗している。

 火球を飛ばす者、装飾過多な剣を我武者羅に振り回す者、弓をオタオタ番える者、怪我を癒す者。


 狂った世界に乗じて背徳を冒す者も現れる。

 女を犯す男、恋敵を殺す女、火事場泥棒をする中年、殺害に取り付かれたキチガイ。


 生まれ変わる……という願いは果たされなかったが、面白おかしい世界にはなっているのは、骨折り損のくたびれ儲けだったわけだ。


「いいね……楽しそうな世界だ」


 鎖貴は種族の淘汰という最終目標を理解できていなかったが、法も倫理もなくなった世界に歓喜した。鎖貴(さき)

お読みいただきありがとうございました。

作風が安定しないので、ビシバシご意見ご感想よろしくお願いします。

明日も投稿します。


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