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先輩、私だけを見てください  作者: 加藤 忍
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校門を通り昇降口に行くと、一人の少女が俺の下駄箱の横の柱にすがっていた。髪は長く艶やかな黒にクエスチョンマークのようにピョンと跳ねた髪の毛。整った顔立ちに、でるところは出ている彼女は俺の一個下の結城菜穂ゆうきなほ


結城は俺に気づくと小走りで駆け寄って来た。


「おはようございます、先輩」


「おはよう」


菜穂との挨拶を交わすのはいつもの日課のようになっている。


彼女と出会ったのは入試の日だった。その日は役員の人手不足で手伝うことになっていた俺は歩いて学校に向かっていた。手伝うのは俺の希望ではない。


クラスで一人が手伝うことになっていたのだが、みんなが立候補しなかったため、くじで決めることになった。紙を引いて、あたりと書いてあるのを引くと手伝うことになった。その日は色々とついていた俺はここでもかと運気を発揮してしまい、あたりの紙を引き当てたのだ。


大きく深呼吸をして気持ちを入れ替えた矢先のことだった。目の前で転んでいる子がいた。その日はやたらと寒く、水たまりは氷ついているほどだった。彼女は足首を抑えていたそうな顔をしていた。


「大丈夫か?どこか痛いのか?」


俺は昔からお人好しと言われるほど、目の前で大変そうな人を放って置けない性格らしい。


彼女は顔を上げると今にも泣きそうな顔をしていた。手には受験地と受験番号の書かれた紙を持っていた。


「受験が・・・今日まで頑張って来たのに・・・」


そんなこと言われたら助けないわけにはいかないだろう。俺は彼女に俺のほとんど何の入っていない軽い鞄を渡し、彼女に背を向けてしゃがんだ。


「連れて行くから乗って」


「えっ!でも・・・」


彼女はどうようしているようだったが俺の制服を眺めると「ありがとうございます」と言って背中に抱きついた。女の子をおんぶするのはこれが初めてだったが、意外にも彼女は軽く、すんなりと持ち上げられた。ほかの受験生が見えてくると、彼女は俺の背中に顔を押し付け自分の顔を隠そうとしている。俺でも恥ずかしいと思う。受験地におんぶされて行くなんて・・・。



そんなこんなで校内に入り、すぐに保健室に向かった。


「失礼します。先生居ますか?」


保健室のドアを足で開け中に入る。奥から保健室の先生が出てきた。この学校で最年少の新人先生は驚いた顔をしていた。


「この子、受験生なんですが、ここに来る途中で足を痛めたようで・・・」


「そこに座って」


指定されたベッドの上に彼女を下ろす。先生は彼女の足を触ったり曲げたりしている。彼女は時々、痛そうな顔をしていた。


「これは軽い捻挫ねんざね。ちょっと待ってて」


そう言って先生は奥に消えて行った。俺は不意に時計を確認した。時間は八時半の少し前だった。


「先生!後はお願いします!」


俺の声が聞こえたようで「はーい」と声が帰って来た。


「受験、頑張って」


ただそれだけを彼女に言うと保健室を後にした。その後受験生への答案を配る仕事をこなしてその日は終わった。


二年生になって少し過ぎた頃、俺を渡り廊下で一人の少女が呼び止めた。春風に髪を揺らしながら立つ少女。それが結城との再会だった。



「先輩、今日のお昼、よろしければ一緒にどうですか?」


「それは別にいいが、俺、弁当ないぞ。いつも売店のパンだし・・・」


「実は今日、弁当を作って来たんです!」


「朝から作ったのか!?」


「はい」


朝から大変だな。それに俺の弁当まで作ってくれたのか。ちなみに菜穂と呼び捨てなのは本人の要望である。弁当を作ってもらうのは初めてだな。


「えっと、どこで食べますか?」


「食べたいところとかあるか?」


質問を質問で返すのはどうかと思ったが、俺自身いつも自分の席なので場所が思いつかなかった。


「先輩がよろしければ屋上で・・・」


「わかった、授業終わったら行くよ」


菜穂の顔から笑みがこぼれた。今日は晴れているうえに春風が心地よいいい日だ。屋上も悪くはない。


「では昼休みに」


「あとでな」



俺と菜穂は学年が違うので教室は違う。俺は二階で菜穂は一階。俺たちが通う学校は総勢七百五十人で各学年は二百五十人の五クラスに分かれている。昇降口はものすごく大きい。下駄箱は左から三、二、一の順番だ。


菜穂は俺に手を振って自分の教室に走って行った。俺も菜穂を見届けると二階に向かった。





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