プロローグ
ドワーフは激怒した。
そのドワーフは限りなく怒っていた。
ドワーフという種族は、短躯である。
腕力が強く、長寿で、若年からもっさり髭になるのが特徴だ。
さらに手先が器用で、細工物を得意とする。
店に出回っているアクセサリーは、ほとんどがドワーフの手によるものだ。
そんなドワーフ族には、共通するある思いがあった。
「――これほどドワーフはすごいんだ!」
という痛切な心の叫びである。
亜人であるドワーフ族は、人間から良い扱いを受けているとは言い難かった。
ヴァルシパル王国の現国王は、亜人嫌いとして有名だったからだ。
ドワーフ族は、いつか自分たちが脚光を浴びる日が来ると信じていた。
その日の到来をただひたすら渇望し、耐えがたきを耐え忍んできたのだ。
そんなある日のことである。
とある1人のドワーフに、ヴァルシパル王国からの招待状が届いた。
『国家の危機に貴殿の力が借りたい』とある。
むろん彼は快哉を叫んだ。
ついにドワーフ族が、世の役に立つ日がきたと思ったのだ。
そのドワーフは、父の墓前で、両手を合わせた。
『常に誇り高くあれ。どのような扱いを受けても、ドワーフは前を向け』
いつもそう言っていた父。――見ていてくれ。
「地摺り旋風斧」なる、一子相伝の技の継承者にして、当代一の頑固者。
彼の名は、ダー・ヤーケンウッフといった。