記憶
ここは日本。俺は仕事から帰ると、作業着を洗濯機に突っ込む。
その後お袋を風呂に入れる準備をする。
お袋は病を患っており、長く立っていられない。ほとんど寝たきりだった。
親父は1年前に鬼籍に入ってもういない。
昼間はヘルパーが面倒を見てくれているが、風呂や身体を拭いたりするのは
交代制でやっている。
俺は20歳から28歳までの間、一人暮らしをして実家には、就職が決まっても帰っていなかった。
親父の葬儀の時、久しぶりに会った母の姿を見て愕然とした。
頬はやせこけ、背中は丸まり、幾分か白髪もあった。
親父の死に顔も随分老けて、祖父そっくりのおじいちゃんだった。
両親の変貌ぶりに涙した。なにも親孝行しなかったバカ息子でごめんよ、今から母親にだけでも親孝行するから。
そう心に決めた矢先、母が病に倒れた。
緊急手術後に医者に言われたことは、
「1年、生きれるかどうか」
無情にも余命宣告を受けた。母はまだ60歳だ、ちょっと早くないか?
せめてあと20年・・・・
俺は実家暮らしを決め、アパートを引き取り、今の仕事も辞め、母の介護をしながら生活することにした。
幸い、家から車で30分のところの工場へ就職できた。
母との生活は楽しかった、もちろん療養介護しながらだが、母と「最近のテレビが同じ人しか出てない」「いつも夜遅くまで野球ばっかりしてたね」とか、他愛もない話題で笑い合い、ゆっくり、そしてあっという間に1年が起とうしていた。
調子を崩して入院していた母が、容体が急変しそのまま帰らぬ人となった。
急いで駆けつけたが、どうやら死に目には間に合わなかったようだ。
死んでしまった
激しく慟哭し、心の一番敏感な部分を、思いっきり握りつぶされた様な感じだ。
葬儀が終わった日以来、俺は引きこもった。
会社には1カ月休みますと連絡し、一歩も外に出なくなった。週に一度に親戚が見に来て、叱咤激励してくれるが、頭に入らない。いつの間にか寝ている。
もう時間の感覚すらわからなくなっていた。
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