本命との勝負
闘います。
『マーダーグリズリー』
間違いないだろう。この爪痕、ブラッディベアーを4体相手にできる戦闘力。
そして数少ない第2種駆除対象魔獣としても認定されている。
アミューレ王国の北側で何度か目撃例があったが、まさかここまで足を延ばしていたとは。
サーニャが
「人間とエルフの匂いがする・・・でも、血の匂い・・・あと、ガリガリって音もする・・・」
俺は「どこから?」と聞くと1kmほど離れた、小高い丘の下辺りから聞こえるらしい。
「わかった、サーニャはギルドに戻って教えてきてくれないか」と言うと
サーニャは短くうなずいた後来た道を戻っていった。
唇が渇く 心臓の音がうるさい
俺は深呼吸して心を落ち着かせる。
フーッ
ここで撤退してしまったら明日、明後日には間違いなく街へ降りてくるだろう。それに、
(ばあちゃんと姉さん達のいる街を守らなきゃな)
ポケットから煙草を取り出し口にくわえ、指先に火の魔法を集中させ火をつけた。
スーッ・・・フゥー
(どれ、行くか)
ザッ ザクッ ギシッ
俺は足首まで埋もる雪の上を、わずかに降る雪の中、慎重に歩く。
(もう少しか)
目指すところは【奴】を見下ろせる少し小高い丘。少しといっても丘の下まで10mはある。
バキッ パキッ
乾いた音が聞こえるが【奴】が食事中の音だろう、こちらも浅い呼吸で音を立てないよう
一切の注意を払う。雪を踏みしめる音が命取りにならないよう慎重に・・慎重に・・・
そして丘から【奴】のいる縄張りが見下ろせるとこまで来た。
俺は、ゆっくりと片膝をついて、背にかけておいた弓に矢をかける。
鼻からゆっくり息を吸い、口からその倍の時間をかけて吐き出す。冬の空気は肺が凍るんじゃないか?と思うくらい冷たい。
【奴】の名はマーダーグリズリー。やはり食事中だった。距離にして約50m。そして、そいつを仕留めるには絶好のチャンスだ。
今俺が射ようとしてる矢に、風魔法をかける。
ブゥン・・・・・
矢の周りに薄い緑色の光が纏った。それを視界の端で確認した俺は息を止め、射るタイミングを計る。
(・・・・ここだ!)
「ドウッ!!!」
豪快な発射音とともに、矢は風魔法の影響で一直線に、そしてどんどん加速しながら奴の喉めがけて迫る。
バシュゥッ!!!
矢がマーダーグリズリーの体を貫通していった。
ブシャッと貫通していった方向に血が飛び散る。
だが貫通したのは右肩だった。
奴は発射音に気付くと同時に、身をよじり致命傷を避けたのだ。
「ッチ」軽い舌打ちとともに第二射を射る用意に入る。慌てず、深呼吸をしながら。
グオオオオオオオオオオ!!!!
奴が雄叫びを上げ、大気を震わせた。
(そりゃ食事中に攻撃されたら誰でもキレるわな)
そんなことを思いながら射る矢に火属性魔法をかけた。
シュゥウウ・・・
矢の周りに赤い光が纏う。
一撃で仕留められなかった以上こちらの命も危ない。狙うのは心臓か、動きを止めるために脚か。
一瞬どちらを射るか迷ってしまった。
次の瞬間
ドゴンッ!
俺の視界からマーダーグリズリーが消えた。正しくはジャンプしたのだ。そしてそのままジグザグに移動しながらこっちに向かってくる
(まずい!)
目で奴の動きを追ったが、速い。雪はそんなに積もってないとはいえ、走り幅跳びの要領でこちらに迫ってくる。なんつう脚力だよ・・・・
俺は必死で狙いを定める、奴は確実に俺との距離を詰めてきた
バグン!!
「なっ!?」
【奴】は高さ10mはある丘を大きく跳び、俺のいる地点の近くに着地してきた。
その距離約15m
「・・・・!!」
俺は矢にかけてた火の魔法を 解除 した
ズゥウウウウウ・・・
矢にさっきより強力な火の魔法をかけ、ためらわずに心臓に狙いを定め、指から矢を放した
ズボォオオ!!!!
射られた矢は周りの紅蓮の色を背に引きながら奴に直撃した。
ドゴォオオオオオオオオン!!!!
当たった瞬間爆音が轟く。
ありがとうございました、まだ続きます。