不穏な里帰り(前編)
頑張って書きました。拙い文ではありますが、読んでいただけると嬉しいです。
「ばあちゃん、ごめんな。」
祖母の眠る墓に手を合させる。
ここアミューレ王国の北に位置する、比較的小さな町セレンに来ていた。ここで冒険者の俺、(ヤヒロ=モリユギ)は祖母の急逝の手紙を受け、今組んでるパーティを一時抜け、急いでやってきた。
駆けつけたときには葬儀は終わっており、ただ墓に手を合わせるだけしかできなかった。そして俺は姉夫婦の経営している宿屋へ帰った。
「おかえり」姉であるクローネが優しく出迎えてくれる。
「あぁ、ただいま。義兄さんは?」
「ギルドに行ってお肉の買い付けよ、あと山に魔獣が出たから偵察隊からの話も聞いてくるって」
この街ではギルドが魔獣の討伐から、商店などへの買取物の卸しまでやっている。
ある程度都市部に近い大きな街は商業ギルド、漁業ギルド、冒険者ギルドにわかれていてそれぞれの窓口も細分化されている。ほとんど役所の様なもんだ。
しかし、セレンの様な小さい街だと冒険者ギルドが一手に受け持つのは珍しくない。
「そっか、姉さん、俺明日の朝にあっちにもどるよ。」
「そう・・・まだゆっくりしていけばいいじゃない」
普段は垂れ目がちで一見眠そうな顔してるのを、さらに眉をひそめるのだから泣きそうな顔に見えてしまう。
「また帰ってくるよ、俺の姉さんだろ?そんな顔するなよ」そういって俺の胸くらいの身長しかない姉の頭を撫でる。
「ったく、もう三十路近い姉の頭を撫でるな!」と軽く怒られながらも、つい撫でてしまう。 その時、
「クローネさんっ!いるかい?大変だ!」
義兄であり姉の旦那であるセイルが血相を変えて扉を開けて入ってきた。
「おかえりなさい貴方・・・どうしたの?」
「うん、そ、それが・・えっと・・・あっヤヒロもおかえりでただいま」
どうやら結構パニクってるようだ。
「どうしたんだい義兄さん、そんな慌てたんじゃ伝わるもんも伝わんないよ。」
「あー、・・・うん、そうだね。すまない・・・実は、魔獣が出たという報告があってね、
その偵察しに行ってたパーティが、5日経ってもまだ戻ってきてないんだ・・・」
「えぇっ!」
偵察に行ったパーティは、俺と同じランクのBクラスの実力で、かなりの手練れと聞いていた。剣士、エルフ、魔術師。の三人組である。
「問題はここからなんだ」深刻な顔をしたセイルが続ける
「ギルドも遅いと判断して他の偵察隊に行かせたら『黒い大きな影を4つ見た』って言ってね・・・」
「黒い影4つ?」
(この地方だとブラッディベアーか?)
俺は心の中でそう思ったが、本来ブラッディベアーは繁殖期や子守の間以外では、複数で行動しないはず。むしろ子供がいると山の奥で暮らす筈だ。特殊個体か?
「ギルドは他の街のギルドや近くの駐屯地へ応援要請を出したんだが、この時期だから時間がかかるだろうって」
このセレンの街は山の麓にあり、10月下旬に入るともう初雪が舞う。ましてや今は11月の中頃だ。しかも足首近くまで雪が積もってる。1週間前後かかることは、まず間違いないだろう。
おれは考えた。
ブラッディベアーと言えばさほど討伐は難しくない。Dクラスの冒険者でも討伐は可能だ。
しかしそれは単体で、の話である。4体ともなると罠を張ったり、遠距離から魔法で攻撃したりして、それなりの人数を割いて策を練らなければならない。知能も高く複数となるとかなり厄介だ。
姉のクローネがこちらを見てつぶやいた
「また考えてる」
「えっ?」
「考え事をする時の癖って治らないのね、フフッ、行くんでしょ?むしろ何のために冒険家になったのよ」
どうやら見透かされてたようだ。一言も行くと言ってないのに、背中も押されてしまった。
「帰ってきたらワイン飲ませてくれよ」
クローネは笑顔でうなずいた。
その後すぐセイルと共にギルドへ向かった。