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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
再会
99/171

その15

「一代で財を為した私が知っていて、古の昔から伝承が伝わっていそうな老舗の旦那方が知らないなどと云った不思議な状況ですからね。一体何がどうなっているのやら」

 漏れ聞こえてくる情報だけでダイオはある程度正確な状況を把握していた。しているが故に、些かの予断も許されない、切迫した状況であると判断していた。確実なことを知っているものが臨席する以上、そちらに詳しい説明をして貰った方が良いと考えるのも当然である。

「……それは、俺が関係しているのか?」

 完全に関係の無い話ならば、二言三言の簡単な情報であっさり終わらせるだろう。それがこの場に居る誰しもが話せる内容はどこまでかを計りながら様子を見ている以上、アレウスに説明する必要があると誰しもが判断している様に思えた。

「我らにとっては。現状、迷宮都市と呼ばれる島に我ら管理者以外が立ち入っている事を許しているのは“古の都”に関わる盟約が為されていると見なされているからである。即ち、我が友アレウスよ、貴君の存在が大きい」

 リ’シンは何と説明したものか悩んでいる他の者たちを後目に、“江の民”の事情を話し始めた。

「俺が、か?」

「そうだ。この街に集う全ての冒険者が大迷宮に挑むことが許されているのは、貴兄の存在があってこそ、なのだ」

 不思議そうな表情のアレウスに、リ’シンははっきり断言して見せた。

「てっきり、“古の都”目的の俺が一番の問題なのかと思っていたのだがな?」

 少しの迷いもなくそう言い切られ、アレウスは困惑を隠せなかった。

 事実、彼が知る“江の民”たちは“古の都”を目指していると聞いた途端に何時も場の雰囲気が何とも言えないものとなっていた。余程、“古の都”というものが禁忌か何かに引っ掛かっているのだろうと推測していた。

 それが“古の都”に通じる大迷宮の探索自体問題ないと言われれば困惑もしたくなる。

「我らが“試練”を乗り越えていないのならばそうなる。然れど、貴公は“碧鱗”の試練を乗り越えている。なればこそ、貴殿が大迷宮に挑むのならば、他の冒険者達がそのお零れに預かるのも黙認せねばならない」

「まあ、主と従が逆なんですぁ。あっしらが想像していたものとはねぇ」

 フリントは苦笑しながら、「“試練”に勝ち得た者のみが大迷宮に挑む資格を有する。他の者たちはその露払いか、お零れに預かっているだけ。この街に与えられたものでは無く、個人に与えられているもの、らしいんですよねぇ」と、続けた。

「では、俺が来るまでは何で許されていたのだ?」

 アレウスは不思議そうに首を傾げてみせる。

 有史以来大迷宮の探索が止まったことはない。歴代の冒険者の何人かは“江の民”に認めていただろうが、認められていない時期の方が長かったはずである。現に、アレウスがこの街に来るまで試練に打ち勝った冒険者はいなかったと何度も教えられている。そうであるのならば、試練に打ち勝った者がいなかった時期でも何らかの理由で“江の民”が大迷宮に冒険者が挑む事を黙認する理由があるはずだと考えていた。今がその確認をする機会だろうと見越したのだ。

「そこが老舗の方々が勘違いしていた要因でしてね。街に“江の民”が許可を出しているものと勘違いしていたのですよ」

 少し前までアレウスと似た様な知識しかなかったダイオが端的に何が問題だったのかを答える。「要するに、アレウス殿が勝ち得た権利の方が街に与えられている権利よりも下だと認識していたのですな。本当の処は、街が“江の民”より受けた許可の方こそが代用品だったのですがね」

「ここ暫くは我らが試練に打ち勝った者は居なかった。故に、彼の島の使用料を払うことで、大迷宮低層の調査を最低限許していたのだが……いつの間にか大迷宮の所有権が自分たちのものだと勘違いしていた様でな」

「……“江の民”と戦端を開く気だったのかな?」

 流石のアレウスも暫しの間、開いた口が塞がらなかった。

 リ’シンに聞くよりも前から、アレウスは大迷宮のある島が“江の民”の聖地である事を知っていた。だからこそ、古の昔、ソーンラントが制圧しようとした時に当時の冒険者達と手を取り合って防衛したのである。アレウスはその経緯があって、“江の民”が島の上に冒険者が住み着き、大迷宮に挑むことを黙認する様になったと考えていた。

 しかし、“碧鱗”の試練を超したことにより、その程度で“江の民”が聖地に立ち入ることを許すのかと逆に疑問を持つこととなった。何せ、迷宮で戦ってきた魔物(モンスター)よりもなお強い多頭蛇(ヒドラ)と戦わされたのだ。それ程までに恐ろしい試練を達成しないと許されないものならば、共に聖地を守った程度で古の昔から今の今まで大迷宮を解放する様な盟約を結ぶものだろうか、と。

 実際のところは、アレウスの試練が“碧鱗”の民からしても想定外だったと知ってしまったことでその疑問も幾分和らいだが、それでも心に引っ掛かるものは残っていた。

 余所者のアレウスですらその疑問にぶち当たるのだから、代々タンブーロに住まう者たちならば、よりそれを感じていると信じていたところにこの様なのだから、アレウスでなくとも呆れてしまうところであろう。

「流石に評議会に連なっている老舗の頭取全てがそうだったわけじゃないのよ? でも、有力な老舗の幾つかが本気で云い出していた時はどうしようかと思ったわ」

 アスティアも苦笑気味に答える。

 実際に試練を受けたアレウスほどではないにしろ、“江の民”の反応やら神殿に伝わる伝承やらを引退後に調べてある程度当たりを付けていたからこそ、おかしな反応をしていた老舗に対して呆れ果てるしかなかったのである。

「御陰で我はここ最近、タンブーロに出張らざるを得なくてな。全く、愚かしき事よ」

 鱗人にしては感情豊かで分かり易い表情を浮かべているとは言え、出会ったばかりのレイですら丸分かりの落胆した顔付きで力なくリ’シンは首を左右に振った。

「何で記録残ってなかったんですかねぇ? うちや、神殿にはちゃんと残っていやしたんですがねぇ?」

 フリントとしては情報を生業(なりわい)とする側面も有す盗賊であるからこそ、やはり情報を重んじる商人がこの様なお粗末な有様を示したことにどうにも納得がいかなかった。

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