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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
再会
98/171

その14

「乾杯」

 全員が乾杯の音頭に唱和し、洋杯の中身を飲み干す。

「ふむ、相変わらず良い酒を扱っている」

 呆れた口調でアレウスは笑った。

「本職ではありませぬが、冒険者相手である以上はある程度のものを扱っておらねば信用を失いますからな」

 ダイオは和やかに答えを返す。

 アレウスの台詞が嫌味などではなく値踏みであるとダイオは当然の様に理解していた。

「さて、この街で何が起きていたか聞かせて貰えるのだろうな?」

 全員が揃ったのを再確認してから、徐にアレウスはダイオに問い掛ける。

「それは当然。ですが、先ずは改めて自己紹介をするべきではないでしょうか?」

 ダイオはレイの方をちらりと見てから、やんわりと答えた。

 アレウスもちらりとレイを見て、ダイオの提案の方が正しいと理解し、一つ頷いて見せた。レイが明らかに己の居場所を見出せずにいる状態で更に置いてけぼりにしてしまうほど己の欲求を満たすことを優先する理由がないと判断したのである。

「それでは云いだした私から。当マティロ商会の頭取を務めさせております、ダイオ・マティロと申します。この場には居られないリサ・マックニール様にお引き立て頂き、アレウス殿の徒党と親しく付き合わせて頂いております。以後、お見知り置きを」

 立ち上がって自己紹介した後、ダイオは深々と頭を下げた。

 隣に座っていたフリントがちらりと周りを見てから立ち上がり、

「では、次はあっしが。この街ではフリントと名乗らせて頂いておりますケチな盗賊ですぁ。旦那とは徒党を組んで以来の付き合いとなりやすぁ」

 と、端的に己の立場を説明して退けた。

「アスティアよ。家名は捨てたわ。太陽神の啓示を受け、この街に来ることにしたの。今はタンブーロの神殿で最高司祭をしているわ」

 フリントの対面に座っていたアスティアも立ち上がって改めて己の名を名乗った。

「リ’シンだ。“碧鱗”の長をしている。ここには盟約絡みで顔を見せる程度故に、出会うことは多くあるまい。友の帰還に居合わせる事が出来て幸いであった」

 レイが立ち上がる素振りを見せたところで機先を制するかの様に立ち上がったリ’シンが先に自己紹介をしてみせる。アレウスと同じく既に誰しもが面識のある為、どう考えても自己紹介をする必要性はないのだが、未だに緊張の面持ちを見せているレイのために敢えて時間を稼いだ様子であった。

「レイです。ジニョール河南岸カペー地方の生まれです。アレウスと一緒に傭兵していました」

 少し間を外したことでレイは落ち着きを取り戻し、余計な事を言わずに自己紹介を終わらせる。一礼した後に、目線でリ’シンに感謝の意を示した。

「で、俺も何か気の利いたことを云った方が良かったのかな?」

 一回り自己紹介が終わった後、アレウスはにやりと笑って見せた。

「そこまで期待してないから」

 肩を竦めながらアスティアも笑う。

「まあ、旦那は狙って面白いことを云う方じゃありやせんからねぇ」

 フリントも即座に相槌を打った。

「行動で示されれば宜しいかと」

 二人の答えを聞いて少しばかり憮然とした表情を見せたアレウスにダイオは取り成すかの様な口調で提案してみせる。

「行動、なあ。潜れ、と?」

 自分がこの街でできる分かりやすい動きを考えるまでもなくアレウスは言い当てる。

 面白味はなかったが、それならば誰しもがはっきりと分かる動きであり、間違いなくこの街の者ならば興味を引くことになるだろう。確かに、アレウスが面白いことを言うよりは余程面白いこととなろう。

「流石に現状でそこまでは申しませんとも。ただ、アレウス殿が潜る姿勢を見せれば、それだけで回り回って私どもの儲けになりますれば」

 己の欲望を隠そうともせず、ダイオはさらりと言って退ける。

 この街に縁が深い他の三人が思わず苦笑してしまう様な面の皮の厚さと言えた。

「リサの状態次第かな。まだ浮かび上がってない様ならば、今度は東にでも行ってみようかとは考えている」

「今度は“山の民”とでも話に行ってみるのかね?」

 リ’シンが興味津々とばかりにアレウスの方を見た。

 アーロンジュ江下流域の丘陵部に住まう“山の民”と“江の民”は古より近しい付き合いをしている。ソーンラントがどちらも目の敵にしている現状ではある意味で唯一の同盟相手と言っても良い。

「世界の隅々まで己の目で見る事は俺の目的の一つであるからな。機会さえあれば、“山の民”とも相見(あいまみ)えてみたいものだな」

 彼方に思いを馳せるかの様に迷宮都市より先を見据え、アレウスは杯を傾ける。

「それで、二度目のジニョール河近隣は如何でしたので?」

 尋ねる機会を逸する前に、ダイオはそそくさと己の興味ごとを尋ねてみる。

「随分と落ち着いていたな。“覇者”殿が明らかにジニョール河を越えて何かしようと云う気が既に無かったという事なのだろう。今考えれば、だが。南岸に渡って直ぐに面倒事に巻き込まれたので、さっさと北岸に戻ったが……結局、中原王朝を見て回る余裕はあまりなかったな。ソーンラントの都市を転々としていたと云った処か」

 アレウスは一同を見渡してから、「それで、この街で何が起きていたのかを教えて貰えるのかね?」と、問い掛けた。

「面倒事だ」

 リ’シンは肩を竦めながら一言で切って捨てた。

「平たく云ってしまえばそうなりますなぁ。いやはや、御迷惑をお掛けしておりやす」

 フリントは真面目な顔付きでリ’シンに頭を下げた。

 リ’シンはそれを気にするなとばかりに片手を振った。

「私はアレウスを通して“江の民”の伝承を聞いていたから知っていたのだけれど、今の評議会の議員でそれを知っている者が余りにも少なくて逆に驚いたわね」

 洋杯を掌の上で遊ばせながら、アスティアは肩を竦めて困り果てた顔付きを浮かべる。

 この場に居る者ならば知っている内容なのかも知れないが、評議会参加者以外に話すことを禁じられているためにアスティアは具体的な説明をしたくてもできなかった。

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