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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
再会
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その2

 アレウスが諦めたかの様な顔付きをした時点で害意のある相手ではないと分かってはいたのだが、このところどうにも想定外の事態に直面し続けてきたためか、何か身構えてしまうところがある。今回はそんな事にならなければ良いと思いながらも、レイはその願いが何となく叶わないと悟っていた。

 そうこうしている内に船は桟橋の横に付けられ、板が渡された。

 アレウスは脇に置いてあった荷物を方に背負い、レイに目線を送ってから桟橋へと降りていく。

 レイも自分の荷物を持ち、その後に続いた。

 一人、リ’シンだけが己の得物だけを掴んで悠々と板を降りていく。

 レ’ンズの集落にあった隠し泊から大体一日程度下ってきただけなのだが、それでも何となく揺れない地面に安堵するものがあった。

 アレウスの方はそんな素振りすら見せず、自然体のまま、岸辺へと歩いて行った。

 何ともばつの悪そうな顔付きで、

「久しいな、アスティア、フリント。壮健であったか?」

 と、アレウスは声を掛ける。

「ええ、天におわす神々に日々の糧を感謝する祈りを捧げられる程度にはね」

「組合の仕事で忙殺される程度には健康ですぁ」

 声を掛けられた二人はそれぞれの思いを込め、銘々の答えを返してきた。

「それは重畳。お前たち二人がまともに生活できているのか些か不安だったからな。リサと違って、どこか浮き世離れしているところがあったからなあ」

 呵呵と笑いながら、アレウスは鋭い目付きで二人を見据えた。

 二人とも別れた時よりも確りとした身形(みなり)であり、アレウスは心中でほっとしていた。

 二人が身を持ち崩しているとは思ってはいなかったが、迷宮に潜るという目的を失ってしまったのだ。そこから新しい何かを得られるかまでは流石に読み切れなかったのである。リサとは便りを行き来させていたが、完全に大迷宮から足を洗った二人に対して繋がりを持ち続けることは対外的に拙い事になると判断していた。迷宮に潜れなくなった者にもなお強い願望を抱いて再び潜らせようと圧力を掛ける莫迦が周りに居ないわけでは無い。新しい人生を歩み出す二人と縁が切れたと周知させる必要があった。

 故に、アレウスは断腸の思いで二人との連絡を今日まで断っていた。

「一寸待ってくだせえ、旦那。アスティアの姐さんは兎も角、あっしが浮き世離れしているですって?」

「応、なまじ腕がある所為か、娑婆の流儀に自分を合わせられない盗賊が俺の徒党に居てなあ。迷宮に潜れなくなった後無事に生活できているか本気で心配していたわけだが?」

 縁を切る覚悟をしたからと言って、それまでの付き合いを全て捨てられるほどアレウスは器用ではない。器用ではないからこそ、連絡を断っていたのだ。そして、連絡を断っていたからこそ、余計に二人のことが心配でならなかった。その思いが思わず爆発するのも致し方の無い事であった。

「皆々様の御厚情の御陰で日々何とか生き抜いておりやす」

 冷たい視線を送るアレウスに対して即座にフリントは土下座をした。

 その態度からアレウスがどれほど自分に対して心配していたのか理解してしまったのである。茶化す様な答えを返したことにフリントは己が不明を恥じた。

「それで、アスティアは何か問題あるかね?」

「いえ、私は周りの助けがなければ日々の生活を送れないと知っておりますから」

 フリントとは違い、アスティアは最初から己の不明を理解していた。徒党を組む前から、徒党を組んでからも自分が世間知らずであるとことあるごとに実感していた。

「実家から呼び戻されたりはしていないかね?」

「流石に最初から修道院に入れておいて、予想以上の力を得たからと云って呼び戻す程恥知らずではなかったようですわ」

 皮肉気に笑いながら、アスティアは静かに言い放つ。

 アレウスが知る限り今の世の中、ある程度の家に生まれた場合、跡取りでもなければ他の子供は全て血を残すための予備でしかない。特に正妻、強いて言えば側室として認められている者から生まれていればまだ何かしら他の目がある。跡取りが不慮の事故で継げなくなった際の代わりであったり、跡取りが残した子供の後見人なり自分の生家で身を立てたり、他家の養子となる、婿に入る、嫁に行くなど上手くやれば自分の力で道が開ける生き様が得られる。

 ただし、庶子となると話が変わる。何らかの理由でその存在を表向きに認められないが、だからと言って野放しにすることもできない。誰からも気が付かれない様な生まれならば兎も角、誰かしらが落胤だと知っている状況だとその家から見て望ましくない者たちに担ぎ上げられて面倒な事になる可能性が生じる。それを怖れて禍根を断つのも手なのだが、一族の血が絶えそうな状況下ではそうもいかない。従って、その血を秘密裏に養えない時、敢えて衆目に曝したまま教団に預けてしまい、いざ跡取りが誰も居なくなった時に還俗させて血を残す、と言った手法を取る家が意外とある。

 アスティアはどうにもそんな育ちであった様で、あまり生家のことは語らない。

 ただ、神の啓示を受け、大迷宮に潜っている内にいつの間にか教団の最高司祭に手が届く様な力量を持ってしまったが故に、今度はその力を求めて逆に親戚からつきまとわれる、その様な立場になってしまっていた。ある意味で皮肉な話である。

「若しくは教団がどこかで話を止めているか、か。どちらもありそうなことだな」

 アレウスは静かに頷いてみせる。

 想像以上の価値が付いたから家に取り戻そうと生家が動くのと同じ様に、教団とて今のアスティアを手放すわけにはいかない。神より与えられる奇跡の使い手として並び立つ者が数える程度しかいない術者を在野に放てるほど教団にも余裕は無い。その上、今や乱世である。教団に癒しの奇跡を求めて頭を垂れに来る者が多い以上、何が何でも流出させまいと手段を選ぶまい。その程度のことをアレウスは容易に想像できた。

 付け加えるならば、大迷宮のことを知悉している神官ともなれば他に代われる者などいない。教団として何が何でも死守すべき人材となっていたし、少しでも不満を持たれるわけにはいかない。アスティアが不快と思う事柄を全て遮断しない方がおかしいとも言えた。

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