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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
再会
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その1

「意外と接岸するまで時間掛かるんだね」

 レイは暇そうに舷側から近くなってきた桟橋を見る。

 接岸するまではまだまだ時間が掛かりそうであった。

「さっさと降りたいなら今からでも艀に乗れば良いのだ」

 アレウスは肩を竦める。「まあ、どうせ向こうに行くのにも時間が掛かるから、俺は急ぐ気はないが」

 アレウスが指差した方を見てみれば、沖合にそれなりの島が見えた。

「あれが大迷宮の入り口のある島よ。謂わば迷宮都市そのものよな」

 興味津々と言った感じに見ているレイに、リ’シンは解説する。

「割と離れているんだね」

 レイは想像と違う迷宮都市を見て困惑した。

 どちらかと言えば、タンブーロの街の方こそ彼女が想像していた迷宮都市そのものだったのだ。湖畔と隔絶した距離にあるそれなりの大きさの島だとは思いも寄らなかった。

「そうでもなければ、ソーンラントとの攻防戦の時に落ちていただろうな」

 アレウスはこちら岸の地面を指差す。「ここからだと攻城兵器だろうが魔導師の術だろうがあちらまで届くものはない。並の魔導師でなければあるのかも知れぬが、居るとしたら寧ろあちら側であるからな。まあ、何ともならん」

「上陸しようにも船を近づければ魔導師の術で沈められる。運良く近づけたとしても、上陸後に一騎当千の完全武装をした戦士達が待ち構える。今も昔も人間の水軍の兵士は軽武装よ。ま、我ら鱗人(リザードマン)であろうともあの島に上陸戦を仕掛けるのは勘弁願いたい処だがな」

「ま、そんな相手に誰も喧嘩を売りたくない。故に、向こうに上陸するにもそれなりの事務処理が必要となり、誰であろうとこっちで待つのさ」

 桟橋に投げ込んだ綱で乗っている船が引き寄せられていくのを眺めながら、アレウスはのんびりとした態度で岸を眺める。

「まあ、迷宮都市あってのタンブーロ故に、な。我ら鱗人とてあちらの冒険者達には配慮しているのだ。彼らに頼り切っているこの街の者ならば猶更であろうよ」

 リ’シンは面白くもなさそうな感じでそう吐き捨てた。

 少しばかり逡巡しながら、

「少しばかり気になっていたのだが、良いかね、友よ?」

 と、アレウスはリ’シンに話し掛ける。

「なんだ?」

「急がなくても良かったのかね? 俺は想定外の帰還だから兎も角、貴殿は用事があったのではないのか?」

 アレウスは再会していた時から危惧していたことを今更訊いてみた。

 レ’ンズからの連絡がリ’シンの元に届いてから直ぐに飛んできたとしても、明らかにその動きは速すぎた。リ’シン程の立場に居る者がそう簡単に余所に駆け付けることなど非常時でもない限りできようはずもない。レ’ンズからの第一報でそれが非常時であると見抜けたのならば兎も角、そんなはずがないのだ。

 アレウスの読みでは、元々どこかに行く予定が合ったからこそ、そのついでか前倒しにして伝達と同時に出立してきたものと推測していた。

 リ’シンが外に用事があるとすれば、間違いなく迷宮都市絡みの仕事であろう。

 彼が自分の里を長く空けるわけにもいかないであろうし、迷宮都市絡みの仕事ならば手早くすますことが望まれているはずだ。

 故に、急ぎだったのではないか、とアレウスは薄々勘付いていた。

「無きにしも非ず、だな」

 鱗人独特の笑い声を上げ、「何、貴兄を置き去りにする方が又面倒であろうよ。既にこちらには、レ’ンズより連絡が廻ってきた時点で一族の者を送っている。到着が何時になるか迄は伝えていないが、向かうとの言伝をしたのだ。問題はあるまい」と、言い放った。

「ふむ。貴殿が良いのならば良いのだが……」

 何か引っ掛かるものを覚えながらも、アレウスは納得した。

「貴公の供をすると云う事より重要な話は無い。街の連中もそれで思い起こすことが多かろうて」

 この先起こることを想像してかリ’シンはふしゅふしゅと笑いを堪える。

「それ程面白いことが起きるのかねえ」

 リ’シンとの付き合いがそれなりに長かったため、アレウスはそれが何か碌でもないことが起きる前兆だと気が付いていた。

「さて、我には面白いが、貴君には面白く無いことかも知れぬし、嬉しい事なのかも知れない。その時になれば分かる事よ」

 それが待ち遠しいと言った雰囲気でリ’シンは心浮き立たせていた。

「貴殿が俺を害する気が無いことだけは分かっているがね、どうにも落ち着かぬな」

 命に問題がないと分かっていても、何か心落ち着かない時はある。アレウスにとって今がその時であった。

「為すべき事を為していれば問題などなかろうに」

「……成程、然う云う事か。確かに、前もってこちらに来ると計画していれば何ら問題を生じさせずに済んだであろうがな」

 はたとアレウスはリ’シンの狙いに気が付く。「道理で妙に船着場に人が多い訳だ。あいつら、あんなに人を引き連れて暇でも持て余しているのか?」

「寧ろ無駄に忙しいのだろうよ。その忙しさから抜け出す口実がこちらからやって来ているのだから、これ幸いとそれを利用したのだろうさね。一別以来の再会よ。戦友の帰還となれば何をさて置いて飛んできても文句を云える相手など居よう筈もないしな」

 レイは二人の会話に耳を(そばだ)てながら、陸の船着場へと目をやる。

 アレウスの言っていた通り、それなりに人だかりができていた。よく観察すると外縁部にいる者たちは船ではなく周囲を気にしている様であり、恰も内側に居る要人を守っているかの様な動きであった。

(……んー、内側に居る人達も警戒している? 臨検する気なら桟橋への係留を最初から許可する訳ないから、船への警戒ではない。それに、元々この船が来る予定なかったのだから、リ’シンが伝言を伝えた相手ぐらいしか知らないはずよねえ? すると、誰に伝えたのか、と云う事が問題なのかな?)

 軽口を叩き合う二人を後目に、レイは真面目に桟橋の袂で待ち構える相手のことを考える。

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