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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
間章 長兄の千里眼
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その6

「兄上がそう仰せならば」

 ダリウスは素直に自論を引っ込めた。

 兄が暗に匂わせていることは間違いなく道理であるし、逆の点から見ればそうだと言う答えを貰ったも同然なのである。兄の手駒を確認したいのならば、そこから導き出せるものがあればダリウスにとっては容易な作業でしかない。

「お前ならば問題ないとは思うが、変に意識されるとそこから解明される時もある。俺としてはそれを決して望まない」

「御意」

 ダリウスは兄の釘刺しに短く答えた。

「お前の方もバラーの方に出す臣下を決めておいてくれ。初めのうちは我らの臣下だけで行うしかない」

 そして、既に決まった話とばかりに長兄はダリウスに先程の計画を進める様に指示を出す。

「そうなるでしょうな。それで、アレウスはどちらに向かったのです?」

 ソーンラントの中心部で活動してたアレウスがバラーのエクサに助けられたと言うことは陥落したラヒルを脱したと言うことでもある。アレウスの性格上、実家の迷惑となる様な真似はしないだろうから、バラーに長居することはまずない。

 次に、バラーからラヒル以外に向かえる先を考えるとアーロンジュ江を北に渡るか、東に下るかである。ハイランドに帰ってきているのであれば、目の前の長兄の反応がもう少し違うと確信していた。

 アレウスの性格を考えれば、北よりも迷宮都市のある東であろうとダリウスは結論付けた。

「迷宮都市だそうだ」

 兄の返事はダリウスの推測通り、アレウスが東に江を下って行ったというものであった。

 行ったことのない土地を見て回ることも好きなアレウスである。迷宮都市に戻る前にアーロンジュ江北岸を漫遊することも考えられた。だが、南岸が戦乱の渦に巻き込まれた以上、ソーンラントの影響圏で観光する愚をするほど間抜けではないと兄の贔屓目を差っ引いても評価していた。自分の観察眼と弟の判断力が間違っていないことにダリウスは大きな満足を覚えた。

 そんな内心をおくびにも出さずに、

「おや、今度こそ宿願を果たすのですかね?」

 と、ダリウスも注目しているアレウスの夢の成就があるかどうかを兄に問う。

「無理だろう」

 残念そうな表情で男は間髪入れずに答えた。

「無理ですか」

「あれとあれが見込んだ者たちはそこに達するだけの力を有していようがそれだけで抜けられる程大迷宮は甘くはない。(ガット)が手を貸したとして……まだ癒し手ともう一人何らかの強者が欲しい処であるな」

 冷静に状況を分析し、まるで自らの出来事であるかの様に悔しがる。

 二人の弟と同じかそれ以上にこの世界に関して深く知りたいのはこの長兄である。そのためにアレウスに家に伝わる口伝を教え、迷宮都市の大迷宮へと導いた。天下の統一を目指す理由の一つも世界の根幹に繋がるものを調べやすくするためという他の群雄がそれを耳にしたら唖然としかねない動機まであるほどだ。彼ら兄弟にしてみれば死活問題なのだが、他の者たちからは理解されまいと弁えていた。

「兄上もお詳しい様で」

「判断を下せるだけの詳しい情報が集まっている分、大迷宮は予想しやすい。但し、前人未踏の地は上層の一層降りる毎の難度差を持って推し量っているに過ぎないから、実際とは違うだろうが、な」

「兄上は、大迷宮の底はどこにあるとお考えなのですか?」

 丁度良い機会なのでダリウスは思いきって兄に気になっていたことを訊いてみた。

 その成り立ちから言えば湖の底に沈んだと言われている神話の時代にあったとされる古代都市であろう。しかしながら、もし仮にそうだとしても解けない謎は幾つもある。

 迷宮都市近郊の枯れた迷宮とて神話の時代まで遡れるものが数多くある。そちらは既にただの廃墟となっているのに、大迷宮だけは上層を含めて未だに生きているのである。それらの事柄から判断すれば、大迷宮にしかないものが未だに誰もが到達していない地点にあると考えるのが常道であろう。

 兄の常日頃の言動から、大迷宮の底に何があるのか、底がどこにあるのかを推測しきっていると見立てていた。公の場では確証の無い事を決して言わない兄だが、この種の雑談でならば考えを纏めるために自分の考えを開陳する時もある。ダリウスはそれに懸けてみた。

「既にアレウスはその断片触れておるわ。嘗てあった“古の都(グ’レゴル)”、その基部こそが最下層であろうな。ただ、今の大迷宮を何者が制御しているのか迄は推測出来ぬ。情報が足りぬわ」

「まあ、底を推測出来るだけでも頭おかしいと思うのですけどね、私は」

 大体予測通りの答えを返してきた兄に挑発じみた返事をする。

「否定はせんよ。だが、“古の都”が何たるかを知っていれば自ずと然う云う推測しか出来なくなる」

 ダリウスの考えなど見透かしているとばかりに長兄は笑う。

「寧ろ何故その様なことを知っているのかお聞かせ願いたいですな」

 ある意味で予想通りの反応を示した兄に対し、ダリウスは駆け引き無しで尋ねてみる。

「アレウスが最下層にて大迷宮の謎を解いたら教えてやるさ」

 はぐらかしたと言うよりは、近い将来そうなると確信している響きで長兄は確約して見せた。

「それは意外と早く聞かせて頂けそうですな」

 ダリウスは朗らかに笑う兄に確信を持って答える。

 ダリウスもまた、アレウスならば大迷宮を踏破すると確信していた。

 問題は、それに必要な仲間をいつ得られるか、それだけの話である。

「まあ、あれは天に愛されておるからの。結局は望むが儘に事が進むであろうな」

 男は静かにそう言ってから、「……さて、何時呼び戻したものかな」と、悩ましげに呟いた。

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