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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
迷宮都市
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その17

 実際、仲間の内二人は消滅(ロスト)したのだ。生き延びたり、蘇ったのはアレウスの手柄と言うよりも本人達の資質があったからとしか言い様が無い。

 命を救ったのはそれまでの各々の生き様であり、如何なる状態でも生に齧り付く良い意味での生き汚さである。アレウスはそれに少しだけ力を貸したに過ぎない。少なくとも当人はそう考えていた。

「生き延びた人って盗賊と神官だっけ? そんなに影響力がある人達なの?」

 先程の話を思い起こしながら、レイは話の流れからその二人こそがアレウスを今でも軽く見る事ができない要因になっていると察した。

 アレウスがどう考えていようが、周りもそう考えるとは限らない。命を救われた者ならば猶更であろう。

 そして、それに影響される者たちもまた、更なる配慮をせざるを得なくなる。

 そう考えれば、アレウスが未だに持つ影響力を手放さないお抱え商家の判断は正しいとしか言い様が無い。アレウスが他の商家に転ぶ理由がなくなる上、アレウスの影響力を何かしらの形で利用できる。アレウスに愛想を尽かされない限り、だが。

「俺が旅立つ前はそうでもなかったな。まあ、本人達が所属していた組織の中ではそれ相応だったようにも見えたが」

 当時のことを思い起こしながら、アレウスは真面目に答える。

「組織?」

盗賊組合(シーフギルド)と寺院だよ。どちらも迷宮探索に深く関わっている存在だ。それらの意向を無視してあの街で行動出来たものでは無いな」

「盗賊は迷宮を探索する上での生命線、寺院は武運つたなく迷宮で死んだ際に最後に頼る場所。どちらも、無視できる様な相手ではないの」

 盗賊組合と寺院は中原の大きな街ならばどこにでも存在していると言って良い。

 盗賊組合が裏稼業である盗賊たちがお互いに情報を交換しあい、助け合う場として密やかに存在するのに対し、寺院は神が実在する世界で人々から大いなる信仰の場として尊崇されていた。

 只、迷宮都市では些か毛色が異なる。

 盗賊組合は闇に潜む訳でもなく、寺院もまた実益をもたらすものとして認識されていた。

 どちらも、冒険者として営んでいく上で必要なものとして考えられているため、領主無き自治都市でもある迷宮都市では街の運営を左右する絶大な影響力を有していた。

「最後の最後に世話になったからなあ。流石の俺でもそれは否定出来ない」

 アレウスは思わず苦笑しながら杯を空にし、「さあ、麗しのタンブーロに帰ってきたぞ」と、視線を船の進行方向にやった。

 レイも釣られて見て見ると、そこには驚くべき光景があった。

 元々対岸が霞んでしか見えない程の川幅だったのが満目の水面で視界が覆われ、再び海に向かう江がどこから始まるのかがちっとも見渡せず、ジニョール河の光景しか知らないレイとしては莫大な水量に絶句するしかなかった。

「先ずはタンブーロの街で一泊か。いや、一泊で済めば良いのだがなあ」

 独り言ちるかの様にアレウスは脳内の考えを口にした。

「迷宮都市に渡る許可が必要だからの。御主ならば、もう少し早く済むかも知れぬが、旅の疲れを取るのも悪くあるまいて」

 事情をよく知るリ’シンはアレウスの愚痴めいた独り言を宥めるかの様に身を休めることを提案する。

「迷宮都市の方には何もないからなあ、うん」

 湖の彼方を見詰めながら、アレウスは大きく溜息を付いた。

「まあの。元々狭い島じゃて、冒険者に必要な施設を優先して建てたら他の施設を用意する程の余裕がないからの」

 何とか大迷宮に挑む者が暮らせる程度の広さしかない島の上にある迷宮都市を支えているのは、対岸にあるタンブーロの街である。

 迷宮都市で産出されたものや迷宮都市に送り込む生活必需品を売買し、一時的にでも溜め込めるだけの場所が求められるのは当然の帰結であり、それが迷宮都市から最も近くで都合の良い場所が選ばれるのも必然と言えた。

 その様な経緯で作られた街であるため迷宮都市に足りないものが用意されることとなり、そのおこぼれに預かろうと中原中から商人が集まってきた。

 そして、気が付いた時には中原有数の大都市に成長していたのである。

「現役時代は命の洗濯をタンブーロでしていたしな。今も当然変わる訳が無いか」

 杯を乾してから、「あいつらの墓は……アスティアに聞けば分かるか。問題は、彼女が暇かどうか何だが……暇じゃないよなあ?」と、リ’シンに尋ねた。

「寺院の最高責任者が暇ならばそれはそれで問題よの」

「ん、んん? 最高責任者?」

 アレウスにしてみても初耳だったのか、思わず問い返す。

「逆に聞くのだがね、友よ。タンブーロ周囲で彼女程神の声を真摯に聞き、奇跡を使いこなす神職が居ると思うかね?」

「居たら驚きを通り越して、なんでこんなところで燻っているのか問い糾すな」

「ま、同じ様な奴が我の前にもいるのだが……この際それはどうでも良いとしよう」

 何か言いたげな雰囲気の儘、「少なくともアスティアは我が知る限り最高の神官よ。人当たりも良く、組織の運営も得意としておる。どこをどう遣れば教団の頂点に祭り上げられなくなるのか、知っているのであれば彼女に教えてやるのだの」と、首を横に振った。

「確かに、当人は祭り上げられるより力なき者達を救う活動を望んでいたからなあ」

 しみじみとした口調でアレウスは二三頷いて見せた。流石のアレウスでも、自分の夢を現実の都合で諦めざるを得なくなった相手には同情の念を抱く。それが戦友とも思っている相手ならば猶更であった。

 アスティアの夢も事情も知っているリ’シンからしてみても、道を示した相手が結果的に裏切りを働いていたことに思うところがあったのか、

「神託を得て、己の夢を叶える為の能力を研鑽する為に大迷宮へと挑んでいたのに、その行き着いた先が最も望まぬ結果なのだからのお。彼女を導いた神とやらは皮肉な存在らしいの」

 と、聞く者が聞く者であれば、不敬であると糾弾される様な台詞を嫌みったらしく吐き捨てた。

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