その16
「徒党からしてみても、自分達の要望に応えられない商家など存在するだけ有害だからな。潰れて貰った方が助かる。だからこそ、新しく割って入り込むならば、その商家ならではの売りがなければ、な」
アレウスにしては珍しく吐き捨てるかのような調子で嘲笑った。
そのアレウスの調子から、彼が嫌う種類の商家は想像が付いた。
しかしながら、彼が心の奥底から付き合いたいと思うような商家は見えてこなかった。
分からない事を分からないままにするよりは、多少しつこいぐらいでも聞きだしておいた方が何れ役立つに違いなかった。
素早くそう勘案したレイは、
「アレウスが付き合っている商家はどんなとこなの?」
と、率直に尋ねた。
アレウスの性格上、どうでも良い相手とは繋がりを持ち続けるとは思えない。
今でも繋がりがあると言った以上、それなりに気に入っている商家だと判断できた。
故に、レイはその商家のことを知れば、アレウスの好みの商家が理解できると考えたのだ。
「俺か? 俺はリサに誘われた徒党に入り込んだだけだからな。元々その徒党と付き合いのある商家が最初からあった状態だったからなあ。別段俺だから、と云った話は一切無いな」
アレウスは虚空を見詰めながら、「俺達が潜っていた頃は相当稼いでいたが、今はどうなのやらな」と、ぽつりと呟いた。
「彼の魔導師殿の呪符を取引のある徒党に融通したり、外との取引に力を入れるなどしている様だの。再び御主が潜り始めるまでに足場を確りと固める方針のようじゃな」
今でも迷宮都市と繋がりのあるリ’シンはアレウスの呟きの答えを知っており、あっさりと彼が知りたかったであろう現況を報告する。
「俺がもう二度と潜らないと判断しない辺りがあそこらしいと云うか……」
些か呆れ気味の口調でアレウスは大いに納得していた。
「でも、アレウスは最初からもう一度潜る気はあったんだよね?」
これまで共に行動してきた時のアレウスの言動より、レイは彼が迷宮都市に戻って大迷宮に挑む心算を有していると見極めていた。
そして、自分が見極められるのだから、彼との付き合いが濃かった者ならばそれを見通すことぐらい容易かっただろうとも察せられた。
「俺にあったとしても、その望みに足る徒党を組めるかは又別の話だ。深層に達せないなら俺としては潜る理由がなくなる訳だからな。それに、五層程度で良いのならば、俺達でなくとも人は居る訳だ。俺が潜ると見なして準備しているという事は、少なくとも七層以下に挑む徒党が復活すると目論んで用意を進めているという事になる。俺が潜るのを諦めたならば、相当な赤を出す様な博打だよ。そこまで理解した上でやっているのだろうから、俺としては偉く勝負に出ているな、としか云い様が無い」
妙に感心した顔付きでアレウスは静かに一つ二つ頷く。
「まあ、魔導師殿との繋がりを守っている辺り、勝算はあると信じているのだろうよ」
リ’シンは真顔で、「些か逆説的ではあるが、そうしなければ身代を保ち得ないと考えているのやも知れぬな」と、続けた。
「身代を保ち得ない、か。急激に膨張しただろうからなあ」
思い当たる節があるのか、アレウスはしみじみとした口調で呟いた。
アレウスの台詞でぴんと来たレイは、
「そんなに儲かっていたの?」
と、尋ねてみた。
急激に身代が増したという事は、それ相応に人を雇い入れたという事であろう。
そして、一度雇った以上、そう簡単に辞めさせる訳にも行かない。
保てないという意味はアレウス達の徒党が抜けたことで今の体制を維持し続けるのが厳しいと言う事であろう。
「それはそうだろうよ。今迄誰も到達しなかった第六層や第七層の素材を一手に扱っていたのだ。どれほど莫大な富が転がり込んだのか、俺達では想像も付かぬ」
思わず苦笑しながら、アレウスは在りし日の自分達の成果を振り返っていた。
「持ち込んでいたのに?」
「ああ。俺達の利鞘と、あちらの利鞘の差を知らぬからな。怖ろしく儲けているのは想像付くが、それがどの程度なのかは推測すら付かぬさ。俺達に対する態度が良すぎて、他の商家に依頼する気すら無くしていたからな。比べ様がない」
肩を竦め、アレウスは自分としては充分満足していたことを告げる。
「今でもそれを続けているのであろう? あの男は賭けに勝ったと見える」
アレウスが他の商家に浮気する気が無いと見切り、リ’シンははっきりと言い切った。
「まあ、一代で財を為すだけの事はあるな。投資をすると決めたら最後まで遣り通す。徒党を解散した相手に対して、中々出来るものではないな」
ある意味で他人事の様にアレウスは感心してみせる。実際、他人事ではないはずなのだが、時としてアレウスは怖ろしく客観的にものを見る時があった。
「我に云わせれば、貴殿に対して金を払っているだけで、迷宮都市に関わる幾つかの組織と優位に交渉できるのであるから、止める方が愚かしいと思うのだがね」
「義理堅い奴らだな、全く」
リ’シンの指摘した人物を思い描きながら、アレウスは思わず笑みを浮かべる。
「命を救われたのだ。それを忘れるようでは迷宮都市で生きてはいられまい」
「同じ徒党の仲間だ。戦友を見捨てるという選択肢は俺の人生に存在しない」
当たり前の事を当たり前の様にやってのけただけ、アレウスはそう考えている。
仮に、他の者がアレウスに同じ様なことをしても、して貰ったことに感謝はするが、当然のことだと受け止めるだろう。
また、力が足りずに失敗したとしても、恨みすらすまい。大迷宮での自分の失敗は仲間の失敗、仲間の失敗は自分の失敗なのだ。その様な状況に陥った自分の判断が悪かったと思い、粛然として己の死を受け入れたであろう。




