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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
迷宮都市
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その14

 察したが故に、

「それで、アレウスは兎も角、リサさんは他にどんな稼ぎの道があったの?」

 と、露骨に話題を変えた。

「そうだな。一言で云えばこれだ」

 アレウスは然う言いながら再び呪符を取り出してみせる。「今俺が持っているもので……んー、多分、一城を贖える額、かな?」

「は?!」

 余りもの想定外の額面にレイは思わず素っ頓狂な声を上げた。

「嘘では無い」

 再び自分の方を見ているレイに対し、リ’シンは重々しく頷いて見せた。

「考えても見ろ。遣ろうと思えば“覇者”殿の軍勢を周りの森と一緒に焼却し得る能力を持った術を自在に使えるのだぞ? 安い訳があるまい」

「云われてみればそうかも知れないけれど……」

 アレウスの言葉を受けて、レイは悩み込む。

 南部生まれの彼女とて、高位の術者がどれだけの価値を有するかは理解している。その術者にしか使えない術が他人でも使えるとなればそれ相応の価値が生じるのも理解できる。

 できるのだが、それが一城と同価値を持つと言われれば流石に首を傾げたくもなる。

「我からも付け加えるならば、術者の才能が無いのにも関わらずそれだけの術を自在に使えるという点の方が重要であろうよ。並の術者ではそこまで威力のある呪符を生み出す事すら出来ぬ。それだけの呪符を作れると云うだけでも破格なのだよ」

 リ’シンが言う通り、術者というものは特別な存在である。誰でもなれる訳ではなく、才能を持ったものがそれ相応の教育を受け、その才を磨き上げてようやく一人前になれれば良いな、ぐらいの狭き道である。

 その数える程度しか居ない才能の持ち主だけが使いこなせるものを誰でも使えるとなれば確かに大きな意味を持つ。

 問題は、優秀な魔導師に一城を与える事が無駄でないにしても、流石に使い切りの物品にそれだけの価値があるかと言えば、レイからすれば疑問しか持たない。

「お前の疑問も当然だがな。勘違いしないように付け加えれば、これだけの威力を有する術を誰にでも使える呪符に落とし込めるのは俺が知り得る限り片手の指にすら満たない程度だ。失敗すれば、リサ以外にいないと云っても良いぐらいだろうな」

 アレウスの補足を聞いて、ようやくレイも納得する

 価値が付けられない領域にあるからこその値段なのだ。だから、アレウスは態々多分という言葉を付けたのであろう。実際は如何なる資産であれ買えるような代物ではないのだ。

「信用出来る相手にだけ、特殊な交換条件で作って貰えるって事かな」

「本当にお前は勘が良くて驚くよ」

 和やかな表情でアレウスはレイに拍手した。

「それで、本当に誰でも使えるの?」

「使えるとも。俺にだって使えるのだ。術を発動させるだけの代償を使用者が支払えば、だがね」

 悪戯っぽい笑みを浮かべ、「術者としての才覚もなく術を使うのだ。当然代償の大きいものならば只ではすまない。代償を支払いきれずに昏倒し、その儘その場で術が発動すると云う事故もわりと良くある話でな。己の分を弁えて使い熟せる呪符を仕入れておくべきであるな」と、爆弾発言をさらりと言って退けた。

「一寸待って? 昏倒した状態で発動した術って、自分でどうにか出来るの?」

「他者から見れば、手の込んだ自殺に見えるのではないかな?」

 本気で焦るレイに対し、飽く迄もアレウスはしらばっくれた。

「己の限界を知っておくのも才能の一つと云う事だの」

 矢張り他人事のようにリ’シンはぽそりと呟いた。

「これが実は意外と良くある事故でな。追い詰められた状況で逆転を狙って切り札を切るのに失敗して徒党壊滅、かなりの頻度で聞く割と笑えない話だな」

「かなりの頻度?」

 嫌な予感を拭いきれぬまま、レイはアレウスに問い返してみる。

 それに対して真面目な顔付きでアレウスは、

「んー、一ヶ月に一度か二度は必ず聞くなあ。それで全滅する事は少ないのだが、徒党解散に至る事はしばしばだな。大体やらかす奴は何度もやらかすからな」

 と、虚ろな笑みを浮かべて見せた。

「え、痛い目に遭ったら、二度と遭わないように工夫するものでしょう?」

 アレウスの反応から冗談ではないと気が付いたレイは驚きの声を上げる。

「傭兵にしろ、冒険者にしろ、それが長生きする秘訣なのだがな」

 アレウスは静かに苦笑する。「俺も人の事を云えた口ではないのだが、いざという時に退き時を間違える二つの陥穽があってな。一つは深追いしすぎる事、もう一つ物欲で目が眩む事、だ」

「……ん? どっちも同じじゃないの、それ」

「こう云う事には勘が働くな、レイは」

 一つ二つ頷いてから、アレウスはクスクスと笑った。

「いや、だってそうでしょう? 深追いするという事はまだ行けるという欲を抑えきれない事だし、物欲はどう考えても欲そのものじゃない?」

「然り然り。然れど、大迷宮に於いてその二つの欲は別々のものと考えた方が良かろうよ」

 正に我が意を得たりとばかりに手を打ち、アレウスは機嫌良く頷いて見せた。

「その心は?」

「何故深追いするかと云えば確かにより稼ぐ事を望んでだが、それが即ち金に直結している訳ではない。もう一方の物欲の方も必要に駆られて、と云う時がある」

 アレウスは肩を竦めながら、「どちらにしろ自慢できる状況ではなかろうがね」と、付け加える。

「大迷宮は特殊だからな」

 リ’シンは大口を開けて鱗人特有の笑い声を撒き散らした。

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