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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
迷宮都市
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その13

「んー、じゃあ、アレウスは常日頃から呪符を持ち歩いているの?」

「ある程度は、な」

「使っていれば何とかなったんじゃ無いの?」

 レイは“覇者”の軍勢に追われていたときのことを暗に仄めかす。

「人相手に使って良いモノではない」

 首を左右に振り、「あの数に対応出来る手持ちの呪符は威力があり過ぎる。今の俺の手持ちでは敵軍のみならず、周りの環境も壊滅させる威力を持つものしか無い。リサ本人ならばそこら辺を制御できるのだろうが、俺が使う呪符は呪符に書かれている通りの事しか出来ない。それにな、それだけの被害が出たのならば、その原因を探りに来るだろう。俺の力で何とか切り抜けられる状況なのに、それが原因でリサの奴が痛くも無い腹を探られる様な事態に陥る真似をする事は寝覚めが悪いのだよ」と、アレウスは真顔で言った。

「……色々と問い糾したい話が多すぎるんだけど、周辺にも被害が出るってどういう事?」

「その儘の意味だ。リサの術式は威力が大きすぎてリサ自身が制御していない限り、周りにあるもの毎、目標を破壊する。軍勢相手にこの種の術を使うとなれば、広範囲高威力のものを選ばざるを得ない。すると、どう考えてもその周りにあるものまで犠牲にする事になる。己の命の危険があるならば兎も角、流石に何とかなる状況と判断している以上、火事を起こす様な真似は出来んからなあ」

 ある意味でとんでもない事を幾つも同時に言い出しながら、アレウスは意外にも真面目な顔付きで首を左右に振ってみせる。

「火事? 火が出る術って事?」

 あれを命の危機では無かったと言い張るアレウスの言を敢えて無視して、聞き流せなかった情報をレイは確認する。

「爆破でも氷撃でもこの際何でも良いが、その属性に見合った災害を巻き起こすこと間違いない。それ程の術を使いこなせる者など直ぐに足が付く。その場にそれを為せる術者が居なかったと分かれば、今度は呪符を使った仕業と見極めが付こう。どう足掻いてもその術の威力からリサの許に辿り着くだろうさ。俺の命は助かり、リサの命は風前の灯火となる。ははは、中々笑えない冗談だなあ」

 目だけは笑っていない和やかな表情で、「俺は仲間を売らない主義でな。“覇者”が目を付けたと知れば、ソーンラントは確実にリサを殺しに来るだろう。一方の“覇者”殿も手段を選ばずにリサを引き込もうとするであろうな。彼女の意思を無視して」と、己の推測を語った。

「仕官を望まない人?」

 アレウスの台詞から、レイはリサという人物が名声に興味がない人種だと推測した。

 アレウスという実例が居るからこそ、レイもその様な人も居ると納得できる様にになっていた。

「迷宮都市に置いて、唯一俺と同じ目的で大迷宮に潜っていた、と云えば想像が付くか?」

「知識欲を抑えられない人って事かな?」

「……その側面は否定出来ないな」

 アレウスは僅かに目線を逸らす。「彼女の名誉の為に云っておくが、俺より先に“古の都”と森妖精の関係に注目していたのはリサだからな?」

「さっきの石を鑑定したのも彼女って事だよね? すると、リサさんは最初から大迷宮と世界樹は関わっていたと考えていたって事かな?」

「その通り。彼女が大迷宮に挑んでいた最大の理由が、正にその事を裏付ける為だ。“古の都”に住んでいた者達が世界樹と何らかの関係があると様々な調査から窺えていたらしくてな。だからこそ、世界樹の欠片を見つけた時の浮かれようと云ったら無かったものだよ。そして、あれが何故にそこにあったかを推測しきった。ま、それが遠因で徒党が全滅する事になったのは皮肉と云えば皮肉か」

 大きく溜息を付いてから、アレウスは静かに天を仰いだ。

「何かあったの?」

 レイはその理由を聞いて良いものか悩まない訳はなかったのだが、それでも聞かなければ始まらないと決断した。

「大きな発見をすると云う事は、その陥穽に嵌まらない様にする自制心が必要という話でな。更なる成果を求めて深入りしてしまう事が良くあってな。いくら稼いでいるからと云って、そこら辺の心の余裕が出来る訳では無い。潜れば潜る程金が掛かる様になる。そこに一攫千金の機会があれば、手を出してしまうのが人情よ。その上、その機会が一国を贖える代物であれば、猶更、な」

 苦い顔付きでアレウスは思わず再度溜息を付く。

「あの石、そんなに価値があるものなの?」

 価値がないと思っていた訳ではなかったが、実際に役立つか怪しいものが高く売れる理由を見出せなかったレイとしてはアレウスがそこまで思い詰める程高く売れるものかと首を傾げた。

「値を付けるとすれば、だ。まあ、重要な情報が然程無いからその値段で売れる訳が無いのだがね。故に、一つ見つかった以上、他にも、それも価値があるものが在ると考えてしまうのが人情であろうよ」

 アレウスとしても、理解できない思いではなかった分、止めきれなかった事に後悔しきりであった。彼にしては珍しく、今でも夢に見る程悔やんでも悔やみきれない痛恨事なのだ。

 それ故に、どこかしら自嘲を含んだ言い種となっていた。

「一番皮肉なのは、それを一番望んでいた二人が慎重論であった、という事かな、友よ?」

 それ以上深みにはまらせまいと、敢えて冗談じみた良い方でリ’シンは茶々を入れた。

「何、いくら慎重論を有していたと云えど、止められなかった時点で然したる意味は無いよ」

 リ’シンの入れた茶々に対し、苦み走った笑みを浮かべてアレウスは答える。「それに、慎重論側の二人が迷宮以外でも一攫千金を狙える立場だったのだから、説得力が無かった。今となったから見えてくるものもあるが……あいつらが俺の事をどう思っていたかは別として、惜しい戦友を失ったと思っているよ」

 アレウスの台詞を聞き、レイはちらりとリ’シンの方を見て見るが、静かに首を横に振っていた。アレウスと違い、初見のレイでは自分の表情を読み切れないと判断しての行動であった。

 レイもそれで何となくリサ以外の徒党員がどの様な心情を有していたのかを何となく察した。

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