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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
迷宮都市
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その12

「で、だ。このリ’シンが試練として持ち出した多頭蛇が洒落になって無くてな。全体の大きさがそこらの丘ぐらいあり、首を断とうにも一太刀では到底間に合わぬ大きさ。その上、それを一人で倒せという」

「いや、流石に正体を知ってからは手助けすると云ったのだぞ?」

 猶もねちねちと言ってくるアレウスに、リ’シンは慌ててアレウスの方こそが自力で倒すことに拘ったと力説した。

「前衛がいくら増えても逆に足手纏いにしかならん。自分一人で斬り合った方が増しな状況だったでは無いか」

 今更何を言い出しているのだという顔付きでアレウスは当然とばかりに自分の腕を自慢して見せた。

「その割には、件の大魔導師殿に手出しさせなかったな?」

 リ’シンとてただでは引き下がらない。

 前衛に足を引っ張る者しか周りに居なかったとしても、その時最良の後衛が同行していたことを指摘する。

 自分の不手際が事の発端だとしても、ここまで事あるごとにあげつらわれる覚えは無いのだ。追及できるときに追及しなければ何時までもねちっこく文句を言われ続けるとあれば、機を逸する訳にはいかない。

「まあ、一人でどこまでやれるか愉しかったので、な」

 リ’シンの剣幕に一種のばつの悪さを覚えながら、目を背けてアレウスは告白した。

「……質が悪いのはどちらだか」

 呆れた口調でリ’シンは首を横に振る。

 自分の不手際がある以上それに対して大きな口を叩けないが、どう考えても自分のやった事以上に質が悪い事をしていた男が大きな顔をしている理不尽さにリ’シンは何とも言えない気分となる。

「先に云っておくが、リサが作った呪符が無ければ素直に助力して貰っていたからな?」

 場に漂う雰囲気を察し、アレウスは矛先が完全に自分へと向く前に先手を打って自儘にやれた理由を明かす。「俺とて何の手立ても無いのに多頭蛇に挑む程無謀では無い」

「最高の魔導師が作り上げた呪符か。確かに、それは十二分な切り札ではある」

「俺だって再生能力を封じる一手も持たずにあんなモノと一騎打ちに応じやしませんよ? 君達、俺のことを高く買い過ぎていろんなモノ見落としていやしませんかね?」

「確かに、あの多頭蛇は松明片手に勝てる相手ではなかったからな」

 アレウスのぼやきに思わずリ’シンは苦笑した。

「呪符って何?」

 二人のやり取りを聞いていたレイが首を傾げた。

「レイ、お前さんに魔導師の知り合いは居ないんだっけ?」

 素っ頓狂な声を上げた相棒の方をアレウスは見て、「ふむ。そうか、呪符を知らないか……」と、考え込んだ。

 アレウスが考え込むのも無理はない事で、アーロンジュ江流域に住む人類種にとって術とは身近なものである。故に、魔導に精通した者が書き上げた呪符を知らない者はいない。

 一方、ジニョール河流域の人類種は人間が多く、その生来の適正から魔導を始めとした術式とは縁の遠いところがある。例外は“帝国”であり、オルドス大森林に住まう森妖精の一部族が臣従している事もあり、術に対する研究も熱心に行われている。

 南の文化に被れたソーンラントならば兎も角、これから向かう迷宮都市はありとあらゆる種の術式が集う中心地である。一通りの知識が無くては苦労することが目に見えていた。

「付け焼き刃でも無いよりは増し、か」

「アレウス?」

 怪訝そうな表情のレイを無視し、

「迷宮都市まで時間が無い。軽く詰め込んでいくぞ」

 と、アレウスは船の進む先を見ながら宣言する。

「もう少しすれば、タンブーロ湖が見えてくるな」

 アレウスに同調するかの様にリ’シンも目的地が近いことを暗に匂わせる。

「平たく云ってしまえば、呪符というものはアレだ。術者が前もって術を発動できる状態で保存しておいたものだ。良くある形はこの様な──」

 アレウスは懐から一巻の巻物(スクロール)を取りだし、「巻物の形が好まれる。他に札だったり、術具だったりするがそこら辺は製作者の趣味だな。リサはアレで保守的な奴だから昔ながらの製法や形を頑なに守っているが」と、説明した。

「へー。どうやって使うの?」

「巻物ならばそのまま封を切って開けば発動する。どこで発動させるかは製作者の癖に寄るから何とも云えぬが、リサの場合は使用者の視線の先で発動する様に調整しているな。御陰で俺でも楽に使い熟せる」

「それって凄いの?」

「そりゃ凄いさ。何せ、中には巻物封を切って発動させたい場所に投げ込むとか、作りが甘くて開いた途端に開いた場所で発動するとか酷いものも在るのだからな。リサのは使い易い上、扱い易い」

 巻物を懐にしまいながら、アレウスは機嫌良さそうに笑う。

「扱い易い?」

「ああ。矢張り製作者によっては作りが相当違ってな。封を切っていないのにひょんな拍子から発動する様なものから封を切って規定の条件を満たしているのにちっとも発動しないものまで、それこそピンからキリまである。大迷宮に潜る冒険者としては、呪符次第で生き残る確立が変わってくるものだから、そこら辺は命に関わる重要な話よ」

「直ぐ発動するから何かの際に便利って事?」

「まあ、それもあるが、大迷宮で出くわす化け物の中には物理的な攻撃が殆ど極まらない相手も居る。然う云う相手に段平で攻撃するよりも術で攻撃した方が効率的であろう? その為にも例え殴り合いを基本軸にする前衛であろうと、何らかの術が使える様にしておくことに越した事は無い。俺はリサに呪符を作って貰うことでそこら辺を解決していた訳だ」

 大迷宮を知らない者がそれを正しく想像することができないのを知った上で、アレウスは説明している。なまじアレウスの腕前をよく知っているため、レイは彼が断ち切れない相手を想像できていないのだ。

 それを理解しているが故に、アレウスはくどくならない程度に彼にしては言葉を尽くして説明していた。

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