表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
迷宮都市
71/171

その11

「……レ’ンズさんに云っていた多頭蛇(ヒドラ)の話?」

 アレウスの受けた試練で思い至ることと言えば、レ’ンズに対して鶏蛇の方が増しと言い放った多頭蛇しか浮かばなかった。

 故に、レイは素直にそれを口にした。

「そうよ、それそれ。あれと一騎打ちは流石に洒落にならなかった」

 遠い目をしながら、アレウスは首を横に振った。

「流石にあそこまでの大物と知っていれば、一騎打ちという条件は出さなかった、そこは信じてくれ」

 リ’シンは猶も焦った様子でアレウスを宥めた。

 常日頃は何があっても泰然自若としているアレウスがこれほどまでに拘る事が珍しく、

「多頭蛇ってそんなに怖いの?」

 と、レイは首を傾げた。

 レイとて多頭蛇が怖ろしいものである事ぐらいは理解しいているが、アレウスがここまで怖れ戦く程のものなのかと疑問を持ったのだ。

「小物ならばそれ程なあ。再生能力が桁外れなだけで、致死毒に気を付けていれば対処法さえ理解しているものならば余程の事が無い限り不覚は取らない。小物ならば、だが」

 首を左右に振りながら、アレウスは多頭蛇の大きさに只ならぬ拘りを見せた。

「何でそこまで大きさに拘っているのさ?」

「再生能力は、個体の大きさに比例するからだ」

 アレウスははっきりと言い切った。

「そうなの?」

「ああ。半ばこの世の存在では無い不死鳥ならば兎も角、この世のものの再生能力など本来ならば大したものでは無い。失ったものを作り直すのに何ら代償無い事などあり得まい。失われた器官を丸まんま全部作り直すのだからな。それが並の生き物なのだが、偶に生命力が無駄に溢れているナマモノが居てな。多頭蛇はその内の一つなんだが、その中でも別格と云って良い化け物でな。確実に止めを刺すまで常に再生し続ける生命力の塊だ。一本の首を落とした処で、他の首を落とすのに時間を掛けていたら落とした首がいつの間にか復活しているなんてのはざらだ。その上、年を経た多頭蛇は首の本数からして違ってくる。付け加えれば、首の本数が多い上に首回りが若いのに比べて太くなる。本体の胴回りなど云う迄もない。再生能力だけならばごり押しできれば何れは勝てるかも知れないが、一噛みで即死する激痛を招く毒まで持っている。故に、成長しきった多頭蛇を相手にするぐらいならば、鶏蛇の群れに突っ込んだ方がまだ生き残れる」

「うへえ。そこ迄なんだ」

 鶏蛇の群れがどの様なものなのかは自分の目で見た為にレイはアレウスがどれほど大物の多頭蛇を警戒しているかが如実に理解できた。

「まあ、ありとあらゆる化け物揃いの大迷宮ですら滅多に会わない様な代物だ。リ’シンの云い訳の方が正しいという事ぐらい、俺だって分かりはする。だがな、理解出来ても納得出来ないこともあると云う事だ。冗談抜きで、リサが仲間でなかったら、俺どころか碧鱗の連中も全滅していた、然う云う相手だったのだからな」

「本当に、あれを見逃していたことに何と詫びて良いか、我にも分からぬ」

 アレウスの剣幕に対し、リ’シンは叩頭虫(こめつきむし)の様に何度も平身低頭を繰り返す。

「諄い様だが、鶏蛇の群れを見逃していたなどと云う話では無いぞ? アーロンジュ江下流域の人類生息域が無くなる様な話だからな、あれ」

 真顔の儘、アレウスは厳かに想像も付かない様な状況を宣告する。

「分かっておるわ! あれを教訓として、近隣の見廻りを厳重にしておるわ」

 流石にこうも諄く念を押されたのが悔しかったのか、リ’シンも声を荒げてそれに応えた。

「えっと、そんなに凄い話だったの?」

 それまで話半分で聞いていたのだが、深刻な二人の態度を見てアレウスが言った言葉が嘘ではないとレイは直感した。

「一言で云えば、ヤバイ」

 アレウスは珍しく乱れた言葉遣いをする。「古龍(エンシェントドラゴン)が狩り場を変えたという話並みに拙いな。まだ、古龍には知性があるから場合によっては棲み分けが出来るが、多頭蛇は蛇並みの頭しか無いから、餌を求めてそこら中を食い荒らす。それを嫌って近隣の支配者が兵を出せば返り討ちになる。兵を出さなかったならば、餌を食い尽くした後に移動してくるかも知れない。討伐するまでは安心して寝られる日が来ないだろうよ」

「再生能力か、致死毒のいずれかだけならばまだ対応出来るのだがな」

 リ’シンも力なく首を左右に振ってから、項垂(うなだ)れた。

「想像も付かないや」

「まあ、中原辺りではこの種の化け物は少ないからな。致し方あるまい」

 レイの態度にアレウスは理解を示した。

「ところで、何でリサさんが仲間に居なかったら死んでいたって云っているの? 多頭蛇とは一緒に戦った訳では無いのでしょう?」

「ああ、それなあ」

 レイの問い掛けに対し、「多頭蛇と戦う際に必要な遣り方は知っているか?」と、笑いかけた。

「んー、確か……斬った端から再生してくる首の根元を焼き落とすんだっけ?」

「そうだ」

 レイの答えを聞いて満足そうにアレウスは頷いてみせる。「まあ、それでも放って置けば数日もすれば火傷跡から首が再生されるのだがな。只、流石の多頭蛇でも討伐するぐらいの時間では傷口の火傷すら再生しきらない。面倒な話だが、多頭蛇を殺しきるには完全に息の根を止める以外の方法は無い。要は、心臓をどうやってかして止めるほかに術はない訳だ」

「問題は、その心臓に至る迄に全ての首を落とし、切り口を再生できない状態にしておいて漸く止めを刺せるかどうかと云う事。当然、多頭蛇とて死にたくは無いから抵抗してくる。小物ならばその牙を気にすれば良いだけだが、大物となるとその巨体すら武器となるから質が悪い?」

 採点を求めるかのようにレイはアレウスに対し首を傾げてみせる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ