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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
迷宮都市
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その9

「そのおこぼれを生み出す徒党が現在はいないと来ている、か」

 リ’シンはそうぽつりと呟いてから静かに考え込む。

 大迷宮第四層までかなりの冒険者達が踏破できるのは長年の探索による情報の集積と先行している者達が通過する層で拾ってきたものを惜しげも無く売り捌いているからである。

 逆に、先ず自分達が使う分を確保するそれ以降の層の素材が市場に出回る事は意外と少ない。故に、その種の物を買い求めようとすると怖ろしく高くつき、壊れた際の修復を考えると実用品に用いる事は憚られていた。

 アレウスの徒党が活動していた頃は、第五層の素材や第六層の素材を自分達で使う事は無く、第七層のものもものによってはそれなりに放出していた。これにより、後一歩で第五層を抜け出せそうだった徒党が第六層の探索に手を付けられる様になったり、第四層止まりだった徒党が第五層で活動する様になったりと空前の迷宮探索大活性時代とでも言うべきものが到来した。

 この好循環はアレウスの徒党が全滅するまで続き、アレウスが迷宮都市を後にしてからは再び自分達が使う分は自分達が確保しなければどうにもならない時代に戻った。

 それでも、第五層辺りの素材ならば昔よりは出回っているのだから、全てが失われたというわけでもない。

「ああ、それで聞いておきたかったのだが。俺が迷宮都市を後にしてから、七層以降に挑んだ徒党は現れたのか?」

「現れていたら、貴君の許にも話が回ると思うのだがね? 今となっては第六層の素材ですら高騰気味だ。道中で手に入れたその辺りの素材を流通させていた腕利きが消えたのだからな」

 丁度考え込んでいた内容でもあり、リ’シンは即座に答えた。

「耳が痛い話だな」

 アレウスは思わず苦笑した。

 アレウスからしてみても自分がどれだけ迷宮都市で影響を及ぼしていたのかは把握していた上での質問だから微妙にばつが悪かった。

「何、貴君の責任でもあるまい。寧ろ、活性化させた張本人として大きな顔をしていても問題在るまい。少なくとも、第五層で活動できるものが増えた状態が続いているのは今でも貴君の影響が残っておる証左よ」

 リ’シンは己が感じたままの事をそのまま告げた。

 アレウスが大迷宮に潜るより前に比べれば、間違いなく今は恵まれた状態が続いている。第五層を安定して探索出来るものが多い内に第六層に取りかかれれば、長らく第四層で止まっていた安定して冒険できる階層が一層分下がるかも知れない。

 それだけでも充分アレウスは大迷宮に爪痕を残したと言えよう。

「だと良いのだがね」

「何か懸念でも?」

「俺が潜り始めた頃は第五層以降の情報は先ず手に入らなかった。自分の商売敵には絶対に教えないという風潮があったからな。それ自体は……まあ、致し方在るまい。只、その風潮の所為で迷宮の探索が遅々として進んでいなかったのは間違いない処だからな。又そこに逆戻りしているとしたならば、些か苦労しそうだ、と思ったまでよ」

 アレウスは大迷宮で自分が得た情報をどうでも良いものと命に関わるものは只で他の冒険者に流していた。自分達で描いた地図やそれなりに重要そうな情報は対価を支払ったものには教える様にしていた。

 これにより、慣れぬ階層で全滅して帰って来なくなる冒険者の数は相当数減り、壁となっていた階層を何とか突破出来る者達もそれなりに増えた。

 秘密主義よりある程度の小遣い稼ぎができる内に自分達しか知らないだろう情報を他の徒党に売った方が儲かるという風潮が生まれたのだ。

 何せ、それを率先してなしてる徒党こそが尤も深い所まで潜っているのである。自分達が握っている情報が陳腐化する可能性の方が高い以上、売れる内に売ってしまえという心理が働いたのも無理は無い処である。

 当然、アレウスは冒険者が多数生き残る事によって自分達に利があると知ってこの様な流れを作ったのである。

 彼の仲間で彼の狙いを完全に理解していたのは多分リサだけであろう。

 冒険者の底上げをすることで、いざという時に代わりの徒党員を速やかに見つけ出せる様にしておく、それだけの為に彼は冒険者同士が啀み合うのでは無く助け合う土壌を作り上げたのだ。

「成程、新たに徒党員(パーティメンバー)を募るにしても、腕と経験を求めたいのか」

 アレウスの狙いを当時から薄々気が付いていたリ’シンは得心する。

 最初からアレウスは本気で大迷宮を踏破する為の準備を怠りなく用意していたのだ。

 その為に作り上げた風潮が全ておじゃんになっている事を怖れていたと遅ればせながらリ’シンは気が付いたのである。

「昔に逆戻りしているとすれば、それも期待できそうに無いからな。いやはや、どうしたものかね?」

 リ’シンが自分の意図に気が付いていると見越したアレウスはそれとなく今の迷宮都市に於ける冒険者のそこら辺の意思がどうなのかを尋ねる。

「前衛一人に後衛一人、迷宮では未知数の前衛がもう一人。素直に一から育ててみたらどうだね?」

 リ’シンは暗に冒険者達の意識がアレウスの望んだ方向に進んでいないと答える。

「“覇者”が動いていなかったならば、それも選択肢の一つだったのだがなあ」

 アレウスは思わず溜息を付いた。

 時間が無いと理解しているアレウスにとって、それはどうにもならない凶報であった。

「ソーンラントが大変になるだけであろう?」

「世の中は繋がっているのだよ、我が友、リ’シン。“覇者”と相対しているのはソーンラントだけではない。“帝国”だってそうなのさ。そして、“覇者”が直接出て来ないと分かった以上、“帝国”はこの隙に他の国に攻め込むだろうさ。流石に、実家に危険が迫ったのならば、俺は帰らざるを得ないからなあ。その時はもう一度迷宮都市に戻れるかも怪しい処だ。だからこそ、成る可くならば今回の滞在で目的の一つや二つは果たしておきたい処なのだがねえ」

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