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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
迷宮都市
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その8

「五層程度迄では会う筈在るまいに」

 “江の民”の迷宮都市対応担当としての側面も持つリ’シンは流石に知られている階層であるならば、どの程度の化け物が徘徊しているのかを知っていた。

 付け加えれば、アレウスがどの程度の化け物と遣り合っていたのかも知っている。

 アレウス自身の感覚で言えば、アレウスの台詞は嘘では無いと知っているが、一般的な冒険者目線で言えば間違いなく大袈裟である。

 アレウスの相棒として各地を廻っていたレイならばそこら辺の感覚の齟齬を分かるだろうとは思ったが、それでも言っておかねば分からない事もある。勘違いさせたまま、迷宮都市に行かせるのも心残りとなりかねないので念の為、リ’シンは言ったのだ。

「アレウス?」

 問い詰めるかの様なレイの視線に対し、

「まあ、待て」

 と、アレウスは右手を前に出して制止する。

「一応云い訳は聞いてあげるけど?」

「俺は少なくとも第五層でどちらとも会った」

「……初耳だぞ?」

 アレウスの断じる言葉にリ’シンは目を真開いた。

「大っぴらに云う事を禁じられているからな」

「……一寸待って。又聞いたら引き返せない類の話?」

 レイの確認に、

「別段然う云う話ではない。只、大迷宮から出土するもので金を儲けている商家から少しばかり敬遠される様になるだけの話だ。結果的に干乾しになるかも知れぬが、俺と組んでいる限りはそうはならない」

 と、アレウスは笑って答える。

「やっぱり面倒な話じゃないか」

 レイは首を左右に振ってから大きな溜息を付いた。

「第五層でそれ程の化け物が出るのならば、怖じ気付いてそこまで潜らなくなる徒党が出る、と?」

 アレウスの台詞から箝口令の理由として考えられる事柄をリ’シンは口にしてみた。

 商家が嫌がる事と言えば、契約している徒党が安全重視で浅い階層ばかり潜る様になる事だろう。冒険者と言えど、命は惜しいし、食っていけると分かっていれば無理はしなくなる。命を懸ける以上は当たり前の考えと言えた。

「その通り。安定した収入を求める連中からすれば、悪夢の様な話だからな。逆に商家にとってしてみれば、四層と五層では利鞘の桁が違う。折角第五層を安定して潜れる様になった子飼いの徒党が四層に戻るようなことになれば大損だ。故に、この話は余り大っぴらに広めないでくれと頼まれてはいる。俺に云わせれば、第五層で想定外の敵に出くわして全滅した方が大損だと思うのだが、自分達は大丈夫とでも思っているのかねえ?」

 アレウスは然う言いながら首を傾げて見せた。

「出会う条件も掴んでいるのか?」

「大凡の処は」

 リ’シンの問い掛けに対し、アレウスは頷いてみせる。「第五層以降にはその階層の番人とでも称すべき様な強敵が極稀に生じる。ある意味で四層にもいると云えばいるのだが、何故か常時湧いているからそうだと誰も認識していないがな」

「第四層……。卒業試験、か?」

 アレウスの台詞から、リ’シンは冒険者達が第四層を攻略した際に口にしている独特な表現に思い当たった。

 曰く、第四層では考えられない強敵が絶対に辿り着かなくては行けない場所の手前にいて、それを倒さない限り第五層に到達出来ない。第五層に到達できる徒党を一人前と見なす慣例から、その強敵を倒す事を半人前からの卒業試験と渾名していた。

「御名答。四層を抜ける為の特殊な魔力波動が籠もった鉱石を採掘する為に通り抜けなければならない広場に何度倒してもいつの間にか蘇っている主。あれと同じ類の存在が下の階層にも存在している。ただ、四層の主と違い他の層のそれは蘇るまでの周期が非常に長い上、別段探索しなくても良い辺鄙な場所で湧いている。だから気が付かないものも多い、知らない者も多い。実際、気が付かない方が幸せな腕前の者の方が多いのだがね。だが、下の階層で充分やっていける者ならば、危険を冒さずにあれだけの強敵と戦えるのだから勿体ないとも云えるのだがな」

「だが、それ程の敵ならば、もう少し知られていないとおかしくないか?」

 アレウスの言葉から、リ’シンは彼が番人と称した相手の強さを理解した。

 理解したが故に、噂一つ聞かなかった事に疑問を覚えた。

「知っている奴が他に教えるわけ無かろうが。折角の稼ぎが台無しになる。知らない奴が間違えてそこに入り込んだのならば……まあ、良くて逃げ帰れれば良いかな、程度か?」

「そんなに強いの?」

 この種の話でアレウスが多少大袈裟に言う事はあっても、嘘をつかない事を知っている事から、リサは素直にアレウスの答えを確認してみる。

「大体二階層下で出てくる様な化け物が待ち構えているからな。そこに何が出るのか知らない様な経験の浅い徒党ならば、生きて帰れれば御の字よ。正直、五層を巡って糧を稼ぐ程度の収入ではその類の強敵に勝てる様な装備を用意も出来ないし、整備(メンテ)も出来ない。己の分にあった仕事をする事が、大迷宮で生き残るコツよ。しかし、俺達以外であれを討てる者がいるかと云えば……かなり背伸びしないときついであろうなあ」

 アレウスは些か考え込む姿勢を見せる。「第六層以降の素材を供給できる徒党が……一つか二つあれば良い方。連中が無茶する気を起こすかと云えば……ないだろうな。すると、今頃はあの番人共は絶賛放置中か? おっかない話だな」

「腕が足りないって事?」

「どちらかと云えば、装備の方かな」

 真面目な顔付きで、「考えてもみてくれ。例えば、鶏蛇の鱗を只の剣で斬れると思うか? 俺の太刀とて山小人の業物よ。そこら辺のなまくらであったら、あそこまで綺麗には斬れん。自身の腕もだが、装備の質も相手に併せる必要がある。四層を切り抜ける腕と装備ならば、五層で出くわす相手ぐらいならばどうとでも出来ようが、それ以上となれば話は変わる。五層で得られる素材を使い装備の質を高め、六層に挑むなり、今迄よりも楽に五層を探索する様にするかを自分達の状況によって選択する必要が生じる。そして、その装備の質を維持する為に、少なくとも五層で手に入る素材を常に手元に用意する必要もある。大迷宮を探索すると云う事は、その繰り返しだ。何もかも一足跳びにするには自分達よりも先行している徒党のおこぼれに預かるしかない。二階層下の敵と渡り合おうとするならば、装備の質に変わる何かを準備してやっと、と云った処だ。正直、遣らずに済むならやらない方が賢いというものであろうな」と、アレウスは滔々と語った。

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