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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
迷宮都市
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その6

「アレウス以外何人生き残っているの?」

「純粋な意味で生き残って大迷宮を脱したのは、俺とリサだけだ。後は瀕死の重傷ながら何とか自力で脱出劇に最後まで付いてきた神官(プリースト)に、臨死体験しながらも蘇生の奇跡で何とかこちら側に帰ってきた盗賊(シーフ)の二人ぐらいか。敵の攻撃を一身に受ける壁役をしていた戦士(ファイター)と優秀な弓の使い手だった野伏(レンジャー)の二人が完全に帰ってこれなかったな」

 当時の事を思い出してか、アレウスは大きな溜息を付いた。

 アレウスの態度から強い未練を感じたレイは、

「立て直せなかったの?」

 と、短く尋ねた。

「残念ながら。迷宮というのはあれで過酷な環境でな。特に迷宮都市の迷宮郡は深層に行けば行く程“瘴気”が強くなる。大凡(おおよそ)人間の生きていける環境とは云えん。その様な場で瀕死であったり死を体験した者は心の奥底に何らかの恐怖を抱く。迷宮を拒絶する様になるのだよ」

 真面目な顔付きでアレウスは重々しく語る。「それで迷宮に潜る冒険者を止める者は数多くいる。冒険者にとっての一つの上がり、とも云えるな」

「新しく徒党員を集めて潜り直すという選択は?」

「無い訳じゃ無かったが、流石に俺達と同じ領域に入っている奴らはいなかったし、育て直すにしても時間と金が、な。あと、致命的だったのが仲間を失った事でリサの心が折れていた節があってな。こればかりは時間以外の解決法を見出せなかった。一人で遣り直す気にもなれなかったのもあるが、生き残りで話し合った結果、徒党解散という形を取ったのだ。俺個人としては、もう一度潜る気はあるのだがね」

 肩を竦めてから、「ま、時宜(じぎ)が悪かったとしか云い様が無いな」と、アレウスは苦笑した。

「今戻るのはその時宜が来たって事なの?」

「……さあ?」

 レイの問い掛けにアレウスは首を傾げる。「それは俺にもよく分からんな。俺は兎も角、リサの奴はあの徒党の壊滅の時が自分の仲間の死に直面した初めての時だったのだ。折れるまで行かなくとも、心にそれなりの傷が付いたのは間違いない。そうでもなければ、あの時解散の話を自分から切り出しては来ないだろうからな。その傷が癒えていなければ、今行っても何の成果を得る事はあるまい」

「観光かね?」

 アレウスの答えを聞き、リ’シンは呆れた口調で尋ねた。

 リ’シンも暇人というわけではない。それなりに重要な事柄に繋がると思ったからこそ、自ら出向いていたのだ。何か意味ありそうに行動しているアレウスが何の目的も無く動いていたと分かれば、流石に呆れたくもなる。

「本来ならば、もう少ししてから行こうと思っていたのだが、世情の流れには逆らえん。ならば、これが天より与えられた機会と見なして流れてみるのも一興よ」

 開き直った態度でアレウスは豪快に笑い飛ばした。

「ボクはそれに付き合わされているのかー」

 レイは思わず天を仰いだ。

 流石に遣り過ぎだったと思ったか、

「まあ、全く目処が立っていないわけでもないさ。一応、リサとの連絡は絶やしていない」

 と、アレウスは落ち込みそうになるレイに現況を語った。

「そうだったの?」

 アレウスが無策のわけが無いと端から信じ込んでいるレイはあっさりと信じた上で、説明を求めた。只、アレウス宛の手紙が家族からしか来ていない事も知っている為に、不安を全て払拭できたわけでも無かったが。

「傭兵組合を通して手紙を実家に転送して貰い、そこから兄上に届けて貰っている」

「素直に実家教えても良かったんじゃないかなー」

 余りにも迂遠な遣り口にレイは呆れながらも、連絡が取れていた事に納得がいった。

「……流石に、迷宮都市もソーンラントの影響圏内にある訳だから、ハイランド人が堂々と自分の身の上を語るわけにもいかなくてなあ」

「それは確かに出来ぬな」

 アレウスの言にリ’シンは深々と頷いた。

「そんなに酷いの?」

 南の生まれであるレイにとって、ソーンラントが周辺諸勢力から異様に警戒されているのが不思議で堪らなかった。

 確かに大国であり、周りに与える影響も大したものであろう。

 しかし、今のソーンラントがそこまで恐れるべきものなのかとレイは疑問に思っていたのだ。

「レイ、お前さんは一つ大きな思い違いをしている」

 何となくレイの言いたい処を察したアレウスは、「なんやかんや云ってな、北の人間は皆、ソーンラントを怖れているのだ」と、真面目な顔付きで答えた。

「だって、帝国と匹敵する程の力を持っていたのは随分昔の話でしょう? 今や、中原王朝の五分か、場合によってはそれ以下なんじゃないの?」

「そのかつてのソーンラントの影響力が今でも残っておるのだよ」

 リ’シンがアレウスを制してレイに答える。「そうでもなければ、我らが必死になって抗ったりはせぬよ」

「版図は確かに見ようによっては減っている。だが、その影響力までは変わっていない。寄らば大樹の陰、いざという時に助けて貰う為に支配下を脱していても(よしみ)を結び続けようとする者達は多いのだ」

 リ’シンの言葉を補足する様にアレウスは分かり易く人の心の動きを語る。

「何せ、南とは違って、北ではソーンラントが勝手に大きくなって、勝手に小さくなる以外の動きはないからの。外の味方を付けようとする場合、ソーンラントだけが選択肢になる事が多い。そうするとな、どこからか漏れた情報をソーンラントに御注進する様な輩が出てくる訳よ。アーロンジュ江北岸の自由都市然り、我ら“江の民”しかり、あの“山の民”ですらその様な不埒者がいるぐらいだ。人間が中心となっている迷宮都市ならば、その度合いが酷くなっておっても、我は驚かんがね」

 リ’シンも自分の言葉が足りなかったのを理解してか、ある程度具体的な例を挙げて見せた。自らの種の恥も含めて。

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