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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
迷宮都市
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その4

「それは否定出来ないな」

 アレウスは訊かれなければ答えないが、訊かれた以上は素直に答える性質である。レイが自分が意図して隠した情報に辿り着いた以上、誤魔化す気は無い。

「でも、触っておいた方が良いって事だよね?」

 レイは大きく溜息を付きながら、そのまま黒石に触った。

 触った瞬間、レイの頭の中に知るはずもない知識が雪崩れ込んでくる。

 その情報の奔流にレイは翻弄され、思わず両手を頭に当てた。

 そして、黒石から手が離れた途端に元通りの光景が目に飛び込んできた。

「え?!」

 驚きの表情を浮かべるレイに、

「命の危険は無かっただろう?」

 と、和やかにアレウスは告げた。

「最後まで見続けたらどうなっていたのだ?」

 二人の遣り取りを見てから、リ’シンは徐に口を開いた。

「さて? 情報で気が狂う程は詰まっていないと思うがね」

 リ’シンの言わんとしている処を先読みし、アレウスは己の推測を告げてみせる。

「何を根拠に?」

「この程度の欠片では自ずと限界があろうさ」

「……道理だが……。しかし、なあ?」

「結局、この石は何なの?」

 黒石が何か分かっていて話し合っている二人とは違い、レイはそれが何なのかがちっとも分からなかった。

 二人の会話がどんどん黒石についての深い話に入り込んでいきそうなので、致し方なく横槍を入れることにした。

 レイが唐突に黒石の正体について尋ねて来たことに驚くことも無く、

「世界樹の破片が石化したものさ。本来ならば、世界樹から離れた時点でこの種の力は無くなるらしいのだが、森妖精が刻んだ文字(ルーン)によって今でも生きているのであろうな」

 と、アレウスは簡単に説明した。

「世界樹は欠片も存在しないんじゃ無かったんだっけ?」

 先程のアレウスの発言を思い起こしながら、レイは小首を傾げてみせる。

「ああ、これは本来この地のものでは無い。拾ったのは大迷宮の中だがね」

「……? それって、存在していたって事じゃないの?」

 迷宮都市に疎いレイとて、大迷宮と呼ばれる場所が迷宮都市の地下にある事と、有史以前の謎に包まれた魔法文明と呼ばれている時代の都がタンブーロ湖に埋もれている事ぐらいは知っている。大迷宮とはその都に通じる唯一の道と言われていた。

 レイからしてみれば、“古の都”に関わるものが大迷宮に落ちていても不思議では無いのであり、寧ろ何でそれが関わっていないと断言できるのか疑問であった。

「外から運び込まれた代物なんだよ、“古の都”に、な」

 レイの態度から直ぐに彼女の勘違いに気が付き、アレウスは黒石の由来を教える。

「何でそうだと分かったの?」

 アレウスがこの種のことで嘘をつく男でないことは先刻承知している。

 だからこそ逆に、そこまで確信している背景となる情報の存在をレイは気になったのだ。

 アレウスがそこまで信頼するものが何かと言う事を。

「これを見つけた場所が特殊でな。どこから来たか迄は分からなかったが、“古の都”が水底に沈んだ日に森妖精の使節団が泊まっていた宿舎であったらしい」

「随分と確信している物云いだな」

 どこ由来かと言うことに強い興味を持っていたのか、リ’シンは横から口を挟んだ。

「同じ場所に落ちていた日記やらその他諸々を解読した結果だ。あの時の徒党には頼りになる魔導師がいたのでね」

 アレウスは肩を竦めながら、「ま、今説明した世界樹絡みの知識は全部彼女の受け売りだ」と、苦笑しながら再び黒石を茶巾で包む。

「ああ、彼女か」

 リ’シンは深々と頷く。「ならば納得だ。当世最高の魔導師と名高かった彼女ならば世界樹に関する知識が深くてもおかしくはない」

「有名な人なの?」

「ふむ、有名かどうかと云われると難しい処だの」

 レイの問いに、リ’シンは考え込む。

「俺が迷宮都市に流れ着いた頃の北の冒険者界隈では少なくとも有名だったな。只、今だとどうであろうな? 徒党解散からそれなりの月日が流れているし、もしかしたら、彼女を越す魔導師が育っているやも知れぬからなあ」

 アレウスも首を傾げながら、「こんな事ならば、無理矢理にでも(ガット)を連れてくれば良かったな」と、ぼやいた。

「まあ、仕方あるまい。本気で逃げを打った丘小人(ホビット)を捕まえられる者など滅多におらんよ。あれは天性の忍びの者故に、な」

「本当に船が嫌いだからなあ」

 アレウスはリ’シンの取り成しに苦笑で答えた。

「ああ、彼女がいつの間にか消えていたの、船が嫌いだからなのか」

「船酔いするわけではないのだが、どうにも水の上に居るのが落ち着かないらしい。ま、先にどうやってかして、迷宮都市に辿り着いているだろうさ」

 そこまで言ってから、「……そうか、最近の迷宮都市の噂話を先に聞き出すべきであったか。どうにも、気が抜けているな」と、アレウスは天を仰いだ。

 リ’シンは再び杯に口を付け、

「“覇者”に追われて五体満足でいるのだから、先ずは満足するべきであろうさ」

 と、笑い飛ばした。

「ま、人から見ればそうなのかもしれんがね。当人としては反省するべき点は反省しておかないとどうにも、な」

 ふっと破顔してから、「さて、リサ・マックニールの話であったな。彼女は俺が迷宮都市に辿り着いた時、最初に入った徒党に参加していた女魔導師だ。その頃から迷宮都市内で知らない者はいない優秀な女性でな。彼女の引きがあったからこそ、彼女の徒党に入れて貰えたと云える」と、アレウスは語り出した。

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