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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
間章 抜山蓋世
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その3

「預ける相手を間違われたのでは無いですか、父上?」

 真剣な表情で男は父親を詰問する。

「まあ、お前は然う云うであろうな」

 受け流す訳でも無く、然りとて否定する訳でも無く、サムスンは然うとだけ答えると唸り声を上げた。

 サムスンの息子は三人いた。現在眼前にいる末子、正室が産んだエクサ、そして二人の母親に比べれば多少身分の低い側室が産んだ戦死した一番年嵩の息子である。身分が低いと言っても家督を継げないほどでは無く、当人もそれを理解していたからこそ戦陣で獅子奮迅の働きをし、誰もが惜しむ様な働きをなして討ち死にしたのである。

 家督を継がす事が出来ないにしろ、何かしらの家に養子に出すか、一家を新たに立てるかして身を立てさせようとしていたサムスンからしてみれば、それは大きな衝撃であった。

 本来ならば遺された孫に新しい家を作って与えるべきであったのだが、初孫可愛さとそれなりに家臣団から支持を受けていた息子の功を鑑みて自らの手元に引き取る事にしたのである。

 この時、末の息子は家督を継ぐ権利を残すにしてもエクサに預けるべきだと強硬に主張した。後を後々継がせるにしても、エクサの家督相続権を確りとしたものとし、然る後に序列を定めるべきだと正論を振るったのである。

「まあ、父上がジリオンの後見人になるのは道義的に見て問題はありませぬ。ですが、父上が引き取ってしまったから、ジリオンと我らの家督相続の序列がほぼ同位置と見える状況となってしまいました。その上、守役が家中でも指折りの人間至上主義者。私には父上が何を考えていたのかよく分かりませぬ」

 男は大げさに首を横に振りながら、大仰に溜息を付いて見せた。

「まあ、然う云うな、ベノブよ。儂にはあれが不憫であった、それだけで良い」

 サムスンは敢えてベノブの言を取り合おうともせずに、身内の情で動いたと誤魔化す。

 この件に関しての返答としては何時もの事なので、再度溜息を付いてから、

「左様で御座いますか」

 とだけ答えると、ベノブは押し黙った。

 ベノブは自ら進んで情報収集など裏方の仕事を自らのものと任じていた。上二人の兄が何らかの理由で跡目を継げなかった状況にでもならない限り、自分に御鉢が回ってくる事は無いと考えていた為、誰もやっていない仕事を自分のものとする事で居場所を作ったのである。

 自分にも当主になるだけの器があると自負していたが、上二人の兄を差し置いて成る程の器でも無いと理解していた。寧ろ、人間至上主義よりの兄と各勢力との調整役を務めている兄との潤滑剤をしないと家が分裂する未来しか見えなかった。それが分かった上で、必死になって先読みする材料を集めるだけの才覚もあった為に、自分が家を継いだら家中が破綻すると読み切れていたので興味がない振りをせざるを得なかった処もある。

 ある意味兄のエクサと同じく、ファーロスらしくないファーロスの一人であり、だからこそ、現在の一門の危機に対して深刻な思いを抱いていた。

 そして、噂をすれば影と言うべきか、

「御祖父様、命じられた仕事を遣り遂げて参りました」

 と、ジリオンが何の前触れも無く入室してきた。

「おお、そうかそうか。よう遣ったの」

 孫にでれでれする父親を横目で見て、ベノブは顔には出さなかったが、内心では苦虫を噛み潰していた。

 ジリオン自体にベノブは悪感情を抱いていない。寧ろ、可愛い甥っ子として猫かわいがりしすぎていると周りに苦言を受ける程である。

 祖父と孫という関係もあるが、一門の頭領であり、軍の総帥でもある相手に私人として気安く接しすぎなのである。これでは、周りが次期当主がジリオンと勘違いするのも仕方ないと云えば仕方ない事であった。

「叔父上もこちらにおいででしたか」

「何、父上に報告する事があったからね。お前の方こそどうした?」

「はい、近隣に住み着いている蛮族を蹴散らしました」

「そうか」

 甥の話を聞いてから、父親の方を見てそれが正規の命令を持って出されたものである事を看破した。

「まあ、聞くまでも無いが、成果はどうだったのだね?」

 ベノブは軽い気持ちで問い掛ける。

 この甥ならば武で不覚は取るまいと理解しての質問であった。

 だからこそ、その答えは聞くまでも無いと高を括っていた。

「はい、皆殺しにしてやりました」

 何の衒いも無く、ジリオンは事実だけを述べた。

 この時、思わず出かかった表情を押し込めた事に自分の事ながら褒め称えても良いとベノブは心中で喝采した。

 そのまま、父親の方に視線を遣ったが、他の軍忠報告を聞く時と同じ様に予断を含めぬ姿勢を保っていた。

「父上」

「有無、ジリオンよ、良くやった。追って沙汰を下す故、今は下がって身を休めるが良い」

「はい、分かりました」

 ジリオンはサムスンに一礼すると、そのまま退出する。

 二人ともまんじりとも動かずに扉を暫く眺めてから、

「父上、如何なる指示を出していたので?」

 と、徐にベノブは口を開いた。

「オーグロの安全を図る為に、周辺にいる蛮族共を追い散らしてこいと命じた」

「追い散らす、ねえ」

 ベノブは目を細めてから、「父上、どうなるか分かっていて命じましたね?」と、大きく溜息を付いた。

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