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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
江下り
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その21

 丘小人は料理上手で知られる種族で、特にハイランドの上層階級で人気がある。

 しかしながら、丘小人を雇い入れ続けるとなると幾つか障害がある。大多数の丘小人は臆病であり、自分達の住み処や生活空間から外に出ようとはしない。ハイランドの領主貴族の中には、丘小人が所領に住んでいる者もおり、その種の貴族は丘小人との信頼を築いているが故に真面目な性格の調理人を雇い入れる事が出来る。

 そうではない貴族が丘小人を調理人として雇う場合はどうなるのか?

 かなりの危険(リスク)を伴うが変わり者の丘小人を雇う他無い。

 真っ当で無い丘小人の手癖の悪さ、怠け癖、契約不履行など数え上げれば切りが無い程である。その中でも金を払えば真面に働く者を見つけ出し、他家との取り合いとならば給金の相場が上がる。真面な丘小人を雇い入れが出来る家ともなれば、余程金余りでも無ければ出来ないと見て良い。

 真面な丘小人が密偵などと行った仕事を遣る訳が無い。そこから考えられる事は、値の張る調理人であったと見るべきである。

(アレウスの実家は推察通り相当高位の家柄と思うべきだろうね)

 アレウスの立ち居振る舞いや、発言、武技の冴えを考えれば商家の出とは思えない。消去法により、アレウスは間違いなく名の知れた武門の出では無いか、とレイは相当前から考えていた。それを裏打ちする情報がさして労を掛ける事も無く懐に飛び込んできたのである。

 只、名の知れた家門の出身だとして、出奔した割には実家との仲が険悪に見えない辺りに謎が残る。これだけの器量を持った男子ならば他家に婿入りさせて自家の発展に貢献させようとするのが貴族の在り方というものである。家の意向を無視して出て来たのならば、家の追っ手を嫌う筈である。その上、アレウスが自分の生家を悪く言った事が一度も無い。それらの事を勘案すれば、アレウスは彼の実家の意向とそれ程ずれていない行動を取っていると考えられた。

(庶子の生まれならば分からないでもないけれど……少なくとも跡取りと思われるお兄さん方と仲が良好な事を考えると……)

 あっと言う間に鶏蛇を半減させていたアレウスを眺めながら、レイは尚をも考える。

 同母の兄弟と仲の悪い家も多いと言えば多いが、それよりも腹違いの同性の兄弟仲が冷めている家の方が圧倒的に多い。母親同士が相争い、自分の血の繋がった子供達にそれを吹き込む事で不仲になる。レイはそれをよく知っていた。

 そうでなくとも、家督を奪い合って同腹であろうと争う家は多い。アレウスの兄の様に弟を気遣う者は少ない。少ないからこそ、簡単に推測が付く。

 只、それを追及する気はレイには無かった。

 個人的に心構えが欲しかっただけなのだ。

 レイが考えるいざその時に、無用な動揺で選択を誤りたくなかった。

 それだけの話なのだ。

 思考がどんどん冴えてくるレイに対し、レ’ンズは肝を冷やしていた。

 リ’シンから初代の頭頂眼を預かった以上、並大抵の男ではないとみていたが、これほどのものとは思いも寄らなかったのだ。それ程、アレウスの腕は想像を絶していた。

(人間にこれほどの使い手がいるとは……リ’シンの奴め、隠しておったな)

 レ’ンズの焦りも当然のものである。

 想像以上の手練と友誼を結んでおきながら同盟関係にある自分達にその存在を一切教えてきてない“碧鱗”の狙いが読めない事、その“碧鱗”が鱗人独特の感覚器をその手練に教えている事、更には自分達でさえ苦戦する鶏蛇相手にたった一人で優位に戦い続けている事。最早、レ’ンズには理解出来ぬ領域の話である。

 鱗人には通常の視覚とものが発する熱を視覚化させる特別な感覚を用いる二つの視界があり、それを切り替える事で昼夜問わずに周囲を把握する事が出来る。

 視線に魔力を有する相手と対峙する際は、敢えて目を閉じて熱源視覚を用いて戦う事も出来る。

 だが、鶏蛇はそれが非常に難しい。鶏蛇自体が亜龍である為に鱗人と同じ熱源視覚を有している為か、その対策として体温を熱源視覚で反応しない状態まで変化させる事が出来る。流石に大きさは誤魔化せない為にある程度近寄れば草木と違う事は分かるのだが、遠目でそれを見極める事は難しく、慣れていない者ならば騙されて吐息の毒の間合いにいつの間にか迷い込む事も多い。

 だからこそ、手練の戦士が集落に近寄ってくる前に始末するのが常道であり、鶏蛇が好む環境を作り出さない様に警戒する事が重要なのである。

 鱗人でさえ苦戦する鶏蛇を相手にしてそれなりの働きをすれば誰もが認めるとレ’ンズは考え、集落の者に認めさせる為に最低でも一匹を独力で倒させようと考えていた。少なくとも、レ’ンズはそれを足掛かりにして人間との交流を限定的にでも回復させようと算段していたのだ。

(……しかし、これほどの腕前の者であれば、逆に警戒が先走る。如何したものか……)

 内心の動揺を出さぬ様に努力をするレ’ンズであったが、鱗人の顔色からそれを見抜ける他種族など居るはずも無かった。

 天性の忍びの者を除いては、だが。

(矢ッ張り若様は楽しいなー)

 他の二人とは明らかに違う視点でこの場に居る猫はやっと楽しそうなモノを見つけてご満悦であった。

 猫はレイの読み通り丘小人の仲でもかなり強い冒険者気質を持った異端者である。

 その中でも、好奇心や楽しいと言った気持ちを満たす事を第一と考える性質の生き物である。良くも悪くも彼女が居る場を引っかき回して騒動を起こそうと、けろっとしている図太さも持ち合わせていた。

 彼女の今の雇い主は飯炊き女として雇った父親とは違い、その本質を一目で見破った。

 そして、彼女が本当に望んでいる報酬を即座に用意して見せたのである。

(本当に若様と一緒に居ると飽きないなー。焦った顔を隠そうとする鱗人なんて珍しいものも見られたし、この世のものと思えない若様の剣技も確認出来たし、またぞろ若様に引っ掛かってる娘さんも見つけたし、楽しいなー)

 自分以外の報告で既に知っている事であろうが、それでもアレウスの周りに居る女の報告をしないとならない面倒事を含めて猫は自分の好奇心が満たせて満足であった。

 四方に散って逃げようとする鶏蛇を一匹ずつ確実に片付けるアレウスを見ながら、猫は雇い主に送る文面を適当に脳内で作り上げる。何となく、未だ嘗てない最大傑作を書き上げあられるのでは無いかと興奮が止まらなかった。

(どちらにしても、これで鱗人達の間に若様の名前は刻み込まれる。さてはて、この先どうなっていくかな~)

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