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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
江下り
52/171

その17

「“紅玉”とは“碧鱗”とは仲が良い部族なのかね?」

 何となくレ’ンズからリ’シンへの親しみを覚えたアレウスは一つ確認を取る。

「彼奴ら程人間に甘くは無いが、北岸の連中程人間を毛嫌いしてはおらぬ。それ故に交友はある」

 その答えはアレウスの推測通りのものであった。

 態と見つかる様に近寄ってきた上、遠巻きに船を囲んでいた当たりで敵対的では無いと踏んでいた。実際言葉を交わして人間に対してそこまで友好的で無い事も確認した。だからと言って、交渉できないほど頭は固くない。

 後は自分次第だとアレウスは判断した。

「それは重畳。話の通じない相手程質が悪い者はいない。それと、俺が乗ってきた船の航行の話なのだが──」

「人間の船が停泊出来る水辺に心当たりがある。問題が解決するまではそこに泊まらせると良かろう」

 レ’ンズも又、“碧鱗”の事を差し引いてもアレウスは信ずるに足る漢だと見なしていた。故に、彼の同行者も又アレウスの顔に免じてそれなりの応対をしても良いと見定めた。

「試練の内容を先に聞いても差し支えないかね?」

 レ’ンズは些か考えてから、

「……まあ、“碧鱗”の試練を超えているのならば別段大した問題でも無いか」

 と、ぽつりと呟く。

「矢張り内容が変わるのかね?」

「時節によっても変わる場合もある。今回は我らが集落の傍に鶏蛇(コカトリス)が大量に集まってきおってな。その退治を考えておる」

 その名を聞いてアレウスは少しだけ顔を顰める。

 鶏蛇は鶏の頭に龍の翼、蛇の尾に黄色い羽毛を持つ鳥の様な魔物(モンスター)と言い伝えられている。その吐息は猛毒を含み、視線は見詰めた相手を死に至らしめる毒を有するとも身体を石化させる魔力を有するとも言われる。アレウスが対峙した事ある魔物の中でも有数の面倒臭さを覚えた相手の一つである。

「如何程の群れだろうか?」

 嫌な予感を振り払えぬ儘、アレウスはレ’ンズに更なる情報を求める。

「正確に数えてはおらぬが、十や二十では利くまい。全てを駆逐せよとは云わぬが、我らが納得する程度は狩って欲しいものよ」

 しゅるしゅると息を吐きながら、レ’ンズはどの様な結末が待っているのか楽しみで仕方なかった。絶対に期待を裏切られない、その様な確信を持って疑っていなかった。

「やれやれ。多頭蛇(ヒドラ)よりは増しかも知れないが、鶏蛇の群れか。視線の事を考えれば俺が相手するには面倒だな」

「あれは水辺に毒を撒き散らすが故に、我らが種族の天敵の一つ。確かに、我らにとって彼奴らの視線は恐るべきものでは無いが、数で圧されれば大きな犠牲が出る。彼奴らの毒までは無効に出来ない故にな」

「どっちも人間には致命的なんだがなあ」

 レ’ンズの説明に思わずアレウスは苦笑する。「それに、あれは鳥と言うよりも蜥蜴や龍の類だろう。寧ろ、そちらの方が鱗人にとっての相性が悪い原因では無いのか?」

「……リ’シンはそこまで話したのか?」

 ぎょろりと目を剥いた表情でレ’ンズはアレウスを見詰めた。

「まあ、互いの特技を話し合った際に相手がどう見えるかとの論議があって、な」

 幾分口調を落としながらアレウスは肩を竦める。「此の儘ここで長話をしているのも何だから、そろそろ移動しないか? 船を先導して貰えると助かるのだが」

「良かろう、貴殿と共に来る者をこの先の泊まりに案内しよう。その後で、貴殿には我らが集落まで御足労願う」

「承知した。話は纏まった様であるから、一度船に戻らせて戴こう」

「有無。それでは又後で」

 レ’ンズは水中に潜り、姿を消す。

「話は大体纏まった。それでは、船に戻るとしよう」

 一緒に来た船員達にアレウスは然う声を掛け、帰還を促した。



 船に戻った後、船長に事情を説明し、アレウスはレ’ンズの先導の元“紅玉”の隠し泊まで進ませた。

 見張り役の“紅玉”の戦士と入れ替わりにアレウスはレイを伴って“紅玉”の集落へとレ’ンズの案内で向かう。

「成程。鶏蛇か」

 辺りの植生を見て、アレウスは断じた。

「流石、見て気が付くか」

 レ’ンズはアレウスの観察眼を素直に感心する。「知っていても即座に見抜ける者はそう多くないのだがな」

「どういう事?」

 二人の会話を理解出来ず、レイは首を傾げた。

「簡単な事だ。鶏蛇の毒はあらゆる“生物”に効果がある。鶏蛇の生息域で無事なものはその毒に対して耐性があるものだけだ。そして、鶏蛇も生きている以上、餌が必要だ。草食性の鶏蛇の餌は、鶏蛇の毒に耐えられる植物だけに限られる。そこに生えている草がそれだよ」

 油断無く当たりの気を探りながら、アレウスは当たりに繁茂している植物の状態を観察した。軽く見た限り、ここらに生えているものについては食い荒らされている様子は無かった。

「この草が群生する様だと鶏蛇がそこらを根城にしてしまう。そうなる前に駆除するのが一番の鶏蛇対策なのだが、今回は気が付くのが遅れたのだ」

 目を瞑りながら辺りを見渡し、レ’ンズは用心深く離れた(くさむら)の方に身をむけていた。

「ふむ。鶏蛇が先か、餌が先か、と云った処か」

 洒落た調子でアレウスはよく知られた警句を(もじ)ってみせる。

「中々上手い事を云う」

 レ’ンズは手を叩き、しゅるしゅる音を立てる。

「鱗人の笑いの壷は難しいね」

 どう判断したら良いか悩みながら、レイはアレウスに囁いた。

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