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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
江下り
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その8

 十数年前にソーンラントからハイランドに大量の王族の亡命者が出た事件の発端はファーロス一門と亡命した者達との対立から始まっていた。

 その頃のソーンラントは“帝国”と真っ向から遣り合っており、軍事費はいくらあっても足りない状況であった。その様な状況下で、件の王族の一派は文化振興に予算を潤沢に用いていた。それ自体に間違いは無い。ありとあらゆる技術は途絶えれば廃れる。それを復興させる為に如何程の投資が必要かと考えれば、戦時下と言えど必要最低限の予算を廻す事自体には誰も口を挟めない事柄なのだ。問題だったのは、明らかに使いすぎだった点と、自分達の懐から出せる身分の者が国の予算で文化振興を推進していた事なのだ。

 流石に前線の兵達が困窮している状況下で、軍事費に廻さず余裕がある時に多く廻すべきな分野に予算を振り分ければ、軍部からの反感を買うのは当然の流れで有り、その代表者足るファーロスを敵に回すのは当然の理だった。

 その結果が、状況を把握していなかった──と、ファーロス一門が見なした──者達全てを謀反人と位置づけたファーロス一門が中心となって行われた大粛正である。ソーンラント支配層の上部に位置する王族の内、戦争に非協力的な家を全て武力で薙ぎ倒したのである。

 当時の王も又、ファーロスと同心しており、主戦派が厭戦派を政治的判断で排除した政変と周辺諸国は見なした。

 だからこそ、ハイランドも亡命者達を受け入れたのだが、その後の動きを考えれば処断されても仕方の無い連中だったとどの国も思い知らされた。

 その事の後遺症とでも言うべきか、ファーロス一門は特に贅を凝らした非実用品に神経を尖らせる様になってしまった。

(余裕のない家になったと兄上は表現していたな)

 元を辿ればファーロスも王家の別れである。いや、ソーンラントの貴族の大半は王家の別れであり、そうでない家を探す方が難しいぐらいだ。その様な流れを汲む家なのだから、本来ならば文化振興が国の威信に関わる事でもある事ぐらい重々承知していた筈なのである。

 だが、現当主のサムソンが当主になって以来、尚武をより好む様になっていた。元々武の名門であったのだ。それがさらに武に寄りすぎた結果、家の傾向が極端になりすぎたのだ。

 長子であるエクサがその当たりの均衡を取ろうと必死になってはいるが、極端に傾いた天秤を元に戻そうにも反対側の秤皿に載せるものへの一門に属する者からの拒絶反応が酷く、彼一代で元に戻せるものでは無くなっていた。

(更に王城が落ちた以上、文化的素養を持った人材も極端に目減りした筈。国を支えるモノは何も武と政だけでは無い。その国に根付いた文化、言葉、風習、その他諸々のその国の民としての心。それを守るのも役目なのだが、ファーロスにそれが出来るのかな)

 アレウスは自分の見た限りでは不可能だろうなと結論付けている。

 確かにエクサは傑物で、人間至上主義の悪い影響を然程受けていない様に見える。その彼がファーロスの次の当主になれるのであれば、まだ逆転の目もあろう。

 しかし、彼は既にファーロス本流から外れてしまっている様にも見えた。

 それを裏付ける様に、アレウスが聞いた噂が正しければ、彼は次期当主候補から外れてしまっている。

(そうだとしても、友誼を交わす相手としてはこれ以上ない方ではあるが)

 アレウスはそう考える。只単に、ファーロス一門人多しと言えど、話が通じるものがエクサだけとも言えるのだが。

 アレウスが考え込んでいる間に、騎士は大きな扉を叩いていた。

 扉が内側より開かれ、中で控えていた騎士が顔を出す。

「御客人を連れて参った。我が君に御報告を」

「承知した。暫し待たれよ」

 中に居た騎士は直ぐに引っ込み、暫くしてから両開きの扉がゆっくりと開かれる。「どうぞ、我が主がお待ちです」

 そのままアレウスは中へと導かれ、

「疲れている処を済まないね」

 と、応接間で待ち構えていたエクサ・ファーロスと対面する事になった。

「一応は招かれた身なので」

 予防線を張りながらも、アレウスは勧められるままに椅子に座る。

「まあ、そう身構えないでくれ」

 エクサは苦笑しながら対面に座ると、配下の騎士に、「北部産の茶を」と、指示を出した。

「それで、御用件は?」

「世間話がしたいだけだよ、アレウス君」

 警戒心を隠そうともしないアレウスに対し、エクサは終始友好的な態度を崩さなかった。

「世間話と云っても、何を求めておられるのか……」

 困惑している内心を警戒していると言った表情で隠しつつ、アレウスはエクサの真意を探る。

「実際の処、本当に世間話を求めているのだがね」

 エクサはエクサで、アレウスの警戒心を如何に解したものか悩む。「知っての通り、私は動きが取れないのでね。遠来からの客人の話を聞いて中原の流れを知りたいだけなのだよ。まあ、君の場合はお連れさんに聞かせたくない話もあるかも知れないので、会食前に呼んでみたのだがね」

「それは御配慮痛み入ります」

 実際、配慮して貰って有り難い事柄なので、アレウスは素直に頭を下げた。

 とりあえず、互いに言葉を選んでいる中、女中(メイド)がエクサの指示通りに茶道具一式を用意し、茶を入れてから一礼し部屋から下がる。

 それを確認してから、エクサは警護の者に合図を出し、騎士達も応接間から姿を消した。

「これが私が用意出来る君への敬意と配慮かな」

「恐れ入ります」

 アレウスは再び頭を深々と下げる。

 相手に表情を見られていない内に平静を取り戻そうとの意思の働きもあったが、自分を確実に殺して逃げ切れる相手に対してここまでの態度を取れるエクサに深い敬意を抱いた事も確かであった。寧ろ、畏敬の念に近いかも知れない。

 自分が相手の立場ならば、余人を交えずと言う言葉通りの行動を取れたのか怪しい所だとアレウスは自己評価していた。


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