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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
江下り
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その4

「よしなに」

 アレウスは和やかに然う言うと、部屋に戻る。(流石に、見張りが一人と云う事は無かったか。抑えるところは確りと抑えている)

 茶器を用意し、最初から何故か用意されていた水差しに入ったお湯を確認し、荷物からお気に入りの茶葉を取り出す。

 鼻唄交じりに茶を蒸らしていた処で扉を軽く叩く音が聞こえてきた。

「どうぞ、開いている」

 アレウスの入室を許可する言葉の後、

「失礼致します、御客人」

 と、それなりの立場に立って居るであろう騎士が入ってきた。

「こちらこそ御手数を」

 アレウスは立ち上がると一礼した。

「いえ、当方こそ気が回らずに申し訳ない。御屋形様より屋敷の大浴場に案内する様に命ざれました」

「おや、構わないのかな?」

 流石にアレウスも確認せざるを得なかった。

 この屋敷はバラー太守の為に用意されているものであり、太守とその家族が住まう為の者である。臣下の者達は近くに用意された宿舎やそれなりの者の為に用意された(たち)に寝泊まりするから、この屋敷にある大浴場は太守の身内が使う為のものと言える。

 高々一介の傭兵にそれの使用を許可するのだから、破格の扱いとしか言い様が無く、確認するのも仕方ない事と言えた。

「主から問題ないとの言伝を受けております。それだけ見合うものを貰った、と」

「見合うもの、ねえ。互いにそれの価値がずれていると反応に困るものだね」

 何とも言えない表情でアレウスは肩を竦めて見せる。

「致し方ないものかと。我らにとって王都陥落の報は値千金ですが、貴公の様な傭兵ならば情勢が分かり切っている以上価値が無い。高く売れる所に高く持ち込んだ、それだけの話でありましょう」

「どちらかと云えば逃げ込んだ、かな」

 アレウスは思わず苦笑した。

「どちらにしろ、我らから見れば貴公は恩人なのです。今、この屋敷にいるものならば誰も異論を唱えませぬ」

「いない者は唱える、か」

 比喩的表現では無く、それが事実である事をアレウスは瞬時に悟った。

 騎士はアレウスの表情を見て取り思わず苦笑し、

「流石に、本隊の人間は大抵ハイランド訛りがある相手を信じようとしませんからな」

 と、遠回しに肯定して見せた。

「それ程訛っているかね?」

「いえ、我らで無ければ気が付かない程度かと思われます。貴公がソーンラント訛りを聞き逃さないであろう様に、こちらも同じでありますよ」

「何と云うか、職業病みたいなものかね」

「流石に見逃す訳にはいきませぬからな。ハイランドとは小競り合いが続いておりました故に」

「確かに」

 話せる相手だとお互いに今迄の会話から想像が付いてはいたが、流石に腹を割って話すには拙い内容でもあり、アレウスはこれ以上話を転がさない為に短い相槌を打った。

 騎士の方もそれで察し、

「今すぐ御案内致しましょうか?」

 と、本題に戻った。

「お願い出来るかな? こちらも直ぐに支度をする」

「承知致しました。部屋の外でお待ちしております」

 一礼し、騎士は客間から退出する。

 アレウスは茶碗に茶を入れ、一服してから替えの下着と衣服を荷物から取りだし、荷造りすると部屋を出た。



 風呂を出た後、部屋でレイに書き置きを残してから、アレウスは自分に割り当てられた寝室で随分久しぶりの真面な睡眠を取った。

 目を覚ましたのは日が西に沈もうかとしている時刻で、流石のアレウスも気怠さを取り切れてはいなかった。

(ま、未だに敵地にある以上、完全な睡眠は望むべくもないか)

 ハイランド出身者にとって、ファーロス一門は代々の仇敵に近い。いくらエクサ・ファーロスが話の分かる男だからと言って、完全に気を許せる相手でもなかった。

 それでも、ほぼ一睡もせずにラヒルから強行軍でバラーまでやってきた後なのだ。心安まらなくとも、肉体の疲労は少しでも回復させるに越した事は無かった。

(迷宮都市までは休まる時は無いか)

 この先の旅路を考え、些かアレウスは気が重くなる。(早めに彼らと接触出来れば問題ないのだが……流石に今の江の様子は分からないからなあ)

 着替えながら、何時でも強行突破で逃げられる様な荷造りを心掛け、アレウスは何時でも人と会える姿に身を整えた。

 愛刀を腰に差し、客間へと足を運ぶ。

(……ふむ、レイは起きていないのか……)

 寝る前に書き置いたものがそのまま机の上にあるのを見て、アレウスはレイがあれから一度も起きていないと察した。

 その儘になっている茶道具をざっと確認してから、アレウスは湯が入っていた水入れを見る。

(湯を入れ替える為に部屋に入ってきてはいない。こちらから何か云うまでは干渉しないという事かな? 俺の事を考えれば、誠意ある対応と云えるな)

 心中でエクサに対する評価を更に高めて扉に向かおうとした時、おとないを告げる音が高らかに響いてきた。

「どうぞ、開いている」

 アレウスは仕方なく席に着いてから返事をした。

「失礼致します」

 先程の騎士が一礼してから入室してくる。「我が主から夕食を共に取らないかとの言伝を預かって参りました。如何でしょうか?」

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