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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
間章 次兄の憂鬱
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その2

「それで、先生は何を知りたいので?」

 ダリウスも又、この臣下が与えられた情報から正しい答えを導き出していると理解していた。

 何せ初めて出会った時からしてダリウスはヒューイットに負けていたのだ。そのヒューイットが自分より読みが浅いとは到底思えなかった。

 アレウスが廻国修行の旅に出てから暫くして、ハイランドは不穏な雰囲気に包まれていた。アレウスが生まれるより前に亡命してきたソーンラントの王族や貴族が勢力を伸ばし、元からいたハイランドの弱小領主の所領を横領し始めていたのである。只、ハイランド中枢部はそれを理解せず、亡命者の好待遇に対する嫉妬程度にしか考えていなかった。これは亡命者達が王都では腰が低かった為に常日頃から中央に不満を言い募っていた地方領主の言い分を中央が信じなかったという根の深い問題も孕んでいた。

 故に、問題が噴出する事自体は時間の問題であった。

 しかし、誰もが予測しなかった処で最初の狼煙が上がった。亡命者が居住する地域からは少しばかり離れた丘陵交じりの豊かな土地で中央政府への抗議活動が相次いだ。

当初、事態を甘く見ていた中央はお座なりな対応をした。それが抗議側の怒りを買い、話し合いでの解決は不可能となった。

 愚かしい事に事そこに至っても中央は事態を軽視していた。全力で火を消すべきであったのに、明らかに力の足りない者にそれを委ねたが故、他に不満を持っていた地域にも事が波及した。

 それでやっとハイランド中枢は切り札を切る事にした。近隣諸国にも“軍神”の二つ名が鳴り響いているダリウス達の父親を討伐軍の総大将に抜擢した。

 これにより流れが変わったのだが、反乱の首謀者と最初に騒動が起きた地域だけは頑強に抵抗を続けていた。

 そこで“軍神”は丁度共に出征していたダリウスに最初に騒動が起きた地域の対処を任せ、自らは首謀者と干戈を交える為に進軍を開始した。

 ダリウスは一軍を任せられるや否や、直ちに目的地に直行した。その間に集められるだけ情報を集め、現地を自らの目で確認した。結果、分かった事は理は相手方にあったと言う事と、相手方の将が実に見事な兵法家という事であった。

 より相手を知りたくなったダリウスは、到着時に捕まえていた相手の斥候を直接尋問する事にした。その場でダリウスは有ろう事か、相手の将がどれだけ優秀かを力説、ハイランド中枢の判断が間違っている事まで()ちまけた。それには斥候の方が恐縮し、ダリウスを(いさ)める程であった。

 只、ダリウスの方にも言い分がある。ハイランド有数の武門の家に生まれた者として、国内の知れた将を全て把握しているのにも関わらず、その誰よりも優れた采配を為す者が突如現れたのである。如何なる手段を用いてでもその知己を得たい処であったし、現場で知った情報から現状が余りにも馬鹿馬鹿しく思えた為に当初のやる気を全て失っていたのだ。だからこそ、この度の行動が完全な無駄な事にならない様に、少しでも何らかの収穫が欲しかった。そこで、どの様な手段を用いてでも敵方の将を手に入れ、尚且つ武力衝突以外での解決を目指そうと方向転換してもおかしくはない状況であったのだ。

 しかし、現実は彼が考えているよりも奇なものであったのだ。

()の時の殿と同じ事ですかな」

 二人の間からしてみれば、諧謔の効いた台詞でヒューイットは笑って見せた。

「これは手厳しい……」

 思わずダリウスは苦笑する。「全てを知っている方が目の前にいるとは想像も付かなかったのですよ。勘弁して下さい」

 ダリウスが参るのにも理由があった。

 ダリウスが捕まえた斥候こそがヒューイットであった。

 当時のヒューイットは騒ぎが起きた地方の小役人であり、ソーンラントに人類至上主義が蔓延した頃に移住してきた丘小人(ホビット)達の末裔を世話する係であった。世話と言っても丘小人がハイランドに帰属する為の約束事を互いに守っている事を確認する仕事であり、場合によっては国の仕事を斡旋する潤滑剤の役割を担う者であった。

 ヒューイットが抗議活動に参加したのはソーンラントからの亡命者達が丘小人を無用に痛めつけてくるのに耐えられなかったからである。この地方の者が立ち上がったのも矢張り既に同胞と認めていた丘小人達を守る為であった。

 しかし、不運な事に初戦で彼らに味方してくれた武官が討ち死にしてしまい、指揮官がいなくなってしまった。そこで白羽の矢が立ったのがヒューイットであった。

 それまで軍とは全く関係の無い世界で生きてきたヒューイットであったが、古の兵法者の著述や“軍神”と呼ばれているダリウスの父親が行ってきた戦の研究、他にも各地の名将の行動を研究するのが趣味であり、生き甲斐でもあった。それを知る者が彼を推挙したのである。

 当然、ヒューイットは固辞したが、情勢がそれを許さず、彼は受けざるを得なくなった。

 大概の戦史研究者は理論倒れで実の無い事が多い。しかし、彼のそれは机上の空論等ではなく、恐るべき神算鬼謀となった。それまで使われていなかった才能が一気に開花した、そうとしか表現出来ない鮮やかさであった。

 そして、その鮮やかさが更なる大火を呼び寄せる事となったのだから皮肉なものである。“軍神”と当たれば彼とてどうなるか分からなかったに違いない。彼にとって僥倖だったのは、自ら新たに繰り出された軍への偵察に当たり、その指揮官がダリウスであり、彼の捕虜となった事に他ならない。それにより、彼の思うところを全て伝えるべき相手に伝える事が出来たのだ。

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