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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
虎豹騎
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その3

「ほう、ここならば……」

 街道脇の広場を見て、アレウスは一つ(うなず)く。

 街道同士を(さえぎ)る林は最早鬱蒼(うっそう)とした森と言って良く、向こう側を見る事も感じる事も何らかの異能を持っている者でもなければ察する事は不可能と言えた。

 己の首から悪寒がほぼ消え去っているのを確認してから、

「火を(おこ)さなければ、問題ない、か?」

 と、今一度辺りを見渡してみた。

「大丈夫そうかい?」

 思っていた以上の強行軍であった為か、レイも流石に息が上がっていた。

「問題あるまい。状況が判明するまで火は熾さない様に。後は──」

 更に細かい指示を出そうそうとしたアレウスは思わず絶句する。

 レイは何事かとアレウスの視線を追って、やはり絶句した。

 追い付いてきた傭兵達は二人の様子を怪訝(けげん)に思い、

「お二人さん、一体どうしたんだい?」

 と、恐る恐る声を掛けた。

 アレウスは何も言わずにそのまま傭兵達の背後を指差す。

 それに釣られて全員が後ろを振り向き、何もない事に怪訝な表情を浮かべ、そして直ぐさま異変が遙か後方の上空にあると気が付いた。

 怖ろしい勢いで土煙が産まれては後ろへ棚引いていった。

 その発生源は恐るべき速度で近づいてきており、直ぐさまに全員がそれが何を意味するかを察した。

「あの速さから、並の騎兵ではないな」

 アレウスは冷静に見立てる。「その上、あの濃さ、幅、落ち着く様子のないことから少なくとも数千騎と見立てるべきか。あっちの本街道を直進しているところから、目的地は……」

「僕達の本来の目的地と同一と考えるべきだね。そして、多分、連中はソーンラントの正規兵ではない。目撃者を平然と消しかねない勢力の騎兵、かな?」

「おそらく、な。俺の嫌な予感はそれで説明が付く。だが、ソーンラントの中心部に近いこの辺りで何者が何の目的で用意したのか、これが分からない」

 土煙を見上げた儘、アレウスは真剣な顔付きで悩み込む。

「いや、あの土煙見ただけでそこまで分かったら最早人間じゃないでしょう、それ」

「兄上ならばこの時点で既に全てを見極めただろうよ」

「比べる相手が悪すぎませんかね?」

 呆れた顔付きでレイはアレウスを見た。

「どちらにしろ、あの土煙が通り過ぎるまでは何も出来ないな」

 アレウスは開き直り、そのまま大木を背にして座り込み、佩刀を掻き(いだ)く様にして目を閉じた。

「確かに、遣る事ないなら休む方が得だね」

 一つ溜息を付いてから、レイはアレウスの隣に座り込み、荷物を広げて手持ちの武器の手入れを始めた。

 呆然としていた周りの傭兵達も我を取り戻した者から銘々に休み始める。

 少なくとも、アレウスの様子を見る限り阿呆な真似をしなければ命に関わらないと確信したのだ。息を潜めて身を休めた方が良いと誰もが理解していた。

 更に付け加えるとすれば、今の内に休めるだけ休まないとこの後どうなるかが分からなかった。目に見える脅威が現れた以上、何時どんな時に何が起ころうとも最善の動きが取れる状態を維持していなければあっさりと死ぬ。それをこの場に居る誰しもが完全に自覚したのである。

 暫くして、生真面目に雇い主を守りながらやっと到着した傭兵達も、先行した者達がそれなりに寛いでいるのを見て気が抜けたのか、倒れ込む様にしゃがみ込んだ。

 その後ろから、何故か青白い表情の雇い主が周りをきょろきょろと視線を泳がせ、アレウスの姿を見つけるや否や慌てた様子で駆け寄ってきた。

 レイはそれを横目で見て、何事もなかったかの様に再び自分の作業へと意識を戻した。

「あ、アレは何だ?」

 土煙の方を指差し、商人はアレウスに詰め寄る。

「……俺が知るか。アンタの客だろう?」

 地獄の底から響く様な冷めた声でアレウスは目を閉じた儘、商人に吐き捨てた。

「な、何を──」

 猶も何かを言おうとする商人相手に目を瞑った儘アレウスは器用に鞘に入れたままの太刀を突きつけ、

「黙っておれ。今、気を探っている」

 と、歴戦の傭兵でも思わず得物を構えそうになる殺気を飛ばして行動を制した。

 短い悲鳴も上げられずに、そのままぺたんといろんなモノを漏らしながら商人は腰を抜かしながら気絶した。

「……器用なモノだな」

 妙に感心した口調で、未だに目を閉じた儘なのに全てを察したかの様な発言をアレウスはする。「俺が気を飛ばして気絶させると踏んでいたのか?」

「いやあ、君ほどじゃないんじゃないかな。誰だって、こうなったらこうすると思うよ?」

 レイは商人がアレウスに詰め寄った瞬間、店仕舞いを慌てて開始していた。今は臭いが気になるのか、風上がどちらか素早く探し出してそちらへと避難を始めていた。

「この程度の隠し芸は一つや二つ持っていなければ傭兵として侮られるのでな」

 つまらなそうに吐き捨ててから、アレウスは目を開き、「怖ろしく練度の高い騎兵だな。一時もかからずにネカムの街に達するであろうな」と、予見した。

「うわー、そりゃ明らかに真っ直ぐ行っていたら捕捉されていたね。後は、連中の正体が知れたら楽なんだけど……」

「それは残った奴らが上手い事戻ってきてくれるのを待つしかないな」

 アレウスも又、何事もなかったかの様に立ち上がると、風上の離れた場所へと迷わずに進む。

「何で風上がそんなに簡単に分かるんだよ!」

 荷物をガチャガチャ言わせ、レイは悪態を吐きながらアレウスの向かった方に慌てて付いていく。

「兵法の基本だ。風上を取らぬと、薬を()かれた時、何もせずに負ける故に、な」

「偶に思うけど、君の云う兵法というモノは、魔法なんかよりも随分とおっかないよね」

「一つの技を極めれば魔法と同じ様に見えると云う。ならば、道半ばとは云え頂に最も近かった方々から手解きを受けた者なりの遣り様というモノもある。何、外連味(けれんみ)を効かせてこその兵法よ。まあ、外連味から幻妖に降り落ちれば……」

 最後の一言を呟きながら、アレウスはレイが見た事もない様な渋い表情を浮かべ、「いや、忘れてくれ。どうにも、愚にもつかぬ事を口走っているらしい」と、苦笑した。

この話、三日分位の文量だと思っていたんですけど、もう一寸続きそうなんですよねえ

相変わらず読みが甘い(白目)

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