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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
ラヒル強襲
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その19

「レイ、何も云わずに俺を信じろ、良いな?」

 アレウスの言葉にレイは何か言い返したかったが、二人乗りとはいえ疾駆の最中に喋る真似など遣れたものでは無く、只頷いてみせるのが限度であった。

 アレウスは無理矢理右を向き、

「レイ、右手に向かって金貨を投げ捨てろ!」

 と、一言命じてから矢を放つ。

 愛剣を握ったまま器用にも袋の口を全開にし、そのまま右手方向に投げ捨てる。

 狙い違わず革袋は宙を舞いながら適度に金貨を飛び散らせ、そのまま良い音を立てて地面にぶつかる。

 当然、“帝国”出の突騎にはある意味で聞き慣れた音である。彼の国で突騎までのし上がった騎兵ならば、金貨での報酬など両手の指でも数え足りないぐらい受け取っているのが常だ。

 だからこそ、効果は覿面であった。

 先頭を行く者がアレウスの矢で射殺された為に、後続が回避行動に移る。その本の一瞬の空白にその音は鳴り響いたのだ。

 先陣を切る何人かはレイが投げたものに目が行った為に気が付いた。

 大量の馬蹄の音に紛れ込む前に、運良くその音を聞き分けた者もいた。

 そして、先頭に立つと容赦なく撃ち込まれるアレウスの正鵠無比な射撃である。

 後続に蹴殺される確率もあるが、確実な死よりは確実な金貨を選ぶ者が出るのも仕方なかった。

 馬同士ならば避けると計算して死体の載った空馬と己の愛馬を盾に金貨を拾う者達が後続の壁となり、アレウスの想定通りある程度の足止めに成功する。

 それでも向かってくる者には容赦なくアレウスは矢を撃ち込む。

 明らかに馬上向きではない長弓で速射としか言い様の無い矢継ぎ早の射撃、その上狙った場所に百発百中の腕、アレウスに慣れているレイから見てもそれは常軌を逸した光景であった。

「レイ、同じ革袋が左にも吊してある。それを投げる準備だけしてくれ」

 レイは愛剣を鞘に収めてから、アレウスの指示通りに左側に吊してあった革袋の一つを持ち上げる。先程と同じくどっしりとした重さであり、これだけで何年遊んで暮らせるのかと考えると常人ならば頭がくらっと来てもおかしくない。

 レイが正気を保っていられるのは、アレウスならば持っていてもおかしくないと分かり切っている事と、レイ自身もそれなりに稼ぎ方というものを知ってしまったからに他ならない。アレウスの金銭感覚に対して呆れた感情を抱いているレイだが、他の傭兵から見ればレイに対して同じ様な感情を抱かれているだろう。レイとて凡百の(ちまた)に有り触れた一束いくらで投げ売りされているような傭兵とは格が違うのだ。その気になれば、数日から一週間働くだけで一年は遊んで暮らせる額を稼ぎ出せる。アレウスと組んでいた為に組合内での評価が高くなっているというのもあるが、レイ自身凄腕なのは間違いない事なのだ。

 故に、今度はアレウスの指示が出る前に左側に同じ様に革袋を投げた。

 アレウスの方も気が付くと同時に左側から来た集団の狙撃を開始する。

 先程と違うのは、先頭を駆ける武者が矢切してきた事だけであった。

「ちっ、ダッハールか!」

 舌打ちしてから、今度は鞍上のダッハールではなく馬の首を容赦なく射貫く。

 流石に矢切をするには得物を振るう空間が足りなかった為、ダッハールは慌てて馬首を転じて無理矢理矢切を行う。

 その間にもアレウスはダッハールの後から来ている部下を容赦なく撃ち殺した。

「矢は、大丈夫、なの?」

 舌を噛まないように気を付けながら、レイはアレウスに問い掛ける。

「まあ、流石に大盤振る舞いしすぎた感はあるが、後は金を散蒔き逃げるのみ。こっちは矢で牽制を仕掛けるから、後左右に一つずつある金貨を適当に蒔いてくれ」

 レイは一つ頷き、黒影の後ろ足に当たらない様気を付けながら、口を開けた革袋を逆さまにした。

 先程までと違い、大量の流れ落ちる金貨は篝火や魔法の灯りで怪しく煌めき、石畳に叩き付けられる独特の音と共に魅惑的な何かを醸し出した。

 アレウス達を追い縋ろうとせず、金貨が落ちた方へと駆け出す騎馬の群れを無視し、それでも自分達を優先しようとする者達を数騎撃ち落とす。

 相手が怯んだところで、(これ)見よがしにアレウスは視線と構えだけで周りを牽制し始める。

 矢の先端が己の身を指し示すと同時に追っ手の速度が少しだけ落ちる。

 そして、矢の先端から外れたものが再びある程度近寄ってくる。その繰り返しである。

(フン、やはりそうか)

 アレウスは脱落した者以外が包囲網を崩さずに付かず離れずの距離を保っているのを見て、自分の予想通りに事態が推移していると確信する。(連中、北門に追い込むつもりだな?)

 これが並の城邑ならば、些か博打なれど城壁の上から馬を跳び降ろす事も考えられる。上手く行けば、人馬共に無事な儘城壁外に逃げ切れる。

 だが、ここは中原有数の街ラヒルであり、その城壁は生半可の高さではない。

 その上、下は水堀であり、城壁から飛び込んで逃げようとした者が五体無事でいられる深さがある訳がない。堀とは防御の道具であり、攻撃の道具でもあるのだ。敵を助ける様な作りになっていると期待するべきではなかった。

 それ故に、逃げ切るならば、門を開けて、その門の蓋となっている吊り橋を落とす必要がある。

 ダッハール勢が自分自身の手で北門を押さえているか怪しい処だが、敵か見方か分からない者の為に門を開け放つ門番はいない。

 要するに、普通に考えれば北門に追い込めば逃げ場がないのだ。

 レイも当然気が付いている筈だが、アレウスが自信を持っている事から、何か手を打っていると確信していた。

 何があっても信じろ、レイにとってはそれだけで全てを委ねるに足りたのだ。

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