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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
ラヒル強襲
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その15

 レイは何故自分達の居場所を教えるような真似をしたのか疑問に思ったが、舌を噛まずに問い糾せる速さでなかった為にぐっとそれを呑み込んだ。

 アレウスは辺りの気を探りながら、予定を変更して目抜き通りを横切り他の裏道へと黒影を進めた。

 表通りの方に気配が集まるのを察知し、更に表から離れた路地へと黒影を導く。

 流石に、路地裏に疾駆出来るだけの広さはなく、致し方なく黒影の歩調を落としてゆっくり確実に進む。

「飛ばすんじゃなかったの?」

 一応辺りを自分なりに探ってから、レイは声を潜めて尋ねる。

「誰が聞いているか分からなかったからな。アレで表通りに集まってくれると有り難いんだがな」

 やはり、辺りを(はばか)る小さな声でアレウスは答えた。

 実際、二人の感覚が正しいものならば、先程アレウスがこれ見よがしに夜空へと鏑矢を撃ち込んだ当たりが騒がしくなっている気配がしていた。

 まだ、それ程離れていない故に騒げば気が付かれる可能性が高い。

「まあ、どうせそこら中に密偵が張っているだろうから、(いず)れは気が付かれるが……こっちが主導権(イニシアティブ)を握っている間に北に少しでも近寄っておかねばな」

「それで、何でダッハールが来たって知っているのさ?」

 先程聞こうとして聞けなかった話をレイは切り出す。「アレウスがここ暫くラヒルを拠点にしているって情報でもダッハールが掴んだの? だとしても、ラヒルの城門を打ち破れる程の戦力持っていないよね? それとも、何か劇的に状況が変わった訳?」

「情報屋が押し掛けてきてな。ダッハールが“覇者”殿の軍門に降り、バジリカ兵と一緒にネカムに入ったと云う話とどうも“覇者”殿の陣営の方でとある隊商の情報が流れている節があるって話をしてきてな。信憑性の高い話なので買わざるを得なかった」

 溜息を付きながらアレウスは答える。

「ああ、彼か」

 レイも情報屋としての豹のことを知っていたから、あっさりとアレウスの演技に騙される。

 演技と言っても、全く以て完全な嘘を言っている訳ではないので、アレウスの方も本音半分以上の台詞であった為、騙されない者を探す方が難しいぐらいであろう。

「本当に高い情報料であった……」

 そして、何故か遠い目をしながら、アレウスは虚ろに答える。

「そ、そうなんだ……」

 機嫌が良い悪いとは全く違った方向で沈み込んでいる様子を見て、レイは思わず口籠もる。

「俺の収集品(コレクション)の一つを譲り渡すんだぞ? 冗談じゃない……」

 この世の終わりとばかりにアレウスは嘆く。

「……一財産じゃないか──」

 叫びそうになるレイの口をアレウスは左手で慌てて塞ぐ。

「騒ぐな」

 溜息交じりにアレウスはレイに呟く。

 鞍上の二人を後目に、黒影は静かに北へと進む。(ばい)を噛んでいないのに、主の思いを汲んでか全く以て音を立てずに動く当たり、並の軍馬ではなかった。

 レイの鼻息が落ち着いたと見極め、アレウスは手を離し、

「頼むから静かにしていてくれ。流石の黒影でも二人載せた状態で連中の馬に勝てるとは思えん」

 と、静かに諭した。

「ごめん。余りの事に驚いちゃってさ」

 レイは素直に謝る。

 レイもアレウスの収集品を見せて貰った事があったが、どれもこれも一品物の上、今や遺失した古代魔法文明時代の魔力付与(エンチャント)が為された品々だったのだ。一城と同じ価値があると目される品一つと同価値があると情報を売り込んできた相手の度胸とそれを惜しげも無く払うアレウスの度量に驚きを覚えないで何に驚けと言うのだろう。レイの反応は当然のものであるが、今この場ではアレウスの言い分の方が圧倒的に正しかった。

「分からんでもないが、今は静かに、な」

 それが分かっているアレウスは苦笑しながらも辺りを見渡す。「それにしても静かすぎるな。敵襲を畏れて家に籠もっている訳でもないだろうから、最初から家に籠もっているのか……」

「若しくは、既にダッハールが襲撃しに来ていることを知っていて逃げたか、隠れているか?」

 あり得ないと思いながらも、レイは普通に考えたならばそうなるであろう可能性を言って見せた。

「そんな処であろうが……。どちらにしろ、表もこちらも静かすぎる……」

 アレウスからしてみても、明らかに常識外れな事が起きている今、常識に常識を重ねた仮定が意味を為さないと理解している。しているが、だからといって他の考え方の材料を持たない以上、一般論で推測するしかない。その結果が、今の状況と乖離しすぎている所為で困惑を覚えるのである。

「住民を皆殺しにした後とか?」

 常識に当て嵌められない以上、突飛抜けていそうな考えを敢えて口にした。だからと言って、決して無いとは言い切れない可能性ではある。

「無いとは云い切れぬが、占領後を見越せばそこまで“覇者”殿も阿呆ではあるまい。ロンテーモの轍は踏むまい」

 アレウスの方も分かったもので、その可能性を考えていない訳ではなかった。

 但し、アレウスの方では無く、“覇者”の方の切実な理由からそれはないと切り捨てていただけなのである。

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