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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
ラヒル強襲
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その11

(それと、兵糧が手持ちだけ、荷駄を付けずに侵攻となれば、どこかで物資を調達出来なければ十全の活躍が出来ない。途中で味方と合流してから再び進発しているか、帰り道に味方と合流する予定があるか、と云った処か……。此度はその両方であろうなあ)

 “覇者”の目的が焼き討ちを行う事でラヒルの民の不安を煽る事ならば、ソーンラント陣営が取れる手は奇襲しに来た部隊を返り討ちにするか、“覇者”の手勢をソーンラントから追い返すか、ファーロス一門を呼び戻すかのいずれかになろう。

 ファーロス一門を呼び戻すのは論外と言えた。何せ、東に戻る為の地均しをしている最中に呼び戻せば、それまでに掛けた労力が全て無駄になる。その上、対“帝国”用に描いた青図面を完全に捨てる事となるのだ。“覇者”に勝ったとしても、国の先が失われるに等しい。

 だからといって、ファーロス一門抜きで“覇者”の軍勢に勝てるとソーンラントの首脳陣も考えてはいないであろう。故に、手も足も出ないと周りから見られない為にも、奇襲を仕掛けたジャマー・ダッハールの突騎を何が何でも返り討ちにするしかない。

(“覇者”の狙いはそれだな。ダッハールを餌にある程度の兵を釣り出し、“独眼竜”率いる主力にぶつけさせる。当然、ダッハールを打つ為に全軍出撃する訳がないから、援軍を呼ばすも良し、頃合いを見計らって退却する相手を乱戦に持ち込んでそのまま城迄雪崩れ込むも良し……後は“覇者”次第か)

 大凡“覇者”が考えているであろう策の全貌を推測した事でアレウスは一先ず落ち着いた。

 ここまで推測すれば、“覇者”が何時仕掛けてくるかなども推測は容易いのだ。

 既にネカムを発したベルライン率いる主力がラヒルに近い軍勢を展開しやすい地で待ち構えており、そこにダッハールがソーンラント軍を釣り上げる。夜中に焼き討ちを行い、そのまま払暁前に撤退した場合、ソーンラント側がダッハールを見失い、夜明け後に主力が見つかり結局籠城を選ぶ可能性が高い。確実を期すならば、払暁間近に焼き討ちし、相手が混乱している間に離脱、払暁に姿を見せたまま撤退が理想的であろう。

(敵襲は深更以降だな)

 アレウスは確信する。

 夜闇が深くなってから侵入し、自分か商人を確保、その後に火付けをして目立つ様に暴れるだけ暴れてから、払暁近くに門を出て、態とらしく相手が付けられる速さで自軍の陣へと帰る。

 今、民の心に余裕があるのはラヒルが堅牢であり、ファーロス一門が戻ってさえ来れば今まで通りの生活に戻れると信じているからである。その心の拠り所を壊せば、民の心は折れる。

 それを繕う為にも、ラヒルを守る軍は出て来ざるを得なくなる。自分達がまだ負けていないと示す為にも誰にでも分かる形で勝っておかねばならないのだ。

 全ては相手の心理を読み切った“覇者”の掌の上であった。

「アレウス様」

 考え(ふけ)るアレウスの前に、何処からか忍びの者が現れ出でた。

「なんだ?」

 特に驚く事もなく、アレウスはおとなって来た理由を尋ねた。

「西門で怪しい動きがあります。ダッハール勢が仕掛けてくるものかと」

「一寸待て! いくら何でも早いだろうが!」

 男の報告を聞き、アレウスは思わず逆上した。

「は?」

 行き成り意味の分からない叱責を受け、男は困惑を隠せずにいた。

「……いや、“覇者”殿の狙いがラヒル駐屯中の軍の釣り出しであるならば、餌が見えなければ意味があるまい」

 何も知らぬ相手にいちゃもんの様な言葉を投げかけてしまった事を恥じ、アレウスは端的に己が推測した状況を説明した。

「成程。確かに一理ありますな」

 アレウスの発言を聞き、男は納得する。

 アレウスに付けられているだけあり、男はそれ相応の戦略眼と戦術眼を有していた。

 だからこそ、ある意味でアレウスよりも現状を理解していた。

「それで、ラヒルの守兵と市街で戦って負ける様な手合いなのでしょうか?」

「……何だと?」

 それはアレウスにとって考えても見なかった視点であった。

「アレウス様はソーンラントの兵と云えばファーロスの軍勢を思い起こされるでしょうが、あれは例外中の例外。あれほどの(つわもの)は余り居りませぬ。翻って、ダッハールの突騎や“覇者”の主力である虎豹騎やバジリカ兵は如何でありましょうか? それがし愚考致しますに、当家の近衛程度の練度を有しているのでは?」

「どっちも戦場往来激しい軍勢だからな、然もありなん」

 男の推察を聞き、アレウスは大いに納得する。「すると、高々千騎に達するか達していなか程度の突騎に数万の軍勢が蹂躙される……。流石にそれは……」

 アレウスとて武門の家の出、戦力と兵力が異なる事ぐらい嫌と言う程理解している。兵力とはその場に居る兵の数を示し、戦力とはその兵がどの程度力になるかを示す指標である。兵力が多くても戦力とならない場合もあるし、逆に兵力が少なくとも戦力としては恐るべきものを有する場合がある事を百も承知である。

 その上で、ダッハールの役割を陽動であり、釣りの為の餌と断じたのだ。

「当家ならば、御当主様が直率すれば容易いものかと。流石に御当主様よりは劣りますが、あのダッハールも中々の者。それなりの成果を示すのでは?」

 悩むアレウスに男は己の経験からの進言をする。

 アレウスがカペーでダッハールに付け狙われていた時、その動向を探り状況を報告していたのはこの男の仕事であった。実際に命を狙われ続けてきたアレウスの次にダッハールに関して知悉していると言っても過言ではない。いや、寧ろ主筋の者を守る為に必死に駆けずり回っていた分、この男の方がダッハールについて正しく評価しているのかも知れない。

 だからこそ、男はアレウスに直言をした。

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