表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
再会
107/171

その23

「え、一寸待ってくだせぇ? その巫女って云うのは一体おいくつなんで?」

 フリントは思わず尋ねてみる。

 流石のフリントも闇の森に住まう人類が森妖精だけなことぐらい百も承知である。

 だが、帝国の黎明期から巫女を続けているという人物が、一体どの様な存在であるのか、ぴんと来なかったのだ。むしろ、人間の寿命という尺度を持っているがために、巫女という役割を数百年から千年以上も続けるということに頭が付いてこなかった。

「……然う云えば、俺も知らないな。レイは知っているか?」

「んー、噂が確かならば、闇の森に森妖精が移ってきた時には既に居たという話だけど……一体幾つなんだろうね?」

 フリントの素朴な疑問にアレウスとレイは互いに顔を見て、首を傾げる。

 森妖精は長寿なものという固定観念から、そのことについてはちっとも考慮していなかったのだ。

 しかし、言われてみれば、巫女が如何なる存在なのか気になるところであった。

「んー、私の記憶が確かなら、有史以前よね、闇の森に森妖精が住み着いたの。少なくとも二千才を越しているわよね?」

 歴史の知識ならば二人に負けず劣らずのアスティアも軽く計算してから首を傾げた。

 闇の森の巫女はそれなりに知られた存在である。少なくとも、帝国やそれと相対する国々で闇の森の森妖精を知らない者は少ない。その精神的支柱と目されている巫女の存在は闇の森に住まう森妖精の事を調べれば直ぐに突き当たる問題である。

 故に、アスティアも生家の絡みで森妖精に関してある程度の前知識があったし、迷宮都市にも闇の森出身の知り合いが幾人かいた。流石に不躾な質問はした事はないが、それでも部族の成り立ちやら、森妖精の慣わしやらを聞いた事はあり、彼女の感じたままで言えば、所謂闇の森の巫女は役割と言うよりは単一個人の称号の様に聞こえていた。

 その時は深く考えはしなかったのだが、言われてみれば違和感を感じなくもない。次に機会があれば知り合いに聞いてみるかとアスティアは心に留め置いた。

「巫女が代替わりしているのではないのか?」

「いや、森妖精だからなあ」

「森妖精だものねえ。場合に寄ったら、最初に移ってきた世代が不死の世代だった可能性もあるからね」

 リ’シンの素直な問い掛けに、アレウスとレイは互いに顔を見合って疑念を口にした。

 一般に森妖精とは最古の人類種族とも言われている。有史以前の旧い伝承にも森妖精の姿を見る事はできても、他の種族は影も形も見えないという話が多い。強いて言えば、死の神(オルクス)に捕らえられ、呪いをかけられた事で森妖精から変質してしまったと言われている南狄ぐらいだが、この伝承が真実ならば南狄もまた森妖精の一種であるから古くから存在する事自体はおかしな話ではなくなる。

 そして、森妖精に纏わる伝承の大半は“世界樹”に関わるものが多い。むしろ、一部の森妖精の口伝を信じるならば、“世界樹”の眷属が森妖精であり、その世話をするために生まれ出でた者とされている。

 従って、一部の学者は森妖精が移住した森には世界樹に纏わる何かが存在すると仮説を立てている者もいる。

 何よりも森妖精で有名な話は不老な上、長寿である事だろう。原初の森妖精は長寿どころか、不死ですらあったとも伝えられる。少なくとも、最古の歴史書に登場するとある森妖精が今でも元気に活動している点から不死でないにしても、人間から見れば限りなく不死に近く見えるだけの寿命を有していることは間違いない。

「それで、現皇帝は帝室の血を引いていたのか?」

 話が逸れそうになっているのを見て、リ’シンは慌てて元の話へと引き戻す。自分で茶々を入れておいて何なのだが、彼にとって巫女の問題よりも帝国の方が問題としての比重が重かった。

「引いていた。どの様な形で調べたのかは分からないが、森妖精と帝室の先祖が結んだ古の盟約が今の皇帝にも連なっていると巫女が保証した事で誰もがその血を疑う事をしなくなった」

 アレウスもあっさりとそれに乗る。ここに居る面子では結論の出ない話で盛り上がるよりも、残念ながら優先せざるを得ない話があった。

「それで、纏まったので?」

「一度旗頭が決まれば、後は法によって全ての種族が平等に扱われる。ある意味で帝国最大の強みだな」

 アレウスは素直に帝国を賞賛した。

 実際、他国で似た様なことが起きた場合、最悪軍のぶつかり合いを経てようやく何とかなれば良いかな、ぐらいの問題である。行くところまで行ってしまった場合、ぶつからずに済むなど滅多にないのだ。

 だが、帝国は違ったのだ。

 一触即発の雰囲気は消え去り、新皇帝の下で一つに纏まった。流石に皇帝が幼かったために政治は太師が後見することにはなったが、皇帝に不満を持つ者は誰一人たりとも出なかった。

 ただ、ある意味で不満を太師に持っていかせるために、他国出身者を前皇帝の後援者だったと言うだけで祭り上げた節もあるから、兎角世の中は一筋縄ではいかなかった。

 故に、最大の誤算は、その太師が物の僅かな期間で国内最大派閥を作り出すぐらい恐ろしく有能であったという事になるのであろう。

「でも、今回の問題の根っこは誰でも出世できるという辺りにない?」

「……難しいところだな。中原王朝は商人を卑しい者として扱っている。志や能力のある者が王朝に嫌気をさして帝国に移る事が問題だというならば、そうなのだろうが、な」

 レイの指摘にアレウスは何とも言えない顔付きで答えた。同意するには短絡的な考えであるし、否定するにも元の環境で太師が位人臣を極められたかと言えば絶対に不可能だと分かっていたからである。

 アレウス個人の考えで言えば、帝国の問題と言うよりも、中原王朝に蔓延る思想の問題であった。

 しかしながら、帝国が貪欲に他国で用いられなかった才を求める姿勢を示していなければ、違う結末になった事自体までは否定する気もなかった。

「あー、やはり南では商人が蔑まされる環境ですか」

 妙に悟った顔付きでダイオは納得する。

 ダイオ自身は北の生まれであり、南の事は話で聞いたことぐらいしか知らない。

 故に、彼は人間至上主義者たちが商人を軽く扱う事に関して噂でしか知らなかった。

 そして、アレウスとレイの反応から、それが真実であると実感できた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ