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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
再会
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その21

「ごめんなさい。頭の悪い私にもよく分かる様に説明して貰えるかしら」

 困惑するアスティアに、

「然う云いたくなるのも分かるがな、事実なんだよ。皇帝派と太師派の内戦であって、皇帝と太師の内戦ではなかったのだよ。そりゃ、皇帝派が太師の事を調べても事の真相は見えてこないと云う事だな」

 と、首を振りながらアレウスは告げた。

「旦那、それじゃ一体太師派何のために反乱を起こしたんですかい?」

 全くと言って良いほど意味の通じない話を聞かされ、フリントは途方に暮れた。

 与えられた仕事をこなそうとしても、必要な情報を理解できる頭がなければ無駄である。

 自分にその才がないのならば組合長(ギルドマスター)に言って降りれば良いだけなのだが、明らかに才があるなしの問題ではない。何か、大事な前提を自分が分かっていないだけなのだと言う事だけは理解できた。できたからと言って何か解決する訳ではないし、仕事を他人に投げたところでその相手がどうにかできる様にも思えない。

 要するに、フリントは自分自身でこの問題を解決するしかないと分かってしまったが故に困り果てたのだ。

 幸いな事に、自分では解決できない部分をどうにかしてくれそうな人物に心当たり──むしろ、今目の前に居る訳だが──があるからこそ、半分泣きついてみたのだ

「帝国の内部事情は一筋縄ではいかなくてなあ。帝国が帝国たる所以なんだが」

 やはり困り果てた顔で、何と説明して良いか考え込みながらアレウスはレイを見た。

 アレウスも情報を仕入れて自分で納得するだけのことはできるが、独力でそれを他人に説明するための言葉がないというか、自分が有している感覚を他人に説明できなかった。

 こればかりは、帝国というものが何なのかを常に真正面からぶつかり合ってきた者ではないと体感できないものとしか彼には言い様がなかった。

「んー、元々ジニョール河中流辺りで合流する支流の畔に住んでいた人間が建てた国なんだけれど、近くに住んでいたのが人間以外の人類で、勢力を伸ばしていく内にそれらの勢力を取り込んでいったんだ。で、中原中心部とは違って、人間至上主義なんて生まれも育ちもしなかったものだから、多文化共生の風土が出来上がった訳。御陰で、闇の森(オルドス)森妖精(エルフ)も部族同士の争いに負けて故郷を追われた南狄(オーク)も受け入れて、他国から見ると何が何だか分からないごった煮状態なんだよね」

 とりあえず、手始めにレイは帝国の成り立ちを簡単に語る。

 帝国の位置する中原の西の端は人間よりも他の人類種が多く住む土地柄であった。ジニョール河湾曲部内側に位置する“闇の森”に住まう森妖精や山岳部に居を構える獣人、南の高原に広がる大草原地帯での覇権争いに敗れて落ち延びてきた南狄など主立ったところだけでも人間と同じぐらいの人口を有する。国内の人口比率が似た様なものならば、どの種族の発言力も等しくなる。

 他の中原国家と異なり、帝国はその第一歩目からして異種族との協調を求められたのである。当然、中原中心部の主体思想である人類至上主義など入り込む余地はない。何せ、人類よりも他の諸種族の方が明らかに力を持っているのだ。高圧的な態度など取れようはずもない。その様な人間が帝国中枢に座ることになったのは、皮肉な事に力がなかったために、交渉や調整を武器として渡り合っていたためである。諸族合議制の議長的立場から王権を確立し、周辺諸国との争いの主導的立場を確かなものとしたのだ。

 故に、当初の帝国は寄り合い所帯の色合いの濃い国家であった。

 それが大きく変わったのは中原より一人の政治家が亡命してきた時である。

 彼は今の帝国の国是となるものを持ち込んだのだ。

 即ち、法、である。

「御陰で、人間至上主義者がそれなりに居る中原王朝とは相容れない仇敵同士となっている訳だな。森妖精伝来の魔法やら、騎乗民族である南狄の騎兵やら中原王朝を圧倒する分野が多く、ヴォーガより西が峡谷由来の隘路でもなければ中原は既に帝国が席捲していただろうさ」

 人類種の中で、人間最大の強みは適応力と数である。その強みを発揮できない状況であるならば、人間は全人種中最弱と言っても良い。帝国と中原王朝の争いは正にそれを体現したものである。

 まだ帝国が帝国ではなかった当時は中原勢力側が帝国側へと攻め込んでいた。寄り合い所帯であった当時の帝国では意思を統一して中原側に攻め込めるほどの余裕がなかったのだ。

 しかし、攻め込まれたならば話は別であり、その度に一致団結して毎回撃退していた。森妖精の魔術や南狄の騎乗戦術に勝ちうる力は中原勢力側にはなかった。

 そして、帝国が法により意思統一ができる様になると、帝国側が中原中央部に侵出しようと侵攻を開始する。当然、一致団結した帝国の戦力相手に人間主体の中原中央部の諸勢力では相手にならず、大きな損害を出した。

 そこで、有名無実となっていたヴォーガの王朝を出汁にして連合し、帝国が国内の問題で撤兵した隙にヴォーガの西の峡谷の出口付近に道を塞ぐ強大な要塞を築き、平野部に入り込めない様にした。

 流石の帝国も狭隘な道を通して攻城兵器を持ち込むのも、森妖精の魔術を用いて城門や城壁を落とす事もできず、正攻法でヴォーガを落とす事が難しい状況となった。これにより、帝国の東進は難しいものとなり、中原王朝側も帝国側出口に同じ様な城塞を築かれたために、侵攻することがほぼ不可能となったために膠着状態となった。

 中原王朝側は人間の強みである数の利を帝国陣営は特化された諸種族による状況に合わせた展開を潰され、お互いに活路を見出すには他の攻め口が必要になったのである。だからといって、互いに完全に無視できる相手でもなく国境では最精鋭が睨み合っているのが常と言えた。

「だから、帝国は東進を止めて、北上することで活路を見出すことにしたんだけど、北進して直ぐにある土地がスクォーレなんだよね。古の昔に大災害が起きたとか、魔王によって人類が追い出されたとか色々云われている曰く付きの土地だったから、帝国もかなり丁寧に調べてから占拠しているんだよね」

 レイはちらりとアレウスを見ながら言葉を選ぶ。

 彼女も広義の中原王朝出身者と言えた。そのため、スクォーレという地が自分を含めた中原王朝関係者やハイランドの支配者層にとって非常に繊細(デリケート)な問題であると理解していた。

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