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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
再会
103/171

その19

「いえいえ、こう見えても盗賊組合の幹部ですぁ。冒険者時代にはなかったモノがぽんぽんと生えてきもしますぁ」

 心外とばかりにフリントは強く抗議した。

「まあ、お前の場合は冒険者だった頃は全てを無視していただけであろうがな。今は然うも行かぬという事か」

 冗談じみた口調なれど、明らかに目は笑っていなかった。

 まだ徒党を組んでいた頃、回り回ってフリントへの注文がアレウスを通せば通るという噂が流れた事があったのである。実際、アレウスが世話をすれば、フリントに仕事をさせる事も可能であったから嘘ではないのだが、それならば最初から徒党に仕事を出せと言いたくもなる。フリントに面識があろうとなかろうと、アレウスを通している時点でフリント個人に出す理由がなくなっているのだ。自分に全く旨味のない仕事を無駄にやらされて、笑って流すほどアレウスもお人好しではない。当時はフリントの世話になる事もあったために縁が深そうな相手のものは取り次いだが、当人が相手をしていなかったのだから今となっては取り次ぐ必要すらなかったのではないかと思わないでもないのだ。

 アレウスの個人的な信条になるのだが、自分が何者かを明かした上で縁を繋いだのならば、責任を持って付き合えと考えていたので今更ながらでも嫌味の一つや二つは言ってやりたいところだったのである。

「ははは、あっしのことはどうでも良いですぁ。それよりも旦那、そろそろ旅の話を聞かせていただけやせんかねぇ。お連れの方も暇を持て余しているようですしねぇ?」

 アレウスの機嫌を即座に察知したフリントは渡りに船とばかりに話題を自分が訊きたいことに変えようとした。

「お気遣い有難う。でも、楽しく聞かせて貰っているから大丈夫。ボク、この街のこと全然知らないから、少しでも情報を仕入れたいんだ」

 拒絶というほどでもないが、笑顔でレイはフリントの提案を蹴った。

 数年ぶりに会う友人と楽しそうに話しているアレウスを見ていて、ここ最近精神的に抑圧されていたのだな、と気が付いたのだ。如何なアレウスと言えど、自分の想定外の事態が重なれば疲弊もしよう。ならば、気晴らしできる時に一気に楽しんで貰うのが一番だと脇で見ていて考えたのだ。

「そりゃ道理ですぁ。ですが、あっしらも外の情報に餓えているんですぁ」

「ならば人の連れを出汁にせず、真っ直ぐ訊きたい事を訊け。別に遠慮する柄でもあるまい」

 苦笑しながら、アレウスはフリントを促す。

 別段、アレウスとしても先程の話題を引き延ばしてねちねちと責めたいわけではないので、訊きたい事があるなら聞いた分ぐらいは答えても良いという気持ちにはなっていたのだ。

「へい。それでは御言葉に甘えて。ぶっちゃけ、“覇者”はソーンラントを制するとお考えでしょうか?」

「それは又思い切った事を聞いてくるな」

 アレウスは再度苦笑し、「西側は落としきるであろうな、何事もなければ、と条件を付けるが」と、真面目な顔付きで答えた。

「西側、ですか?」

 少しばかり不思議そうな顔付きでフリントは問い返す。

 タンブーロからは遠いとは言え、中原王朝で君臨する“覇者”の噂はそれなりに入ってくるのだ。噂通りの人物ならば、今のソーンラントぐらいならば軽く併合しそうだと思っていたため、少しばかり不思議に思えた。

「ああ。流石の“覇者”殿と云えど、ファーロス一門がほぼ勢揃いしている東を落とすには些か駒が足りておるまい」

 杯の中の酒を弄びながら、アレウスは波打つ表面を静かに見詰める。それは迷宮都市に居た頃から酒の場で見せていたアレウスが考えを纏めるために良く取っていた見慣れた仕草であった。

「駒……と、云いますと?」

「流石にな、ハイランドは兎も角、バラーを完全に放置して東には出られまい。帝国にも手当てをして、ジニョール河を国境としているカペー方面のスコントを攻めて来ないと想定していても牽制の戦力は必要。ソーンラント東部に兵を起こすには些か将の頭数が現状足るまい。アーロンジュ江北岸との連絡の事も考えれば、バラーを先ずは落としてから、万全の体制で東部を制圧しに来るだろうさ。……普通に考えれば、だが」

 理路整然とアレウスは自分の考えを言う。

 はっきり言ってしまえば、一介の傭兵や冒険者がなせる仕業ではないのだが、アレウスが明らかにその種の教育を受ける様な出自だとこの場にいる誰しもが理解していたので、すんなりとその考えを受け止めた。

「“覇者”は普通では無いとでも云うの?」

 アレウスの含みを持った台詞にアスティアが反応した。

「普通ではあるまいよ。あの時点で“覇者”殿がソーンラントを制圧すると想定していたものがどれほど居ると思う? 俺の兄上ですら想像すらしていなかったと思うがね。ギョーム程の大都市を捨てて迄北上する思い切りの良さを持っていると分かっていたのは、居るとするならば留学時代に仲が良かったと云われている“大徳”ぐらい、か?」

 再び杯の波打つ表面に目線を落としながら、アレウスは考えを纏めようとする。

「ギョームにそれ程の価値があるので?」

 情報通とは言え、北の生まれであるフリントには南の土地勘など無かった。故に、ギョームが大都市である事は理解できても、その戦略的価値までは理解できない。

 例え、南で生まれたとしても、戦略眼の素養がなければ理解できない事柄だが、フリントはそこら辺の最低限を今は抑えていた。そうでもなければ、盗賊組合で幹部など務める事はできない。

「あそこを抑えていればカペーに楔を打ち込んだままで居られるからな。逆に、あそこを抑えられると、カペーをほぼ捨てる事になる。ジニョール河を渡河して落とすのは至難の業だからな。逆を云うと、カペーを制した勢力がジニョール河を渡河してカカナンに侵略する事も難しいのだから、守りという面で見れば膠着状態に持ち込める。不可侵の密約でも結べればジニョール河に兵を張り付かせる必要もなくなるから、他を攻める余裕ができるという寸法だ。まあ、実際の処はどうだか知らないがね」

 脳内に南の地図を思い浮かべながら、アレウスはすらすらと答える。

 ジニョール河南岸のカペー地方も北岸のカカナン地方もアレウスはそれなりに歩いている。どこが攻め取りやすく、どこが守りやすいかを考えれば、“覇者”が思い切った一手を打った事を嫌と言うほど思い知っていた。

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