その18
八月の土日に予定が詰まりすぎていて、どうにも土曜日の投稿が怪しいです。
更新されていない場合は、暇が無かったのだなと察して頂けると幸いです。
「応。こっちも多頭蛇よりは恐ろしく増しだったが、着いて早々に行き成り鶏蛇の群れを相手にする事になるとは思ってもいなかったぞ?」
「不思議な事もあったものだな」
アレウスの抗議に、リ’シンは珍しくすっ惚けて見せた。
他の部族のことに口出しするわけにもいかないし、だからと言ってアレウスの抗議を完全に無視するわけにもいかない。故に、聞いているという姿勢だけは見せる必要があった。
「あら、又試練を受けてきたの?」
物好きね、と続けて呟きながらアスティアはアレウスの方を見た。
「“紅玉”の強者達に船が補足されてな。里まで曳航され、試練を受ける事になった訳だ。まあ、多頭蛇よりは楽であるが、それでも大迷宮以外で鶏蛇を相手にするとは思わなんだよ」
流石に昔馴染みに話を求められれば余り話したくない様であってもあらまし程度は話さざるを得ない。今回の場合はそれ相応の準備ができた状態での闘いだったのだ。勝って当たり前という状況下での闘いだったのだから自慢にもならないし、そこに至る迄の過程がアレウスとしてはある意味で計算外のところがあったから、大っぴらに人に話す事ではないと考えていたのだ。
「よくもまあ、旦那は然う云うモノと縁がありますなぁ」
感心するやら呆れるやら、フリントは何とも言えない表情で思わず苦笑した。
「別に好き好んでいる訳では無いのだがな、先程のダイオではないが」
軽く肩を竦めて、アレウスは杯を乾す。
実際、“紅玉”に出会ったとしても、試練を受ける事になるとは考えてすらいなかった。なまじ、リ’シンと親しく交流していたせいで、“江の民”にとって試練がどれだけ重いかを理解していたことも影響している。話が全ての部族に通っている状況で、再度試練を課そうと思う者が現れるとは想像だにしていなかったのだ。そこら辺のばつが悪く、隠し通していたかったのだ。
ただ、それを一から説明しない限り、アレウスがそう考えていたと誰も分かるわけがないのだから、現状ではアレウス当人の美学以外になんら問題は生じないのだが。
「私と致しましては、“碧鱗”と“紅玉”の二つの部族がこちら寄りにして頂けたのは有り難いですね」
アレウスの機嫌の悪さが那辺にあるか想像も付かない故に、ダイオは己の損得でアレウスが成し遂げた事を褒め称えた。
「我ら二部族が南岸を制しているからの。タンブーロの者にとっては有り難かろうて」
ダイオの言うところを即座に理解したリ’シンもそれに同意を示す。
アーロンジュ江南岸に勢力を張る主たる“江の民”の部族はリ’シンの率いる他の人類との交流を重んじる──当然、現在のソーンラントの民を除くが──“碧鱗”と他の民との付き合いに対して距離を置く“紅玉”の二つと言えた。他にも小さな部族が幾つか居住しているが、一つの部族でソーンラントと対抗できるほどの勢力はないために、自分たちと考えの近い方に従っている。北岸には鷹派が多いため、江を使っての交易を図るには二つの部族のいずれかの助力が必須である。陸路を使うにしてもソーンラントの意向を無視してとなると、江沿いに住まう“江の民”の助力はやはり必須であり、タンブーロ商人からすれば、二つの部族といかに友好的に付き合うかは死活問題と言えた。
“江の民”からしてみても、ソーンラントと距離を置きながら取引できる商人の存在はありがたいものだから、自分たちの事情を知って味方してくれる商人ならば友誼を深めたいところなので、ある意味で願ったり叶ったりであった。特に、妙に焦臭い現状ならば猶更である。
「江を使うにしても、陸路を使うにしてもソーンラントの介入を防ぐにはいずれかのお力添えが必要ですからな。どちらも味方して頂けるのならば、これ以上のことはないです」
リ’シンの持つ懸念を理解しているとばかりに、ダイオは少なくともマティロ商会は“江の民”の側に立つと暗に申し出る。彼としても、“江の民”と変に拗れる事が一番怖かったので、本当にアレウスの成し遂げたことは渡りに船としか言い様が無かった。
「残る問題は阿呆な老舗の始末と、“覇者”殿がソーンラントの地を制した場合、どう対応するか、ですかねぇ?」
盗賊組合としても、タンブーロが独立している状況が望ましいので残る懸念をフリントは挙げてみせる。
「貴方は良いじゃない。評議会に直接出る事無いから自分の意見を表明しなくて良いのだもの。私は本当にどうしたものかしらねえ」
お気楽な様子のフリントを羨むかの様にアスティアは大きく溜息を付いた。
「云いたい事云えば良いのでは無いか? お前を頭に据えているという事は、それに纏わる問題事も理解してのことであろう? 好き勝手にやったとして、誰が文句を云うのかね?」
事情を知るアレウスは嗾けるかの様に背中を押す。
「誰も云わないけれど、私がいやなの」
「成程、それは仕方が無い」
きっぱりとした拒絶の言葉を受け、アレウスは苦笑した。
アレウスも実家絡みの事で無責任に見える助言を貰ったら、似た様な反応を返すと自覚していたので深く突っ込める立場ではなかった。故に、曖昧にお茶を濁して会話を終わらせるしかなかった。
「でしたら、代理の方に出席して貰えば良いのでは無いですか? 今回の件に口を出す資格がないと云っておけば配慮して頂けるのでは?」
「私の出身を知っている人少ないのよね。色々と問題が出るから、結局自分で行くしか無いのよ」
事情を知った上でのダイオの助言もアスティアは拒絶せざるを得なかった。
親しい相手に訊かれたらちゃんと答えるが、そうでもない相手に自分から自分の事情を話す気はない以上、アスティアとしては明らかに何か事情があると分かる様な行動を取りたくないのだ。
「……柵って奴ぁ、面倒臭いですぁ」
しみじみとした口調でフリントはぽそりと呟いた。
「一番柵の薄い奴に云われてもな」
豪快に笑いながら、アレウスは杯を乾す。
隣に座るレイが阿吽の呼吸で直ぐに酒を杯に注ぐ。




