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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
再会
101/171

その17

「いや、こちらの商売の規模を大きくする機会ではあるのですがね。なんやかんや云って、代々続く老舗にはそれ相応の知識と経験の蓄積がありましてね。冒険者と如何に付き合うか、どう要望に応えていくべきか等我ら新参に比べれば伝統に裏打ちされた対処法というものが蓄積されている訳です。その無形の信用が数多くの冒険者を子飼いに出来る訳でしてね」

 そう言いながらダイオは力なく笑う。

 アレウスたちの徒党が現役だった頃は、ダイオ一人で店を切り盛りできた。何せ、アレウスたちと取引するだけで大きな黒字が確約されていたのだから、後は幾つか縁のあった徒党と専属契約を結んでいれば商会としての体裁を保てた。いずれは人を育てて老舗の大手商会の様に徒党の数を増やして儲けを揺るぎないものにしようと企んでいたのだが、アレウスたちの徒党が解散したことでその計画を前倒しにせざるを得なくなった。運が良いのか悪いのか、自分以外に仕事をこなせる人材を育てずとも潰れた老舗の中堅どころを上手いこと拾えたので強引に仕事を回せる様にできたのだが、それまでぼろ儲けしていたことから老舗が潰れてあぶれた徒党を想像以上に押し付けられることとなった。御陰で、ダイオはアレウスが立ち去って以来休むことなく商会の規模を大きくさせられた尻拭いで手一杯なのであった。

 その状況下で、また同じことを押し付けられた場合、自分が倒れて商会も倒れかねないと推測していた。そういう意味でもこれ以上老舗が勝手に自滅していくのは避けたい情勢であった。

「まあ、どこもここも受け入れの限界があるもんですぁ。ここ数年で調子に乗って潰れた老舗からあぶれた冒険者達の受け入れでどこもここも限度を超えた状況でしてねぇ。今、更に冒険者を多く子飼いにしている老舗が潰れたら、一体どうなんてしまうんでしょうなぁ?」

 まるで他人事とばかりにフリントは愉しそうににこにこと笑っていた。

 冒険者絡みの案件は全てフリントの担当であり、潰れた老舗の子飼いの中でも有望な徒党を所属している盗賊を通して密やかにマティロ商会へと送り込んだのは大体この男の行動が原因である。彼自身がマティロ商会に世話になっていたということもあるが、盗賊組合自体が他の有力な商会の力が増すことを嫌っていたと言う内情もあり、本来想定されていた数よりも多くの徒党が流れ込んだのである。

 盗賊組合が動いて有力商家以外の信用できる商家に流し込んだため、まだ余力のある老舗以外は既に飽和状態であった。

「何ともまあ、どう転んでもタンブーロが混乱するだけなのか。ソーンラントの策は随分と上手く嵌まってしまったものだな」

 呆れ果てた口調でアレウスは思わず感心の言葉を吐いた。

「向こうがそこまで計算していたものか怪しい処ですがね」

 先々のことを考えてダイオは頭を抱えながらも、冷静に状況を判断する。

 確かに、“江の民”をタンブーロに釘付けにすることを目的にしていただろうが、それによって河川の利を全て失ってしまっているのだ。オーグロ周辺に兵を出しているファーロス一門はアーロンジュ江に沿った所領を多く抱えている。態々己の後背を危険に晒してまで実行するかと言えば疑問に思えた。本来はタンブーロが混乱する程度の計画だったのではないのか、ダイオはそう判断した。

「連中の口車に乗ってしまった商会も真面な連中がいくらかは残っているだろう。それを探し出して早めに暖簾分けさせ、どうしようもない連中だけを処断するしかあるまいさ」

 アレウスとしてもソーンラントの介入さえなければどうでも良いことなので、思い付いた現状の対処法を提案するだけに(とど)めた。

 これ以上深く追求すれば、最悪実家の長兄に伺い立てなければならなくなる、そう直感したのだ。アレウスとしても、そこまで泥沼に嵌まることはお断りであった。

「面倒な事ですなあ」

 アレウスの真意は兎も角、現実的にそれが一番楽な手法と理解したダイオはその工作に如何ほどの力を注がなくては拙いか思い当たり、深々と溜息を付く。

「自分でその面倒事の世話をしたいのならば、此の儘なる様になるまで待てば良いさ」

 他人事とばかりにアレウスは無責任な台詞を宣う。

 最初からアレウスはダイオがそれを選ぶわけがないと思っている。

 むしろ、選ぶ様な男ならば付き合いを続けてはいない。それ程にアレウスはダイオのことを信用していた。それ故の軽口である。

「先々のことを考えれば、遣れる事は遣っておいた方が得策ですな」

 思い浮かんだ最悪の未来を避ける為、ダイオは覚悟を決める。

「面倒事が張り合いになるなら、放置がお奨めだぞ?」

 なおもからかいの言葉を投げかけてくるアレウスに、

「張り合いにはなりますが、他の愉しそうな面倒事を放棄したくありませんので」

 と、ダイオは笑顔できっぱり断言して見せた。

「左様か。ならば、俺はどうしたものかな」

 聞きたい事はあらまし聞けたので、アレウスは少し考え込む。「まあ、全てはリサに会ってからかな」

「あら、連絡していないの?」

 不思議そうな顔付きでアスティアはアレウスを見る。「貴方のことだから、全て準備万端だと思っていたのだけれど?」

「ラヒルを命辛々(からがら)脱出し、バラーで軟禁を喰らい、空けて直ぐに江を下ってきたのだぞ? 一応は文を出しては居るが、俺より早く到着するとは思えないのだが?」

「この御時世ですしねぇ」

 アレウスの台詞を聞いてフリントは相槌を打った。

 陸路で送られるとしても無事到着するとは限らないし、江は基本的に“江の民”によって封鎖されている。アレウスがよく使う傭兵組合の伝手を使ったとしても、都合良くそちらに向かう隊商や傭兵団がいるかとなれば運次第である。付け加えれば、今回アレウスはどう考えてもバラーからタンブーロまで考えられる中でも最短の道筋で到着していた。どう考えても、アレウスの乗っていた船よりも先に到着できるわけがない。

「むしろ、何で生き残っているのか不思議な話だな」

 多分真顔と思われる顔付きで、リ’シンはぽつりと感想を述べた。

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