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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
再会
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その16

「ここ数百年程度の老舗ならば分かるのだけれどね。タンブーロ開闢以来の老舗が主導していたのよね。本当にどうしたものかと困り果てたわ」

 アスティアとて同じ気持ちである。本当に何も知らない者たちならば兎も角、“江の民”にこの街が頼り切りなのを知っている評議会の常連が強行に言い立てたことに不審を覚えていた。

「お互いに組織内での発言力が地位に見合ってないですからねぇ。いやはや、本当にリ’シンの旦那には御迷惑掛けっぱなしで申し分けないですぁ」

 フリントも頭を掻きながら恐縮する。

 防諜の観点からこれほどまでの騒動になる前に盗賊組合がしかるべき措置を打つべきだったのだ。それがこの様なのだから、遊んでいたのかと罵られても致し方のない状況である。冒険者関連担当の幹部とは言え、責任が全くないとは言えない以上、フリントが肩身が狭く感じるのも致し方のないことであった。

「構わん。これも我の仕事故に。然るに、我が知り得る限り、斯様な事はそうそう起きるものでは無いと思うのだが?」

「そうでしょうね。少しでも頭が働けば、その様な真似をすればこの街の自治が失われると気が付くはずですからね」

 やはり困惑の中にあるリ’シンの問い掛けに、ダイオは肩を竦めて嗤ってみせる。

 明らかに何かを知った上で嗤っている、その様な雰囲気を漂わせていた。

「“江の民”の協力がなくなれば、ソーンラントに制圧されることが目に見えているからな。……すると、頭取の推測だと、それが必要にならない連中が阿呆を抜かしていた、と?」

 底冷えする様な冷え切った声色でアレウスはダイオに確認を取る。

 基本アレウスは迷宮都市で冒険者をしていたとしても余所者である。大迷宮に挑めなくなったのならば、ここ数年傭兵として働いていた様に余所に移るだけである。

 それでも、彼はこの街を好んでいた。自由闊達な気風はアレウスにとって実に心地よいものであった。

 そして、それは明らかにどこにも属していないからこその風潮であった。

 だからこそ、自らそれを放棄する様な真似をする者には強い憤りを覚えた。

「推測に過ぎませんがね。ただ、外でも商売の手を広げている商会の一つが今回の騒動の中心ですのでね。怪しみたくもなりますな」

 アレウスを宥めるかの様に、ダイオは笑い飛ばして見せた。

 ダイオとて当然タンブーロの自治を売り飛ばそうとしている者たちに怒りを覚えている。ただ、アレウスとは違い、商人としてそれが大きな利を呼ぶことになるのならば理解は示す。納得できるかどうかは別として、己の利を追わない者を信用しきれないからだ。

 ただし、彼自身の好みは独立独歩であり、それが可能なのに強大な相手に媚びる者を嫌う。

「我の方も幾つかの商会が焦臭いと踏んでいる。流石にソーンラントには入り込めぬ故、ソーンラントに関わる船を全て追い遣ることぐらいしかできぬがな」

「ああ、それで最近江を下る船がなかったのか」

 アレウスは思わぬところで思わぬ答えを拾うこととなって得心するとともに困惑を覚えた。全く関係ないと思っていた事柄が実は縁が深いところと関係していたとあれば何事かと首を捻りたくもなる。

「タンブーロもソーンラント側との連絡船がなければ面倒な事になりますけれど、丁度ソーンラントがオーグロ近郊に軍を展開しておりますもの。“江の民”が過剰反応を起こして江を封鎖することに誰も違和感を覚えませんわ」

「理屈を聞けば納得もいくのだがな……。ん、待てよ? これも主従が逆、なのか?」

 アスティアの説明を聞いてアレウスは何か閃きかけた。

「どういう事ですぁ?」

「タンブーロを乱すことで“江の民”の動きを封じ込める、それに主眼が置かれた策謀ではないのかな? それによって、ソーンラントはオーグロまでの陸路の安全を図れる。上手い事転んで、タンブーロまで手に入れば良し、手に入らなくとも“江の民”の妨害を受けずに東部方面を掌握できるのならばそれはそれで良し。その様な処ではないかな?」

 アレウスは思い付いたことを順序だって組み上げた。何となくそれらしくなったが、実際の処、タンブーロへの工作が主か、オーグロ近郊に攻め上がるのが主なのかまでは判別付かなかった。どちらにしろ、ソーンラントにとって東部を安定させるのが目的だったのならば、どちらが上手く行っても問題なかっただろう。アレウスはそう判断していた。

「我らは上手く踊らされた、と?」

 筋の通った説明だったために、リ’シンは思わず唸り込んだ。

 リ’シンも又、何か不自然なものを覚えていながらも動かざるを得なかったのだ。

 アレウスの説明が正しいと直感的に確信していた。

「結果的には然うだが、ソーンラントが考えていた最良の結果は得られていまい。その上、今のラヒルが落とされたのだ。収支は大赤字であろうよ。今の今になって、相手の動きが杜撰に見える様になったのならば、この絵図面を描いていたものとの連絡が取れなくなっているのやもしれん。まあ、俺の推測に過ぎんが、な」

 アレウスは自分で組み立てた推測を元に、それを今の状況に当て嵌めて見せた。大体の断片がすんなりと欠けている部分に当て嵌まり、何らかの形でソーンラントが工作を仕掛けていたことを心中で確信する。

「筋は通っていやすねぇ。その証拠が幾つか見つかればこの問題は片付きやすねぇ」

 そう言いながら、フリントはこの会合が終わってから直ぐさま動くことを決意する。アレウスの推測が真実であるならば、盗賊組合の失態というものですらない。もっと最悪なものである。挽回するためにも、アレウスの推測が正しいのか間違っているのかを確定できる何かを手に入れなければ組合の面子が立たない。上に立つ者の一人として、これ以上の失態は防がなければならなかった。

「又、老舗が潰れますか。その後始末が面倒なんですがねえ」

 ダイオは思わず天を仰いだ。

 フリントとは違い、ダイオは己の商会に責任を持つだけである。故に、彼は自分のことだけを気にし、それがどうなるかを想定していれば問題ない。

 問題ないのだが、それでも自分の手に余る事態を想定せざるを得ない場合、愚痴の一つや二つは言いたくもなった。

「老舗が潰れることに問題があるのか? ちと意外だな」

 アレウスにしてみれば、いけいけで商会を大きくしてきていたダイオの姿しか知らない。その彼が、同業他社の失敗を嘆くなど今日この日まで想像も付かない話であったのだ。

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