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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
ラヒル強襲
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その1

 ソーンラント王都ラヒル、実はラヒルの名を持っていた都市は一つだけではない。ソーンラントは首都をラヒルと呼び慣わす習慣があり、遷都(せんと)すると同時に旧名か新しい名を付ける。旧都オーグロが良い例で、最初はラヒルと呼ばれていたが遷都と同時にオーグロと命名された。

 元来、ソーンラントの支配層はオーグロ近郊の部族であり、西へ西へと勢力を拡張してきた。その都合、領土全域を支配するのに東の果てでは不便だったために徐々に首都も西へ西へと遷移(せんい)してきた。

 その過程で流れ込んできた中原の文化や悪名高き人類至上主義思想の所為(せい)で本来ならば仲の良かった“(かわ)の民”と“山の民”と相争うこととなる。そして、争い始めてからは安全を求めて西の果てに都を移したのである。

 だが、南西に“帝国”という新たな脅威が生まれたことにより、ソーンラントは方針の転換を再び図った。旧都オーグロ方面を安んじ、王都を再び東寄りに遷都するという大方針である。

 一見すると場当たりな戦略にも見えるが、一つ一つの方針転換に百年以上の間があることを考えれば、時勢に合わせた柔軟な対応が出来ているとも言えた。

 但し、最後の大方針を決めた時点で中原王朝に“覇者”が君臨していたと言う事を忘れていなければ、と後世の歴史家ならば注を入れるであろう。



「いやあ、帰ってきたって感じがするね」

 レイは荷物を降ろすと上機嫌に言った。

「ここ最近の根幹地だからな、この宿」

 アレウスもそれを否定することなく、「茶、入れるか?」とレイに尋ねた。

「貰う~」

 嬉々としてレイは答え、ふと正気に戻り己の姿を見る。

「ン、どうした?」

「……最近ずっと鎧着っぱなしだったから、今の今まで違和感を抱かなかった。先ずは着替えてくる」

「ああ、四六時中当たりに気を使っていたからなあ」

 アレウスも少し鼻を利かせてからばつが悪そうに同意した。ミールからここに戻るまで着替えたり、身体を拭く余裕がなかったのだ。

 結局、身の安全を優先したのか商人はラヒルへの護衛をアレウスやレイを含めた傭兵全員に掛け合ってきた。幾人かはアレウスの言った最初に請け負ったネカムまでの料金でそのまま引き受けると言う案に不満たらたらであったが、

「ミールで他の仕事を受けるよりも、さっさとラヒルに出た方が得策であろうよ。その上足代が出るのだ。仮に虎豹騎と出会うとして、ミールとラヒル、どちらで出会うのが得策かな?」

 とのアレウスの指摘を受け、渋々ながらも全員で請け負うこととなった。

 当然の事だが、ラヒルまでの道中は要警戒であり、誰も彼もが精神をすり減らしていた。

 万が一、億が一ぐらいの可能性とは言え、再び虎豹騎と道中で出会う可能性がある以上、気を張り続けるのは当たり前であり、道中は誰もが生きた心地を実感できていなかっただろう。

 勿論、アレウスを除いて、だが。

「直ぐ戻るから」

 レイは直ぐ様部屋へと戻る。

「まあ、俺も普段着に着替えるから焦ることはない」

 苦笑しながらアレウスは自分の割り当ての部屋に入る。

 身につけた甲冑をてきぱきと外してゆき、鎧直垂(ひたたれ)を脱ぐ。

「……こりゃ、早めに洗濯しないと臭いきつそうだな」

 流石のアレウスも思わず鼻に飛び込んできた悪臭に顔を(しか)めた。

 手早く洗い物籠に着ていたものを突っ込み、宿に置いていた普段着を身につける。

「レイでなくてもこりゃいかんなあ。どうにも戦場の思考に切り替わりすぎている」

 とりあえず茶を入れたら公衆浴場にでも行こうと考えながら、茶道具を用意し、共有の部屋へと出る。

 予測通りレイはまだ戻って居らず、アレウスは湯を入手するために部屋を出る。

 それなり長い間滞在した宿の廊下を鼻唄交じりに移動し、台所へと至る。

「茶を入れるための湯が欲しいのだが?」

「はい、只今」

 傭兵や冒険者が定宿にする宿屋は大抵表通りに面している酒場が四六時中開いているため、裏の宿に泊まっている客に対して宿代に見合った奉仕(サービス)を提供している店が多かった。流石に風呂が付くとまでなると余程の宿でしかないが、茶を入れる為の湯を分けて貰うや、酒場では無く部屋で飲み食いをする程度ならば木賃宿でもない限り大概提供していた。

 十分な湯を水入れに分けて貰い、アレウスは足取りも軽く部屋に戻る。

 未だに共用部にレイは戻って居らず、アレウスが出て行った時と部屋は同じ状況の儘だった。

 さしてその事を気にすることもなく、アレウスは愛用の茶道具をいそいそと取りだし、またもや鼻唄交じりに手慣れた手つきで急須に茶葉を入れ、湯を注ぎ込む。二人分の茶碗を用意し、暫し待った後に急須から茶碗へと注いだ。

 軽く自分の分を味見して満足した後、椅子に座って窓から外の光景を眺めた。

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