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アレウス廻国記  作者: 高橋太郎
虎豹騎
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その1

ダークファンタジー書く気力が今の精神状態だとないと悟ったので、気楽なモノを書いてみようかと。

尚、内容が気楽なものとは言っていない。

 その日、アレウスは朝から嫌な予感が止まらなかった。

 少なくとも昨夜までは何ともなかった。

 朝起きてから、何かチリチリするような感触が後ろから迫ってきている、間違いなくそう感じていた。

 後ろから感じると言う事は前に進み続ければそれから(のが)れられるかも知れない、そう思っていた時期もあったが、刻一刻(こくいっこく)とどんどんそれが迫ってきているという強迫観念めいたものが心中に湧き起こるのを抑えられなくなるに至って、アレウスは(あきら)めた。

 相棒のレイが何か言いたげそうな顔付きで自分を見ていたが、今は一刻を争う。

 休憩を宣言した雇い主の下に向かい、

「悪いが俺は抜ける。違約金が必要なら払う」

 と、宣言した。

「何を云っているのだ? 契約は──」

 (なお)も何か言い募ろうとしている雇い主に向かって、アレウスは金貨の入った袋を投げつけ、己の荷物を(まと)めて先を急ごうとした。

「あーあ、良い儲け口だったんだけどなあ」

 大きな溜息を付きながら、名残(なごり)惜しそうに同じく金貨の入った袋をレイは雇い主に押し付けた。

 二人の行動を見て一部の傭兵達はざわめきながらも慌てて違約金を捻出しようと荷物を引っ繰り返し始める。

 その異常な雰囲気に何事かと状況を理解出来ていない傭兵達が浮き足立つ。

「それでアレウス、どうなんだい?」

 女と見紛(みまが)うような中性的な美貌は異性に耐性のない男相手ならいとも容易く(とろ)かしてしまうだろう。そんな(かんばせ)で笑顔を浮かべ、レイはアレウスに尋ねる。

「昨日までは何ともなかったのだがな。今日に入ってから後ろの方からヒリヒリとする何かが迫っている感じがする。……まあ、此の儘直進すれば確実に死ぬだろうな」

 大したことでもないと言いたそうな表情でアレウスは肩を(すく)めながら予見する。

 その言葉を聞いた途端、慌てて違約金をひねり出していた傭兵達は有ろう事か数など数えず金を無造作に袋へと詰め込み、依頼人にその袋を叩き付けると、急ぎ身支度をしてアレウス達に続く。

「ま、待て! 儂は契約破棄を許してはおらんぞ?!」

 雇い主の商人は立ち去ろうとしている傭兵の数の多さに驚き、(すが)り付くかのように追いかける。

 アレウスは真顔の儘、

「金で命は買えん。勝てる相手なら兎も角、絶対に負ける勝負はお断りだ」

 と、商人にそう言い放ち先に進もうとした。

「まあ、待ちなよ、アレウス。生き残れれば問題ないんだろう?」

 何か思いついたのか、レイがにやりと笑う。

「明らかにもう時間は残されていないぞ?」

「休憩を取りやめて急いで進んでも?」

「直進し続ける限り、何者かに肉薄され捕捉される。そうなったら最期だ」

「じゃあさ、こういうのはどう?」

 レイはアレウスと商人に視線を向け、「この先に分岐があるから、そこでアレウスが安全だと思う方に暫く進もうよ。何人かに安全じゃ無いと思う道の方を見張って貰っておいて、その後の行動はその時に決めるってどう? アレウスの云う通りになったら、違約金を返して貰った上で、最初の約束通りの報酬を貰う。逆に何事もなかったら違約金を返さないで良いし、報酬も要らない。その上で、今すぐに急いで分岐まで向かう。それが僕達が出せる最大限の譲歩だけど?」と、交渉に見せかけた恫喝を仕掛けた。

 逃げだそうとしていた傭兵達も、レイの提案に商人がどう答えるかを見守るために足を止めた。

「いや、だが、しかし、だなあ」

 猶も何か言わんとする商人に対し、

「悪いが時間はない。レイの提案を勝手に乗るか乗らないかだ。俺は行かせて貰う」

 と、アレウスは答えを待たずに先を進む。

「先に云っておくけど、アレウスの予感が外れた試しはないよ? それを知っている連中が慌てて付いてきているわけだから、護衛は半分抜けると考えた方が良いね。この先の道中、何事もなければ半分でも大丈夫だろうけど、何か起きるなら全員(そろ)っていても怪しいと思うんだよなあ? どちらにしろ、ここで休憩していたら全滅は確定しているから、アレウスが足を止めるまでは一緒に来た方が良いと思うよ。あ、これは善意の忠告だから、情報料を寄越(よこ)せとまでは云わないさ。ただ、あの世までお金を持って行ける(すべ)を持っていないなら、急いだ方が良いと思うよ? 多分、今日の調子からして、アレウスはかなりぎりぎりまで云い出さなかったワケだと思うしね」

 アレウスの態度を見て、レイは交渉の続行を諦めた。

 ただ、レイも海千山千の傭兵である。完全な没交渉にならない様に、相手に敢えて情報を与えることで自分が望む行動に出るであろう意識誘導をそれとなく仕掛けて立ち去る。

 狙い通り、それまで何が起きたか分かっていなかった傭兵達も何の相談もなく一斉にアレウスの行動に追随した。

 こうなれば雇い主の方が傭兵に合わせざるを得なくなる。

 レイは密やかにほくそ笑みながら、見かけ以上の早足で行くアレウスに追い付くため小走りで先を急いだ。

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